第38話「機械仕掛けの意地」


 神殿内部……

 ラルク、クレア、デルト、スアン、ヘンリ、そしてビショップの六人の目の前には二機の魔動機が立ちふさがっていた。

 一機はラルク達と幾度も戦った、ガーディアンズの幹部ルーク。

 改良され両腕までもが銃火器となり、以前から備え付けられていた両肩の主砲と加え、より強力な存在へと生まれ変わっていた。

 そして、もう一機の魔動機はまるで狼のように獣の形をしている。

 その名はヴォルフビースト。ヴォルフブレードの改良機であり、名の通り狼への変形機構が備え付けられていた。


「ラルクゥゥゥ!!」


 操者のエルクは雄叫びを上げ、ラルクのレオセイバーに襲いかかる。


「この声は……兄貴!」


 まさに狼となったヴォルフビーストの攻撃を、ラルクのレオセイバーは紙一重でかわす。


(間違いない……ミュードで戦った時よりも早くなってる……!ソウルガルーダがあってもかわしきれるか……?)


 ヴォルフビーストの俊敏さを目にし、ラルクは危機感を強くしていた。

 

「ラルクさん!」

「ラルク・レグリス!今すぐ掩護に向かう!」


 ヴォルフビーストに押されるラルクの身を案じ、クレアとビショップが彼の元へと向かう。


「俺も……!」

「行かせるか!」


 デルトのダイノアクスに向け、ルークが大量の魔弾を撃ち放つ。

 両肩の主砲に両腕の銃火器、ルークも強化されていた。


「破壊する、お前を、お前達ヲ……!」


 ここがガーディアンズの本拠地、つまり自分達の本陣であるにも関わらず、ルークはデルト達三人を殺すべく、躊躇いなく撃ち続ける。


「あーもう!バカみたいに撃ちまくって!」


 イーグルランサーは神殿の柱を盾にし、スアンが一人ぼやく。


「デルト!どうする?!」

「そーいうのはお前の役目だろッ!」

「そうだよね!こーいうのは僕の役目だよねッ!」


 ダイノアクスもライノカノンも柱を盾にして、ヘンリがデルトに尋ねると無責任な言葉を返す。

 だが、ヘンリは文句を言いながらも自分の役目を理解して、どうルークを倒すか考える。

 いつもそうだ。デルトが纏めて、スアンが真っ先に突っ込んで、自分がどうするか、どう動くべきか考える。

 そうやって、今日まで生きてきた。

 だから、今回もいつものように乗り越えて、生き延びてみせる。


「アレに当たるのは嫌だけど、これしかないか……デルト!スアン!僕の作戦に乗ってくれる?」

「当たり前じゃない!」

「頼むぜ、ヘンリ!」


 スアンとデルトは即座に答える。

 いつもヘンリの考えが正しいという訳じゃない。

 それでも、結果的になんとかなった。

 なんとかしてきた。

 だから、二人はヘンリを信じられた。


「いつまで逃げているつもりだ!人間共ッ!」


 ルークの攻撃の手は止むことを知らず、気がつけば周り一面火に包まれていた。

 「ソウルクリスタル搭載の魔動機の破壊及び、その操者の抹殺」を命じられたルークは、神殿がどうなろうと構わず攻撃を続けていたのだ。


「もう逃げるつもりはないよッ!」


 そう言うと、ヘンリのライノカノンが高速でルークに突撃する。

 それも重武装、重装甲が特徴のライノカノンらしくない程の速度であった。


「ライノカノンがこれほど速く動く事は不可能……なるほど、そういう事か」


 高速で迫りくるライノカノンの後ろにさらに二機、魔力の反応があった。

 そう、ダイノアクスとイーグルランサーが後ろから押して、加速していたのだ。


「分からない……何故味方を盾にする……?!理解できない……!」


 ルークは奇抜で、非効率的な戦術を前に混乱している。

 自身に教えられた戦術にこんな物などなかった。

 味方を、それも生きている味方を盾にして行動するなど、彼からすればとても愚かな戦術でしかなかった。


「デルト、スアン……ごめん……!」


 攻撃せず、魔力を防御に回していたライノカノンであったが、ルークの砲撃を受け続け、ひどく傷ついた状態であった。


「それはこっちの台詞ッ!」


 このままではライノカノンだけでなく、ヘンリの命に関わる。

 スアンは盾に徹してくれたヘンリに感謝をしながら、イーグルランサーの手でライノカノンを強く突き放す。

 これ以上ルークの砲撃を受けないようにする為だ。

 ライノカノンを盾にして急接近、そして次にスアンが攻撃する。

 それが、ヘンリの出した作戦だった。


「これでぇッ!」


 砲撃を受け流しながら、イーグルランサーはルークに向けて槍を突く。

 しかし、イーグルランサーに砲撃が命中し、ルークの胸に突き刺さるはずの槍は、ルークの頭へと突き刺さる。


「グアアアァ!」


 機械から発せられた声とは思えないような、ルークの悲鳴が戦場に響く。

 辛うじて手足が動くも、自身の頭部に槍が刺さり、ルークの視界には何も見えなかった。


『シミュレーション終了。ルークの反応速度がまだ遅い』

『くそっ、もう既に他のガーディアンズは実戦投入が始まっているというのに』

『仕方ないじゃないですか、ルークはまだ"不完全"なんですから』


 混乱のあまり、過去の記録が蘇る。

 

「私は"不完全"ではナイ!"不完全"なのは人間ダ!ソウルクリスタルを破壊シ!私の優秀さヲ!我らの王ニィッ!!!!!」


 視界を失っても、それでもルークは使命を果たすべく砲撃を続け、イーグルランサーは大破寸前であった。


「デルトッ!」

「ああッ!」


 スアンが叫ぶと、ダイノアクスは魔弾を構わず突撃すると、両手に握った斧でルークを両断する。

 ヘンリが盾になり、次にスアンが攻撃し、その次にデルトが攻撃する。

 そういう、役割分担で作戦が組まれていたのだ。


「はぁ……はぁ……今度こそやったか?」

「もう勘弁してほしいわ……」


 デルトとスアンは疲れた声で話す。

 あれほどの激しい戦闘の後だ、二人共疲労困憊なのは声だけでも十分に伝わっていた。


「それより助かるかな、僕たち……」


 二人に聞こえるように、ヘンリは一人呟く。

 三機、魔動機は動かせるような状態ではない。

 ルークを倒すことは出来たが、また別の問題が浮上してきた。

 ここで死ぬかもしれない。

 だが、不思議と後悔はない。

 自分達が選び、自分の意思で戦った結果だ。

 少なくとも、ゼイオンの研究所にいた頃よりはマシだと、三人共思っていた。


「すまねぇ、あとは頼んだぜラルク……」


 デルトのこの声もラルクに届かず、ポツリと消えていく。

 火に包まれた戦場には、大破した三人の魔動機と、かつてルークだった残骸だけが残っていた。

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魔動戦記MAGIRA 担々麺丸 @TanTanMen

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