あと3時間で恋に落ちる予定です

放課後、教室で宿題や予習復習をしているとガラッと扉が開いて同じクラスの派手な人たちが入ってきた。

興味ないので無視していると取り囲まれる。

なんだろうなあ。

面倒だなあ。

「新崎君さあ、硯さんとどういう関係?」

「クラスメイトだけど」

「それだけ? 授業中いちゃいちゃしてたみたいだけど」

「またその話? クラスメイトと会話しただけでそこまで妄想できるなんて猿かなにかなの?」

「は? 馬鹿にしてる?」

「うーーん、馬鹿だとは思ってる」

そう素直に言うと彼らはあからさまに機嫌を損ねたようだ。

本当に面倒だなあ。

誰か先生呼んできてくれないだろうか。

これだけ囲まれてたら助けてくれるかもしれない。

無理だろうけど。

「ちょっと新崎君調子乗ってるんじゃないの?」

「馬鹿はどっちだって話よ」

「この人数相手にあんまりえらそーなこと言わない方がいいよ」

彼らはなにが楽しいのかゲラゲラ笑っている。

こっちは何一つ楽しくないんだけどなーーー。

黙っているとまた彼らは怒りだした。

「ちょっとなんか言いなよ」

「ビビっちゃった? 怯えちゃった?」

「それとも一人じゃなんにもできないんかな。いつもつるんでる笹井も降田もいませんよーー?」

いい加減馬鹿らしくなったのでため息をついてから口を開く。

本当に馬鹿なんだなこいつら。

同じ学校に通っていることが恥ずかしくなってきた。

「あのさあ」

「ああ!?」

「クラスメイトひとり相手に複数人で絡んで嘲笑して恥ずかしくないの?」

「なっ」

「先生!!! こっちです!!!」

廊下から聞いたことのある声が聞こえた。

そしてどたばたと足音。

彼らは面倒になると気づいたのか舌打ちして去っていった。

そして声の主が教室に入ってくる。

「なにしてんの、いいんちょう」

「こっちの台詞だけど」

いいんちょうは機嫌の悪い顔でこちらを睨んでいる。

どうやら助けてくれたのだろう。

ありがたいような、申し訳ないような、どうでもいいような。

「新崎君、怪我は?」

「ないよ。ありがとう。

……真っ先に怪我を疑うってことは、いいんちょうはいつも怪我をさせられているの」

「どうでもいいでしょ」

それはどうでもよくない。

女の子に怪我をさせるなんてなにを考えてるんだあいつら。

やっぱりこっちから先に怪我させとけばよかったかな。

まあ、それやっちゃうと後々面倒なんだけど。

「なんでいいんちょうはおれのこと助けてくれたのさ」

「新崎君になにかあると宿題を自分でやらないといけない」

「それだけ?」

「目覚めが悪い」

そりゃそうだ。

自分のせいで誰かが傷つくのは嫌だ。

すごく嫌だ。

でもきっと明日か明後日かにはおれのせいでいいんちょうは嫌がらせを受けるのだろう。

いいんちょうは気にもしないだろうけど、そんなのはおれが嫌だ。

「いいんちょうはもう少し自分を大事にしてほしいんだけど」

「それは新崎君も同じでしょう」

「おれはいいんだよ。男だから」

なにそれ、といいんちょうは馬鹿にしたような顔をした。

いいんだ別に。そういう男の矜持みたいなものを女の子に理解してもらおうとは思わないから。

「まあいいわ。宿題終わった?」

「終わった。なんなら予習も途中までできてる」

「じゃあ私が宿題写している間に終わらせて」

「あいあいマム」

「誰がマムか」

「あいあいレディ」

「よろしい」

いいんちょうは大分サバサバしているように思う。

もうちょっと心配してくるのかと思いきや、もう宿題の話だ。

いいんだけどね。ねちっこい人は好きじゃない。

なんていうとけいすけと仲がいいのは変な気がするけど。けいすけしつこいし。

「ねえいいんちょう」

「なに」

「いつかあいつらにやり返すときはおれも混ぜてね」

「嫌よ」

にべもない答えだった。

もう少し悩んでほしい。

そう言うところ嫌いじゃないですけどーーー。

いつかいいんちょうはおれの気持ちに気が付いてくれるんだろうか。

もう気が付いていていいように浸かっているだけかもしれないけど。

それはそれで構わない。

そのうち飽きたら捨ててくれ。

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