第20話 意外な訪問者

 泣くだけ泣いて、また涙が枯れる。いったいこれをいつまでも繰り返すんだろう。



 インターフォンが鳴り母が出る。なんか喋ってる。担任とかだと嫌だなあ。来客は帰ったようで、母が上に上がってくる。


 コンコン


 あれ? いつもは返事も聞かずに入って来るのに。


「はーい」


 ドアが開く。そこには佐々木先輩がいた。

 嘘なんで。ていうか、私、酷い格好だし。あれ?


「なんで佐々木部長が?」

「俺、お前の部長じゃないし。それにもう引退したし」


 ああ、そうなんだ。もう辞めたんだね。って、そこじゃない!


「なんでうちに来るの?」

「ああ、始業式に送ってった手前?」

「え!?」

「お前覚えてないのかよ。小林!」


 佐々木先輩は私の前に座り、私の頭をクシャっとする。そういえば……歩くのもフラフラして莉子につかまるようにしてて、あ、そうだ後ろから来たんだ。先輩が。ずっと私を抱きかかえるようにして、支えて莉子と私の家まで帰ってくれたんだ。そう、この部屋に私を佐々木先輩が入れてくれたんだ。


「思い出しました。あ、ありがとうございました」


 頭を下げた。ああ、なんか恥ずかしい。顔上げづらいなあ。


「たくっ!」


 急にガバッと佐々木先輩の胸が目の前に来た。え!?


「お前、痩せすぎ。食べてるのか?」


 首を振る。


「アイス買って来た。食え」


 さっと、私から離れて、佐々木先輩が持ってきた袋をガサガサ探る。


「どっち?」


 指を差しチョコを選ぶ。あ、チョコ、エクレア……ダメ!涙がまた溢れる。


「おい。アイスで泣くなよ」


「はい」


 何とか涙を押し込みアイスを食べる。あんなに食べれなかったのに。なぜか、全部食べれた。

 佐々木先輩はホッとした顔してる。知ってたのかな。だからアイスにしたのかも。食べれなかった私でも食べれるように。


「小林、明日は学校来いよ。友達も待ってるぞ」


 友達は莉子の事だろう。莉子から様子を聞いたのかもしれない。


「行けない。もう、涼がいない……」


 ああ、もう! 言うつもりなかったのに。


「もう、忘れろ。テニス部に絵も描きに行くな! 自分の部室に行けよ」

「だって、だって」


 子供の様だ何でこんな駄々こねてるの私?


「あーもー!俺がついててやるから。な?」


 え、そんな子供のお使いみたいな。


「小林凛。お前が好きだ俺と付き合え」


 ベットを背にしてる私の体の両側に手をついて言われた。え!? 何?


「あ、え? 佐々木先輩、今のって」


「同情じゃない。ずっとお前がコートに来た時から好きだった」


 あ、莉子の言ってた事は本当だったんだ。


「あ、えっと。いや、すぐには」


 心の整理が出来ないよ。


「今じゃなくていいから、ただずっとそばにいるから。学校来いよ。飯食え。わかったか」


 ガバッと私は先輩にしがみついた。涼が書いていた。佐々木先輩について。涼は先輩の気持ち知ってたんだね。


「うわ。おい。どうした」

「確かめてるの。大丈夫か」

「何を?」


 先輩は手をどうしていいのか困ってる。取り敢えず私の背中をさすることにしたようだ。


「中学の時にダメだったの。手をつないだり、腕を組んだり、肩を触られたりするのが」

「でも、お前らって」

「涼がはじめてだったの。大丈夫なの」


 先輩は手を止めて考えこんでいる。


「あのさあ、俺、何度かお前に触ってるけど」


 先輩の胸にあった頭をハッとあげる。


「本当だ。気づかなかった」

「小林。お前なあ。って、なんでもう一度確認するんだよ」


 私はもう一度先輩の胸に頭を置く。


「安心するの。こうしてるとなんか」

「あーもー。好きにしろ!」


 私達はそのままの姿勢で話を続けた。たわいもない話だった。テニス部の新部長が駿河さんだとか、テニスの話題にも耐えれる、ううん。平気になってる自分がいる。



「ねえ。お母さんよく入れたね」

「え!? ってか出かけたぞ。凛お願いしますって」


 何? 母そんなんでいいの? 佐々木先輩の出すオーラ?


「えー」

「でも、出かけられなかったじゃないか、お前が心配で。一週間も家にいたらな」


 一週間も経ってたんだ。


「そんなに経ったんだ」

「ああ、だから、明日は来いよ」

「う…ん」

「迎えに来てやるから! な!」


 と言って置いてた私の頭をあげる。


「うん。わかった」

「あ、うん」


 目と目があって佐々木先輩が目をそらす。佐々木先輩、案外硬派なのかな?


「ねえ、前の彼女と別れたの私? 私が原因?」


 アイス食べてエネルギー補充したからか元気になってきた。


「ああ、もう。そうだよ。噂の通り」

「じゃあ、絵を描き終わったのに、私にテニスコートにいるようにいったのも?」

「ああ! そうです。お前がいなくなるのが嫌だったからだよ。だから、明日から来いよ」

「うん。わかった」


 ガシッとまた佐々木先輩にしがみつく。こうして胸の中にいると落ち着く。何でだろう。



 母が帰ってきたので佐々木先輩は帰って行った。その日私はご飯を食べた。お粥だけどね。

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