第37話「英雄の帰還」


 ガーディアンズの本拠地がある、ラングルーへの攻略戦が始まる二週間前。

 アレクは魔術研究所を訪れていた。

 旅の中でガーディアンズの噂を聞き、ここへと来たのだ。

 誰かが苦しんでいるのであれば力になりたい。アレク・ノーレはそういう人間であった。


「久々だな、マギラ」

「ふっ、もう会うことはないかと思っていた」


 足音が響くほどに静かな格納庫にて、アレクと膝立ちで待機しているアークセイバーと目が合う。

 マギラはアレクとの再会をどこか喜ぶ一方、再び戦いに巻き込んでしまう罪悪感を抱いていた。

 彼がここに訪れるという事は、アークセイバーの力が必要だという事。その先には戦いが待っている。

 戦うために作られ、生まれたアレクだが、戦うかどうかを選ぶのは彼自身だ。

 戦わなくても良い。

 寧ろ戦わず静かに暮らしていて欲しい。

 マギラにはそんな想いもあった。


「アレク……無理して戦う事もないのよ?」


 格納庫へと入ってきたリンがアレクに話しかける。

 彼自身の意思でここに来たとはいえ、彼女もまた戦わせる事になるのは戸惑いがあった。


「誰かが苦しい思いをして、誰かが傷つけているなら……俺も戦うしかないだろ?その為の力なんだからさ」


 自分にアークセイバーを操る力を持っている。

 それなのに、誰かが傷付いているのを見過ごす事はアレクにはできなかった。


「アレクが自分で決めたことならいいけど……でも、必ず生きて帰ってきて!」

「勿論。わかってるよ」


 自分の意思で戦うとしても、死んでしまったら当然悲しい。

 リンは最後の最後まで、彼を戦場へと送り出す事に躊躇っていた。


「そうと決まれば、訓練だな。三年前のように戦えるようにしないとな」

「あぁ。またよろしくな、マギラ!」

「ふふっ、二人共仲が良いのね」


 二人の会話を聞き、リンは思わず微笑む。

 アレクとマギラの会話をはじめて聞いたからだろうか。

 以前まではアレクにしか話しかけていなかったマギラだが、魔術研究所にいるようになってからは、リンや研究員に話しかけるようになったのだという。



***


そして、今。ラングルーの神殿を前に、アークセイバーは再び戦場にいた。


「アークセイバー、そんな……こんなことって……!」


 流石のクイーンも、アークセイバーを前に動揺を隠せない。

 人間が動かしているとはいえ、アークセイバー自体の基本性能はとても高い。

 簡単に行く相手ではないという事は、クイーンもよく分かっていた。


「お前達は先に行けっ!ここは俺がやる!」

「ああっ!分かったぜ!」


 アレクの指示に従い、ラルク達第五小隊は神殿の中へと進む。

 目標は神殿の奥にいるキング。

 ここで止まるわけにはいかなかった。


「腕は鈍ってねぇだろうな?」


 アークセイバーへ通信したのはライズであった。

 ライズからすれば、アークセイバーは師匠の仇。憎き敵。

 複雑な気持ちを抱いていたが、今はガーディアンズが共通の敵がいる。


「そのつもりだ!」

「ならお前の力、アテにするッ!」


 アレクの返答を聞き、ライズは憎しみを押し込め、彼と共に戦う決心を固めた。


「消えろ、消えろ、消えろ!アークセイバー!破壊する!」


 クイーンは赤き魔弾をアークセイバーに向けて撃ち続ける。

 最大の脅威であるアークセイバーを破壊する為に。

 アークセイバーはなんとか回避し、光の盾アークディフェンサーで魔弾を受け止める。


「ヤツの狙いは俺達って事だな」

「そう来るなら、俺達が引き付けるだけだッ!」


 自分達が囮となる。

 操者のアレクとマギラ、二人の考える事は一致した。


「ええい!堕ちろ!堕ちろ!堕ちろ!堕ちろォ!」


 なかなか撃破出来ないアークセイバーを前に、クイーンは焦りを隠せない。

 だが、焦りがあるのはアレク達も同じであった。


「バカみたいに撃ちまくりやがって……!」

「焦るなアレク!隙が出るまで待て!」

「分かってるさ!」


 そんな時、一発の魔弾がクイーンに命中する。


「最高の囮だ、勝機はある!」


 クイーンに魔弾を放ったのはハオンのレーガインだった。

 彼の得意とする狙撃で見事、当ててみせたのだ。

 アークセイバーという最高の囮に引き寄せられ、クイーンは他の魔動機への警戒を怠っていた。


「まだまだッ!」


 今度はライズのヴァーガインがブーメランを投擲する。

 二人の息の合った連携がクイーンを追い詰めていく。

 クイーンはヴァーガインのブーメランを回避するが、その一瞬に隙が生まれた。


「しくじるんじゃねぇぞ!アークセイバーッ!」


 ハオンとライズ、ゼイオン人でありながらアレク達の為に作ったチャンス。

 このチャンスを逃す訳にはいかない。

 アレクとマギラはこのチャンスに全てをかける覚悟であった。


「行くぞ、アレクッ!」

「ああッ!これで決めるッ!」


 アークセイバーの剣が青白く輝き、クイーンに向かって突撃していく。

 全力で、全速で、クイーンの懐へと飛び込む。


「この人間共めッ!」


 アークセイバーが至近距離にまで接近してきた今、魔弾を撃つ余裕などない。

 クイーンは魔力を防御に回し、障壁でなんとか抗おうとする。


「負けるものかッ!キングの為にもッ!ガーディアンズの為にもッ!」

「俺だってッ!負けるわけにはいかねぇんだッ!」


 リック、ガゼル、クルス、レイ……

 戦いの中で死んでいった者達への想いが力となり、光の剣がクイーンを両断する。

 アークセイバーが、アレクとマギラが、クイーンを討ち取ったのだ。


「アレク!」

「やったか、アレク……!」


 地上でポーンを相手に指揮していたリンとレーゼは、思わずアークセイバーの方を向く。

 クイーンを撃破したアークセイバーの勇姿は、エレシスタ軍とゼイオン軍を鼓舞させるに十分であった。


***


「クイーンがやられたか……まぁいい、バックアップはちゃんと用意してある」


 神殿の最深部にて、キングは戦況を把握していた。

 自分達は敗北しても次がある。バックアップがある。

 クイーンのボディにデータを入れればいいだけだ。

 まだ負けた訳ではない。

 人間に負ける訳がない。

 キングは冷静に次の手を考える。


「ルークとヴォルフビースト……失敗は許さないぞ」


 キングの前には改良されたルーク、そしてエルクの新たな魔動機、ヴォルフビーストが控えていた。

 今、この二機がラルク達の前に立ちはだかろうとしていた……

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