第19話 スケッチブックに描くもの
「なあ、ちょっと見せて。スケッチブック」
「えー。まあ、いいけど辛口な批評はやめてよ!」
「わかったって」
スケッチブックを取り出して、涼に渡す。それからスケッチブックの絵を見ては話をしてそのうち、別の話題になって行く。涼と話を続ける。いつまでもこの時間が続けばいいのに。
「じゃあ。な!」
「うん」
うちの前でいつもの様に別れた。
「ただいまー」
部屋に入りカバンを置いて思い出した。
あ、スケッチブック! もう! 涼が持って行ったんだ。
まあ、いいか。明日返してもらえるし。
「おはよう」
教室に入り莉子に声をかける。涼とはテニスコートで会わなかった。
「おはよう、ね、凛の机の上にスケッチブックが置いてあるけど?」
見ると本当に置いてる。涼なんで、直接私に渡さないのよ!
スケッチブックを持って涼のクラスに行ったけど涼はいない。涼の机ごと。
何? どうなってるの?
自分のクラスに戻りスケッチブックを握りしめ、必死に考える。何? 何があったの?
始業式が終わり、みんなが帰る用意をしてる頃、莉子が私のところに飛んできた。
「佐伯君転校したって! 凛知らないんだよね?」
「へ!? なに?」
涼が転校って何?
「やっぱり。今さっき佐伯君のクラスで聞いてきたの」
莉子がスケッチブックを握り続ける私の手に、自分の手を重ねて言う。
「凛。大丈夫? 凛?」
涙がやっと出てきた。この事態に気づかない、いや気づいてないフリをしようと必死にあがいたけど、涙が追いついた。
「凛ー!」
莉子が私を抱きしめる。莉子は何がなんだかわからないだろう。私もわからないから。
いったいどうやって、学校から家に帰ったのか思い出せない。きっと莉子が送ってくれたんだろう。
私は部屋に入り泣き続けた。涙っていつ枯れるんだろう。って思いながら。
涙は結構早くに枯れる物だ。1日泣いて、涙の欠片も出なくなったけど、なぜ涙が出ないのに泣けるんだろう。ずっと心が泣いてるからだろうか。
一体何日、部屋にこもっているのか、それすらわからなくなった。母はいろいろしてくれるがなにも喉を通らない。
ふと手元を見るとスケッチブックがあった。何気なくパラパラとめくる。そこにはたくさんの涼がいた。
目が霞む。ああ、また涙だ。涙って時間が経つとまた出るんだ。
最後のページで手が止まる。絵じゃない。私は書いてない。
もう一度今度はちゃんと開く。涙を拭う。
「涼! バカ! 大っきらい!!」
そこには涼からの手紙が書いてあった。
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