第5話「輝きの剣」前篇

 

 ヴァグリオ・ド・メガルヴァ率いるゼイオン軍の侵攻は始まった。

 国境に集まったエレシスタ軍を撃破し、これを突破。

 敵の指揮官が皇帝であり帝国一の武人、ヴァグリオ率いる軍勢に敗北したという事実によりエレシスタ軍の士気は下がっていた。

 だが、エレシスタ軍も指をくわえてゼイオン軍の侵攻を見ているだけにはいかない。

 すぐに防衛部隊を配置しゼイオン軍を迎え撃つ事になった。

 その防衛部隊にはテンハイス騎士団第五小隊の姿もあった。

 厚く黒い雲のもと、テンハイス城から見て東南東にあるティルト草原にて防衛部隊は展開されている。

 オリジンや専用機の力を過信しているのか、アレク・ノーレ達第五小隊は最前衛のナイト、魔術攻撃を主体とした魔動機ウィザードの混成部隊の次に前線に近い位置に配置されている。

 この配置からレイやリンは勿論、アレクもこの戦いは厳しいものになると分かっていた。

 そのこともあってか、アレクはひどく緊張していた。

 これで五度目の実戦で慣れてきてはいるが、皇帝率いる軍勢が押し押せて来ると知れば緊張するのも無理はない。

 その上標的が自分の乗るアークブレードではないかと考えればなおの事だ。

 テンハイス城の戦いで苦戦を強いられたのに皇帝とやり合えるだろうか。

 アレクには不安しかなかった。


「アレク、大丈夫?」

「あっ、大丈夫だよリン」


 通信からリンの声が聞こえ、咄嗟に返事をする。

 咄嗟に言ったその一言は本音ではない。

 不安で緊張しているなどと言えばリンを気遣う事になる。

 それはアレクにとってもあまり良い事ではない。

 エレシスタ軍のオリジンに乗る操者ならば怖気づいてはいけない。

 そんな思い込みがアレクを縛っていた。

 だが、リンはアレクが不安でいる事はすぐにも分かった。

 何故ならば表には出してないが彼女自身もどこか不安でいるからだ。


「しっかりしろ。怖気づいていては勝てる戦いも勝てないぞ」


 レイからの通信が入る。

 彼は常に真っ直ぐで動じたりはしない。

 アレクはこの時のレイが羨ましく、頼もしくも見えた。


「レイの言う通りね。私達は今出来ることをやりましょ?」


 リンの一言で小隊の不穏な雰囲気がどこか和らいだ。

 こうして小隊をうまくまとめれるのはリンの長所だろう。

 その時、魔力反応を探知する。数は二十機ほど。

 特に先頭二機は高い魔力を放っている。

 四将軍の二人、クーヴァのシュルトバインとゴーレルのゴルゼガスだ。

 シュルトバインはカラスのように黒く、肩が翼のようで手足は細く、人間のような手の代わりに爪が取り付けられ、機動性で敵を圧倒する俊敏な機体であった。

 反してゴルゼガスは操者の体格のように大柄で他の魔動機よりも大きく、シュルトバイン同様手はないが、代わりに長い腕の先には手の代わりにトゲの付いた棍棒が取り付けられている。

 

「陛下がアークブレードを打ち倒す為にも、雑魚はさっさと片付けましょう」

「オレ、エレシスタ、魔動機、倒す!」


 シュルトバインがスラスターを向け加速する。

 ナイトは追うも、シュルトバインのスピードに付いて行けず、目にも留まらぬ速さで操縦席が爪に突かれていた。

 ウィザードは杖先の魔動石から火の玉を放つも当たらず、次々とエレシスタ軍の魔動機を撃破していく。


「オレも、いるぞ!」


 ゴルゼガスの手先にある棍棒が回転し、腕を振った先にいたナイトの頭部と胴体が潰れ悲惨な状態になった。

 ナイトが何機も集まり、剣を振るうもゴルゼガスの重装甲の前では傷一つ付かず、腕を振る度に棍棒と激突し何機ものナイトが吹き飛ばされていく。

 帝国四将軍の名に相応しき魔動機を前に、エレシスタ軍は怯えることしか出来なかった。

 だが、アレク達はこの状況を黙って見ることは出来ない。


「アレク、レイ!前衛部隊の援護に行くわよッ!」


 三機はスラスターを吹かせ、前進する。

 シュルトバインとゴルゼガスの二機との距離は段々と近づき、ストームバレットはゴルゼガスの頭部に狙いを定め二丁の銃を向ける。

 いくら重装甲でも頭部が損傷すればセンサー類も損傷し、目の前の光景すら見えなくなる為頭部を狙うのは理に適っている。

 銃口から魔弾が放たれ、曲がりながらもゴルゼガスへ向かっていくが、流石に攻撃を予見していたのか、両腕の棍棒で魔弾を弾き飛ばした。


「そんな弾、オレに、効かない!」


 ドシンドシンと重々しい音を立てながら、ゴルゼガスはアレク達三機に向け歩いてくる。

 迎え撃つようにアークブレードも加速し斬りかかるが左腕の棍棒で防がれ、軽々しく弾かれる。


「まだまだッ!」


 アレクは諦めずゴルゼガスに立ち向かい、両手で剣を振ろうとすると右腕の棍棒とぶつかる。

 アークブレードは剣で振り下ろされた棍棒を抑えるものの、パワーはゴルゼガスの方が上であり、アークブレードの不利であった。

 このままでは負けると悟り、アークブレードは一歩後進する。

 レイもブレイズフェニックスを加速させ立ち向かおうとするが、彼の前にシュルトバインが現れ道を阻む。


「貴方の相手はこの私ですよ」

「来るなら来いッ!」


 シュルトバインは右腕を突き出し、正面から襲いかかり、ブレイズフェニックスは右腕で剣を振り下ろす。

 しかし、目の前にいたシュルトバインの姿は消えていた。

 

「どこを見てるのですか、こっちですよ」


 シュルトバインはブレイズフェニックスの後方に現れ、爪を向けて襲いかかる。

 レイは素早くブレイズフェニックスを方向転換させ、右腕で剣を横に振る。

 シュルトバインは回避すべく軌道修正するも、わずかに間に合わず肩の先端が剣によって切断された。


「私の攻撃をかわすとは……中々やりますね!」


 クーヴァはいつものように落ち着いた声で敵であるレイを賞賛する。

 だが余裕のある言葉に反し、本心は焦っていた。

 卑怯とも言われるこの戦い方で勝ち四将軍の一人として名を上げたのに、その戦法が破れそうになったからだ。

 第五小隊がゴルゼガスとシュルトバインに苦戦するその時、高い魔力を放出している魔動機が接近している事に五人は気付いた。


「見つけたぞッ!アークブレードォ!」


 その魔動機は皇帝ヴァグリオの乗るガルディオンであった。

 アークブレードとゴルゼガスの間に入り、エレシスタとゼイオン両軍にプレッシャーが重く掛かる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る