待ち伏せ失敗?

「そこでなにしてんだ」

「あら、ばれてしまいましたか」

放課後、帰ろうと教室から出ると相内さんがいた。

相内さん、相内さんでいいんだよな?

「陸上部のマネージャーやってる1年生だったよな? なんか用か。

姉貴関連なら話は聞かないし、なにも話さないぞ」

そうまくしたてると相内さんはくすくすと笑った。

どうにもこの子は嘉木とは別の意味でキャラクターがつかめない。

直哉は穏やかな優しい子だと言っていたが、どう考えたってそれだけの子じゃないだろ。

「祥子先輩の話ではありませんよ。嘉木先輩の話です」

「それならもっと聞きたくない」

「嫌いなんですねえ」

「ああ、嫌いだね。同族嫌悪ってやつだ。俺は俺に似たやつが大嫌いなんだ」

へえ、と相内さんは感心したように俺を眺める。

なんだよ。同族嫌悪って気づいていたことがそんなに意外か。

まあ、今日気付いたっていうか、言われて知ってしまっただけなんだが。

「ではなんの話なら私に興味を持っていただけます?」

「相内さんに? 直哉や冬弥の話とか?」

「他の男性の話はしたくないのですが。啓介先輩がそれでよいというならそうしましょう。

部活が始まるまでの時間、お付き合いください」

そう言って相内さんは俺に背を向けた。ついてこいということだろう。

なんつーか、最近女難の相でも出てるんだろうか。


相内さんに連れてこられたのは校庭にある校長が話すのに使う台のところだった。

この台、名前なんていうんだろうな。

「で、なに」

「話を聞く体制にはなっていただけるんですね。ありがとうございます。

嘉木先輩は啓介先輩のことずいぶんお好きのようですね」

「俺は嫌いだがな。ていうかその話は」

「まあまあ。嘉木先輩が啓介先輩に執心なさる理由はご存知ですね?

私も存じております。私、嘉木先輩と同じ中学で、そのときから陸上部のマネージャーでしたから。

嘉木先輩は学校の部活に選手としては参加していませんでしたけど、マネージメント方法なんかのコーチ的なことをしてくださっていたんです。

祥子先輩のこともそこで聞いたんですよ」

黙って続きを促す。

まさか相内さんと嘉木が知り合いだとは思わなかったけど、陸上つながりであることを考えればそう不思議でもない。

ご都合主義とか主人公補正という言葉が思い浮かばなくもないが忘れておこう。

「祥子先輩は味方も多いですが敵も多い方ですね。

私はどちらかといえば味方ですが、嘉木先輩のように疎んじる人も少なくないでしょう。

それは啓介先輩もそうでしょうね。でもだからといって私は啓介先輩や嘉木先輩を嫌ったりはしません。

むしろ啓介先輩のことは好きです。正直に言うと引かれてしまいそうなので簡易に申し上げますが、かわいいですよね」

「そいつは告白か? そういうのは直哉に言ってやれよ。

俺はお前に興味ない」

「ご安心ください。私も啓介先輩と付き合おうとか考えていませんから。嘉木先輩と一緒ですよ。

ちょっと近くから眺めていたいだけです」

俺は珍獣かなにかだろうか。

俺なんかより姉貴を眺めていた方が余程面白いだろうに。

だって主人公は姉貴なんだから。

「嘉木先輩のことを嫌わない理由も同じようなものです。

でも不思議ですね。嘉木先輩と啓介先輩は互いに傷をなめ合うようになると思いましたが。

嘉木先輩はだいぶ啓介先輩のことをお好きなようなのに、啓介先輩は嘉木先輩を嫌っていらっしゃる。

同族嫌悪でしたっけ?」

「ああ嫌いだ。ああいう失礼でものをずけずけ言うのは姉貴だけで十分だ。

それに俺は傷をなめ合うのなんか大嫌いだ。そんなことをしたって、傷口に雑菌が入って治る傷も治らない。無駄だし余計に悪化する。碌でもないな」

そう言い捨てると、何故か相内さんは益々楽しそうにした。

なんだかなあ。

この子、言っても言っても響かない感じあるんだよなあ。

なんていうか、怖い。

「ふふ、啓介先輩のそういうところ素敵ですね。

じゃあ、嘉木先輩に啓介先輩の存在を教えたのが私だって言ったらどうします?」

「は? どうもしねえよ。そんなことして相内さんになんのメリットがあるんだよ」

「面白いじゃないですか。傷ついた人同士がくっついたらどうなるのかなって」

うっわ、性格悪。

直哉は女を見る目を高めた方がいい。なんなら交換した方がいい。

ていうかそんなこと素直に俺に言ってどうしたいんだ。

「ま、どうもなりませんでしたけどね。嘉木先輩はやり方が稚拙すぎましたし、啓介先輩はひねくれすぎです。

なかなか思うようにはなりません」

「当たり前だろ。誰も彼もお前の手のひらで踊るわけねえだろうが」

「その通りです。それではそろそろ部活が始まりますので失礼しますね。お付き合いいただきありがとうございました」

「別に構わねえけどさあ。性格は治せ? 友達なくすぞ?」

「ご忠告ありがとうございます。類ともいるんで大丈夫です。では」

相内さんはぺこっと頭を下げると、運動部の部室棟の方へ駆けていった。

どうして俺の周りにはああいう性格の悪い女しかいないんだ。

もう少し可愛げのある女子はいないのだろうか。

「類ともなのかな」

なんかもため息しか出ないから帰ろう。

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