第4話「亡霊の声」後篇
補給部隊が信号弾を上げる少し前……
荒野を五機の魔動機、ヘビーナイトが駆ける。ヘビーナイトはナイトを重装甲に改修した派生機であり、正式採用機であるナイトよりも技量を要求されるが一部操者に支持されている機体である。
補給物資の護衛と運搬を兼ねる為に、背中のコンテナに物資を入れて魔動機が運ぶというのはよくある事であり、物資の護衛を考えると重装甲のヘビーナイトが運ぶのは理に適っていた。
「前方に魔力反応!東の方に待ち伏せされてる!」
「各機、散開しろ!城までそう遠くはない。信号弾を上げるぞ!」
ヘビーナイトの左掌に赤い魔法陣が浮かび、すぐさま手を挙げて赤き信号弾を放つ。掌に僅かな魔力を集め、空に打ち上げたのだ。
魔力の塊を放つという点では魔弾と似た性質ではあるが、魔弾と比べ威力はとても低い。
密集していたヘビーナイトが散り散りになると、前方から魔弾が飛んでくる。
幸い散開したお陰で魔弾は地面に着弾し、ヘビーナイトには被弾しなかった。
魔弾を撃った機体はセンサー類を改修し、レンズのような目が特徴の射撃仕様のゴブル。精密射撃をも可能にする機体だが、飛び道具を使う者は卑怯者という風潮が強いゼイオンでは銃火器を使う魔動機は少ない。
五機のゴブルはヘビーナイトに照準を合わせ、一斉に魔弾を放つ。
ヘビーナイトは怯まず攻撃を受け流し突き進むが、腕の追加装甲が損傷し、機体から剥がれる。
剣を抜きスラスターを吹かせゴブルに立ち向かうと、ゴブルも腰裏のナイフを抜き近接戦に持ち込む。
剣とナイフの刃がぶつかり合うが、どちらが近接戦を制するかは火を見るより明らかだ。
その時、鍔迫り合う二機のヘビーナイトがブーメランによって斬られ、上半身と下半身が分断され爆発する。
そのブーメランの主は、ライズ駆けるヴァーガインであった。
「あと三機!この程度なら余裕だぜ!」
ブーメランが二機のコンテナも切り裂くとヴァーガインの手元に戻り、残りのヘビーナイトに斬りかかろうとした瞬間、東の方に魔力反応が現れた。
ブレイズフェニックスとストームバレットだが、ライズはその事を知らない。
「ケッ、増援か。そいつもオレが叩き潰してやるよ!お前ら!そこのヘビーナイトは任せたぞ!」
「ハイ!ライズ様!」
ヴァーガインは翼を広げて飛び、東の二機の増援に向かう。
距離が縮まり、両者とも視覚出来る距離へ近づいていく。
「リン!ここはオレに任せて、補給部隊の援護に!」
「わかった!頼むよレイ!」
ブレイズフェニックスが地面を蹴って跳び、スラスターの加速を背にヴァーガインに斬りかかり、剣とブーメランがぶつかり火花を散らすと、二機は後退し着地する。
「アークブレードじゃねぇが腕鳴らしにはちょうどいいぜ!」
「オレを甘く見るなよ!」
一方リンはヘビーナイトの援護のため西に立ち向かっていく。
「近づけさせるな!撃て撃て!」
五機のゴブルは銃を構え魔弾を連射するが、ストームバレットに当たる気配はない。
肩のバーニアを吹かせ、巧みにかわしてく。
「そんな弾に当たるわけにはッ!」
二丁の銃口に魔法陣が浮かび、緑色をした魔弾が放たれる。魔弾は追尾するように曲がり、見事にゴブル五機の銃に的中する。
魔力を宿した銃が被弾し、爆発するとゴブルたちは勝ち目がないと悟ったのか、どこかへと逃げていった。
「すまない、助かった。こっちのコンテナは無事だ」
「分かりました。すぐにここから離れましょう。レイ、補給部隊が離脱するまであの羽つきを引きつけて!」
「わかった。すぐに片付ける」
ストームバレットを先頭に、ヘビーナイト三機は東に向かっていく。
「逃がすかよ!」
「それはこっちの台詞だッ!」
ライズの使命は補給部隊を殲滅すること。
その使命を思い出し、飛び立とうとするヴァーガインをブレイズフェニックスが空中で立ちふさがる。
ブレイズフェニックスが二本の剣を振り下ろすと、ヴァーガインは横に回避しブーメランを投げる。
ブーメランは高速で回転しているが、ブレイズフェニックスに当たる気配はしない。
「どこを狙って……まさか!リン!危ない!」
ブーメランはブレイズフェニックスではなく、補給部隊に向かって飛んでいる事にレイは気付いた。
しかも、今補給部隊はヴァーガインに対して背を向いている。
リンとヘビーナイト三機は気付くものの、ヘビーナイトに迎撃する手段はなく、ストームバレットの魔弾も間に合わない。
回避も間に合わず、ブーメランが補給部隊を目掛け飛んでくるその時、青き機影が急接近し、空高く飛びブーメランを弾き飛ばした。
青き機影はアークブレードだと、レイとリンはすぐに分かった。
「待たせたな!」
「アレク!助かったわ」
アークブレードは着地し、土埃を上げる。
少しでも遅ければブーメランは命中していただろう。
エレシスタ軍から見れば彼の姿は英雄のようであった。
「向かわなくていいと言っただろ」
「仲間が戦ってるってのに、俺だけじっとしてるわけにも行かないだろ?」
アレクの言葉を聞き、レイはとても彼らしい動機だと思った。
