15文字以内で

相内京子との会話を終えて校門をくぐると、そこには嘉木真下がいた。

先ほどの会話を思い出す。

こいつは相内さんに焚き付けられて傷を舐めあうことを選んだ馬鹿なのだろうか。

「今日は逃げないんだね、笹井君」

「思うところがあってな。なにか用か」

「連絡先交換しよう」

「しねえよ」

こいつに連絡先なんて教えたら時間を問わず姉貴に対する恨みつらみが送られてくるに違いない。

そんなことになったら、俺はスマートフォンを叩き割ってしまう。

「そんなに嫌がらなくても」

「嫌だ。俺はお前と関わりたくない」

「頑なだね」

「同族嫌悪だ」

俺とお前は似てるから。

そのことに嘉木は気づいているのだろうか。

「類ともにならない?」

気づいてはいるようだ。

しかしそれではまだ近寄りがたい。

「類とも同士で傷を舐めあうなんて馬鹿らしいと思わないか」

「そういう処世術だってある。そうしなければ先に勧めないこともある。

ねえ、笹井啓介君。君は一度きちんとお姉さんと向かい合うべきだ」

他人が知ったような口をきくなよ。

俺がなにもしてないと思ったか?

姉貴に反発するばかりでガキみたいにヤダヤダ騒いでるだけだと思ったか?

それこそ馬鹿みたいだ。

「お前は知らないようだし今後も知らなくていいが、俺と姉貴は仲は悪くない」

「え?」

「そういうことだ」

踵を返して校門を後にしようとした。

そうするつもりだったのに、後ろから思いっきり腕を掴まれた。

「なんだよ」

「嘘だ!!!」

「はあ?」

なんで、こいつは、嘉木は、そんな必死な顔をしているのか。

なんでそんなに泣きそうな顔をしているのか。

「だってあんな完璧な人なんだよ? そんな人が傍にいたら劣等感とかないの?

仲が険悪になったりしないの? 辛い思いとかいっぱいしたでしょ???」

「残念だが、俺が嫌いなのは姉貴じゃない。

お前みたいに姉貴を通してしか俺を見ないで、勝手なことをいう奴が嫌いなんだ。

たしかに劣等感が全くないかといえば嘘になるが、姉貴だって完璧じゃない。

出来ないことも、ダメなところもある。それをひっくるめてなんでもいいって笑いあえるのが家族なんでな」

ちょっと嘘も混じっているがまあいい。

嘉木に本当のことを教えてやる義理はない。

でも概ね本当だ。

姉貴はすごい。でもすごくないところもあれば逆にすごいダメなところもある。

比較されるのは不愉快だが、それは比較する奴が悪いのであって姉貴が悪いのではない。

だから俺は俺に姉貴の話をしてくる奴のだいたいが嫌いなんだ。

それはだいたいであって全部ではない。

むしろ冬弥みたいに姉貴が好きすぎて俺と姉貴を一切無関係くらいの扱いをしてくる奴なら構わないんだ。

そういう繊細な感情、わからないだろうな。

嘉木も、相内さんも。

「じゃあわたしに対する同族嫌悪ってなに」

「性格曲がっちゃってることだけだよ。姉貴に対する嫌悪感みたいなものには一切共感しない」

「そんな」

ついに嘉木がぼろぼろと泣きだす。

こんな目立つ場所で泣かれてもな。

かといって俺にはどうすることもできない。

だってそうだろ。

嘉木の心情に同情はすれど同調はしない。

「俺よりむしろ嘉木の方こそ姉貴ときちんと話すべきだったんだ」

そうすればここまで嘉木の感情はもつれなかっただろうに。

でもまあ俺がなにを言っても今更だろう。

俺が嘉木を更生してやる義理なんて、それこそないのだから。

「よく、考えるんだな」

そう言って嘉木の手をほどいて、今度こそ家路についた。

なんつーか、すんごい後味悪いけどそれもこれも仕方のないことなのだろう。

姉貴は一見完璧な人間に見えてトラブルメーカーであり、その彼女の引き起こすトラブルに俺は17年間ずっと巻き込まれ続けてきたのだ。

だからもう慣れてる。

誰かに嫌悪されるのも、泣かれるのも、仕方ないんだ。

しかた、ないんだ。

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