第7話 1-A(6)体育大会、文化祭

「いっちばーん!」


 5人しか参加していない百メートル走だしなあ。速いのは確かなのだろうけども。


 体育大会がマリナ無双となるのはわかりきったことだった。オープンβの仮想世界コースにダイブするアウトドア派や体育会系は珍しいだろう。他には、あの野球部員くらいか。


「パン食い競争で、焼きそばパンしかないというのはどうなのかな」

「自販機からひとつずつ取り出して準備した俺の苦労を茶化すな」

「ショッピングモールにパン屋があったぞ?」

「なん…だと…」

「ユキヤは、もう少し浅く広くを心がけた方がいいな」

「お前の交際遍歴のようにはいかないんだよ」


 結局、一番盛り上がったのは、玉入れと長距離マラソンだった。少人数でも、結構長時間競えるからな。


「んー、やっぱり物足りないなあ。夕方前に大会終わりそうだし」

「そんなマリナに、特別ゲストの対戦者だ。運営が呼んでくれた」

「え!?」


 屈強なアバターが5人登場する。中学生設定ではない、元の身体情報の姿だ。


「ケットシー競技イベントで参加いただいているプロの方々だ。辺境世界で得たアイデアのお礼だそうだ」

「え、や、すごいけど、プロとやるの?」

「競技は障害物競争な。動画撮影するから手を抜くなよ?」

「PV撮影かああああ!」


 ま、動画のウリはマリナになるだろうな。なにせ現役JKの中学生アバターだ。事後でも承諾してくれればいいけど。モザイク処理は面倒だって聞いたし。



 文化祭は10月下旬だ。こういうイベントは準備期間が一番楽しい…はずなのだが。


「結局、クラスでは展示になりましたね」

「外部からの来場者がいないからな。ユーザもウチのクラスしかいないし」


 その展示も、この人工島の各地を解説したポスターを作って掲示、とかだ。ショボいことこの上ないが、サトミは海岸近くのビルについて熱心に書いていた。俺は…裏山の川の生態についてだな。


「せんせー、クラス委員のユキヤくんが手を抜いてまーす」

「お前らー、ちゃんと予定立ててやれよー。前日に泊まりとかはダメだからなー」


 おひさしぶりですね、担任AIの先生。入学式以来でしたか?


「やっぱり、食べ物系の出店がやってみたかったですね」

「料理できないことがいろんなところに影響してるな。とはいえ、『料理スキル』実装はえらくリソース食うと思うから、改良点として報告しづらいというか」

「飲み物にしても、自販機のジュースを並べるしかないねえ」

「辺境世界の料理どころか食事なし、オレンジジュースとコーヒーだけってのよりはだいぶマシだけど…」

「君達、そんな世界によく1か月もいたねえ…」

「サトミは通算2か月、ユキヤさんは1年以上ですよ。まあ、五十歩百歩のあたしが言うのもなんですが」

「もともと必要ないからな。割り切ればどうということはないさ。この世界のように」


 ユーザのうち俺達4人だけは、既に半年以上『学園』世界で暮らしている。今のところ、何も問題は起きていない。システム的にも、精神的にも。


「まあ、今回の文化祭のメインは後夜祭ステージだね。君達、楽しみにしていてくれたまえ」

「はい、もちろんです!」

「今回のために、3曲分の作詞作曲と練習させられた…」

「あの、私も楽しみにしています!約束ですから!」


 グラウンドの特設ステージでやったライブは、成功のうちに終わった。ちなみに、ここでも動画撮影された。俺の顔はモザイク入れてくれよ。


 なお、キャンプファイヤを囲んだフォークダンスも検討したのだが、薪は裏山で採れるものの、火を使うことができずに断念した。魔法はもちろん、マッチもライターも見つからなかった…。

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