そうだ、おせっかいなくらいに放っておけないのがアレク・ノーレという人間だ。
テンハイス城での戦いで独断行動したから忘れていたが、こういう人間だとレイは再認識した。
アレクの考えは甘く、青臭いとすら思う。
だが、誰かを助けたいという気持ちはラドール高原で助けられたあの時から変わらない。
何故ここまで人のために戦えるのだろう。アレクを見る度その疑問が湧いてくる。
「また、助けられたな。すまん」
「お前も謝ったりするんだな」
「一応はな。あの羽つきはお前が目当てみたいだ。気を付けろよ」
エレシスタとゼイオンの戦いは終わらないのか。
分かり合えないのか。
その疑問はまだアレクの中から消えない。
それでもリックの時の二の舞いにならないために、今誰かが襲われているならば手を伸ばすしかない。
今、アークブレードという力を持っているならばなおのことだ。
アークブレードは剣を構える。
「来たな、アークブレード!テメェを手柄にしてやるッ!」
ブーメランがヴァーガインの手元に戻り、ライズはアークブレードを前に任務を忘れ、襲いかかる。
アレクもアークブレードを前進させ、立ち向かう。
ヴァーガインはブーメランを勢いよく振り下ろすが、アークブレードは大きく下がり、ブーメランは地面にぶつかる。大きく土埃を上げ、両者とも視界が遮られる。
「今だ、やれッ!」
マギラの声が聞こえる。
彼の言いなりになるのはアレクにとって不服ではあったが、振り下ろしたこの瞬間が隙だというのはアレクも思っていた。
アークブレードは土埃に構わず右手に持った剣を突き、ヴァーガインの右腕を胴体から切り裂く。
ブーメランを持った右腕が宙に舞うと地面に落ち、ヴァーガインの胴体からはケーブルなどの機械部品が露出していた。
ライズからは土埃の向こうから刃が飛んできたように見えた。
土埃が上がりライズが油断した一瞬を突かれたのだ。
「クソッ、なんつー野郎だ……」
右腕をやられた今、これ以上戦えば死ぬかもしれない。
そう思い、ライズは逃げる決心をする。
ヴァーガインは空高く上がり、西の方へと飛んでいく。
補給部隊の援護が第一である今は、ただ飛び去るヴァーガインをアレクは見つめるほかなかった。
仮に補給部隊がいなくても、空を飛べないアークブレードでヴァーガインを追うのは困難だろう。
「あの操者を殺さずに済んでよかったと思ったか?」
マギラはアレクに尋ねる。
全く同じことを考えており、自分の考えが見透かされているようであった。
「襲ってくるゼイオン軍は倒す、だけど戦う意思がない敵を俺は倒せない……」
今回はたまたま追えない状況であったが、たとえ追えることが出来ても、襲うことはしないだろうとアレクは考えていた。
マギラにまた甘いと言われるかもしれない、それでもこのやり方は譲れない。
「ここで殺さなかった事を後悔するなよ」
マギラの一言がアレクに突き刺さる。
次も勝てる保証などない。
もしも、また敵として出会った時殺されそうになったら……
そう考えると躊躇いなく殺すべきだったのか。
この時、アレクに迷いが生まれていた。
***
エレシスタゼイオン間の国境付近。
そこには何十機ものナイトが並んでいた。
そのナイトの視線の先にいるのはヴァグリオが操る専用の魔動機、ガルディオン。紫色の機体に、前に向かって伸びている肩の角。
まるで。獣のような機体が槍を片手に立っている。
他のゼイオン軍の魔動機は後方で待機しており、ガルディオンが先頭として立っているのだ。
「奴は一機だけだ!数で押せば勝てるぞ!」
十機ほどのナイトがガルディオンに向け走っていく。
ナイトが一歩一歩と近づいてきても、ガルディオンは指一本も動かない。
だが、槍の間合いに入った瞬間、機体が動き始める。
ガルディオンは槍を上げ、大きく横に振ると、ナイト達は横に切り裂かれ、機体は爆発した。
ガルディオンが傷を負うどころか、攻撃が全く届いていなかった。
「怯むな!射撃戦に持ち込め!」
射撃仕様の魔動機、ガンナーが銃を構え魔弾を放つ。
ガルディオンは回避する動作すらしない。
魔弾は当たるが、びくともしない。
「その程度か?なら今度はコッチの番だァッ!」
ガルディオンの足元に魔法陣が浮かび、槍先は紫色に光る刃に包まれている。
再び槍を横に振ると、魔力で形成された斬撃がガンナーに飛んでいく。
直撃したのか、大きな爆発が上がる。
「フンッ呆気ない。久々の出陣だというのにこれでは退屈だな……」
ヴァグリオの本当の相手はナイトでもガンナーでもない、そうアークブレードだ。 アークブレードとの戦いは激しい物となるだろう。
それでも構わない、寧ろヴァグリオは強い敵を望んでいた。
「来い、アークブレード……オレを楽しませてみせろ……!」
ヴァグリオはニヤリと笑う。
これから始まるであろう、アークブレードとの戦いを彼は誰よりも待ち望んでいた。
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