第18話 出来上がった絵
夏休みに入ってすぐに私の絵は完成した。あーどうしよう。涼とこのままここにいる時間を過ごしたかった。でも、わがままだよね。ルール無視でここにいるんだから。
後ろで気配がする。
「何だ小林これじゃあ、テニスの良さが全く伝わらないじゃないか。ここにずっと居座っておいて」
「あ、はい。すみません。佐々木先輩」
まさかの佐々木部長から絵のダメ出し。あー最悪だ。
「これじゃあ困る。もう一枚描け!」
「え!?」
ここに私がいるのあんなに迷惑そうだったのに? っていうか小突かれた。
「テニス部がこんなだと思われたら困る」
「はい。次は頑張ります」
なんだろめちゃくちゃ絵を批判されたけど、結果オーライ?
取り敢えず顧問に見せに行くと
「よく描けてるじゃないか。頑張ったな」
「あのそれが、テニス部からクレームが来て……これじゃあ困るって」
「そうか、いい絵だが。まあ、もっと迫力とか欲しいんじゃないか。頑張ってるからなテニス部」
「なのでもう少し描いてみます」
「ああ、そうだな。上達してるし、もっと迫力ある絵がかけるといいな」
顧問は相変わらずポジティブだなー。
「えー。あの絵俺気に入ってたのに。佐々木部長なんの部長だよ」
確かに何部ですか? だけど。
「でも、これで夏休みもテニスコート入れるし大会とかも全部!!」
そう試合観には行けるけどあの席は用意されてないんだ。
夏休み次々にくる試合に備えて、テニス部は練習漬けの日々。そして私は日焼け止めを塗って、帽子の陰で絵を描く日々。
ついにきた。関東大会準々決勝!!
試合当日も暑い。つい探してしまうあの子。いた、いつもいる。私の事気にならないのかな? っていうか私の方が気にしてるのがおかしいのかな?
一回戦岡田先輩敗退。
やっぱりここまでくるとみんな強い。
二回戦負け知らずの駿河先輩が接戦でようやく一勝。
やっぱり強い。あの駿河先輩が苦戦してるなんて。
三回戦のダブルス。コンビネーションが上手く取れず敗退。
四回戦。涼だ。ここまで負けなしだった。というか負けたら終わる。
ガタイがいい三年生相手にコートをかけまわる。暑さと体力の違いが浮き彫りになる。ああ、もう見てるの辛い。
涼は粘りに粘り最後にサーブを決め、勝った。はああ。息をした。息してた私?
最後は佐々木部長だ。何あれ? 高校生? 普段は大きく見える佐々木先輩が細く見える。
大丈夫なの? 私の不安をよそに、涼しい顔で勝ち進む佐々木先輩。なんなんだあの人。
これでようやく準決勝へ進む!!
帰りの電車は、佐々木先輩が何度も注意するほど部員たちは大はしゃぎ。なぜか、部員でない私もいれて打ち上げまで。
何にもしてないマネージャーの気分になる。
涼も今日の勝利は嬉しかったのか、すっごいおしゃべりになっていた。ああ、こんなに楽しい日々がくるって。
やってきました準決勝!
問題大ありなダブルスを抱えて不安はあるけど頑張って! みんな!
一回戦いつもと違い駿河先輩。初戦を落として士気が落ちるのを防ごうとしたのかな。
やっぱり強い駿河先輩が大苦戦している。朝だけど、汗がコートを濡らしている。ようやく一勝。
二回戦岡田先輩。駿河さんだと思って合わせてきたのか、すっごい強さで、あっさり負け。
三回戦ダブルス。問題大ありなダブルスなところを見せつけて負けとなる。
四回戦。涼です。あ、あれ? 相手は向こうの部長のよう。部長の声援が飛んでいる。どうやら佐々木先輩ではなく涼を狙ってきたみたい。
さすが部長なだけある、相手は強い。なんか涼がコートを泳がされてる。炎天下、体力なくしたらもう終わり。あ、ああ。
最後これを決められたら終わり。涼から汗が流れ出てる。相手はまだ余裕そのもの。
パーン
最後の一球を決められた。一勝しかしてないのでもう負けとなる。
帰り支度をしているみんなは無言。時々泣き声を殺しているのが聞こえる。
私はテニス部のみんなとは別に帰った。涼とも。なんと言葉をかければいいのか。そして、言葉を返してもらうのが辛くて。
次の日涼はいつもの涼だった。テニス部のみんなもまた新たな目標に向かって動き出したみたい。
夏休みが終わり明日は始業式。テニス部の部活が終わり涼といつものように帰ります。
「佐伯! じゃあな」
突然後ろから佐々木先輩が涼に声をかける。
「何?」
「さあ?」
そろそろ佐々木先輩部活卒業かあ。次の部長は駿河先輩かなあ。テニスの実力からみても。
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