エピローグ

 似て非なるクリスマスツリーの前で撮ったスクリーンショットの壁紙を背景に、今回のダイブの感想・要望を高機能エディタで文書化していく。

 辺境世界内でメモをとっていたとはいえ、普段の生活サイクルの合間にちょこちょこ書いていくため、結構時間がかかる。


 サトミとマリナが去った後も俺は辺境世界に滞在を続け、有効期限1月30日ジャストでログアウトした。割と力作である2代目釣り竿を置いていくのが残念だった。釣りは現実世界ではほとんどやったことがないのに、不思議なものだ。


 カレンからは予想通り、牧野経由で連絡があった。結局、牧野達と同じ事務所からデビューすることになったらしい。カレンの本来の名前を知ったのだが…ああ、これは芸名を工夫する必要があるな。親御さんのインパクトが強すぎる。


 タクトさんからは、高機能エディタのアプリ取得権が届いていた。タクトさんが使っていた、現実世界でも使えるセットのものだ。あの適当な支援のお礼としてはいささか高価かと思いつつも遠慮なく受け取り、こうして利用している。近いうちに、羽根ペンを作ってみよう。


 ミノルさんとチユリさんからもメッセージが届いていた。ミノルさんは、俺には強かったはずのポーカーでチユリさんに負け続けているらしい。チユリさんは『子供ができたらユキヤって名前もいいかも』とか書いている。勘弁して下さい。


 びっくりしたのは、たかだか数時間しか交流のなかった、小学校の先生と『あの2人』からもお礼のメッセージが届いていたこと。運営経由で送ってきたらしい。

 先生からは『保護者面談で有効となりそう』とのこと。斜め上の展開か。あの2人からは『永遠(とわ)の契(ちぎり)を誘いし貴男(あなた)に幸あれ』…えっと、これ返信しなければならないのかな。


 結局、書き上げるのに1週間ほどかかってしまった。もちろん、現実世界の時間で。文書をまとめるためだけにまた辺境世界にダイブするのはさすがに本末転倒だ。

 運営と、連絡先をもらった人々に文書を送る。何かの参考になればいいんだけど。あの2人のオフライン世界の構築に資すると思うと複雑な心境だが。



 あれから1か月。サトミとマリナから『そろそろまた辺境世界に行かないか』という連絡が来る。ふたりとも、今度は60分フルでダイブする気のようだ。1年ももつかなあ。10分くらいで飽きて利用料ムダにしなければいいけど。


 そんなことを考えていた時、辺境コースの運営からメッセージが入った。


 『御相談があります』、と―――。

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