第3話「もう一つの正義」後篇


 アレクのアークブレード、ガゼルのゼルガイン。

 二機の激闘が始まる。

 ゼルガインは両手で大剣を振り下ろし、アークブレードはなんとか回避する。

 大剣は地面に激突した。


「フン、流石はオリジンと言った所か……ボーガリアンの時のとは違うようだが、祖国の地を再び焦土にせぬ為に、ここで朽ちてもらうぞッ!」


 地面に突き刺さった大剣を両手で持ち上げ、再びアークブレードに向け振り下ろされる。

 アークブレードは剣を横に構え、大剣を防ぐ。


「ボーガリアン……?俺はあんた達の国を襲う気はないんだ!ただ、エレシスタを守りたいだけなんだ!信じてくれ!」

「あの時もエレシスタ人は守る為にと言い、ボーガリアンを攻撃した!」


 ボーガリアンは三年前、防衛拠点として軍備拡張を進めていた。

 しかし、エレシスタは侵略の為の軍備拡張だと主張し、彼らはあくまでも自国を守るためという口実でボーガリアンを攻撃した。

 後にボーガリアン鎮圧と呼ばれる事件となった。

 ガゼルはそのボーガリアン鎮圧で生き延びた軍人の一人。

 それ故に、何人もの同族を殺したオリジンと同類であるアークブレードに強い憎悪を抱いていた。


「エレシスタを守りたいと言ったな?俺達も守るために戦っているッ!ゼイオンを再び侵略されない為にッ!」


 ゼルガインは力強く大剣を振り、アークブレードの剣を砕き、胴体に斬りつけた。

 とっさの回避でなんとかアレクは助かったが、剣を折れ、アークブレードの胴体に大きな傷を負った。

 このままではやられる……ここで死ぬのか……


「アレク、下がって!」


 そう思った瞬間、緑色の魔弾がゼルガインを目掛けて、降り注ぐ。

 アレクは慌ててアークブレードを後ろに動かし、魔弾を避ける。

 ゼルガインも後退し、魔弾を避けた瞬間、炎の斬撃が飛んでくる。


「クッ、援軍かッ!」


 大剣を盾に防ぐ。重装甲故に、そう簡単にはゼルガインの装甲が破損する事はなかった。


「大丈夫、アレク?もう、私の命令無視してどっか行かないでよね!」

「一人で勝手に突っ走るな!死にたいのか!」


 リンとレイの声が通信で聞こえ、レイはアレクに向けて怒鳴っている。

 アレクはこの戦いを終わらせることばかりを考えて、仲間の事を考えていなかった。

 人を守るために戦うなど言っても、アークブレードの性能を過信して仲間すら守ろうとしていなかった自分に嫌悪感を抱いた。


「オリジン一機に専用機二機……厄介な相手だな。ここは引くとしよう」


 ガゼルはゼルガインを引き、東へと撤退していった。

 帝国四将軍の一人といえども、オリジンと専用機が相手では生きて帰れる保証はない。

 ここは逃げるのが懸命だろうと、ガゼルは考えた。

 あのまま撤退せずに戦っていれば死んでいたかもしれない。

 撤退していくゼルガインを見て、アレクは安堵した。


「謝って済むとは思わないけど、すまない、二人共……」

「それじゃあ、アークブレードの修理する整備兵の手伝いね」

「そうだな、それぐらいがいいだろう」


 リンの提案にレイは賛同する。

 仲間を放り出して、突っ走った自分に対していつも通り接してくれるリンの優しさにアレクは感謝した。

 今回の戦いでの行為を反省し、三人はテンハイス城へと帰投した。

 激戦で魔力を大きく消耗した為、魔力を推進剤として加速するスラスターは使えず、鋼鉄の足を地面に踏みつけ歩きながら帰投していく。

 テンハイス城の横に沈んでいく夕日を眺めていたその時、誰かの声がアレクに聞こえた。


「どうして、ゼイオン人なんかを説得しようとした……?」


 ぼんやりと聞こえるこの声は通信ではない事はすぐにわかった。

 だが、アークブレードの操縦席にはアレク以外誰もいない。


「だ、誰だ!誰が話しかけてる!」


 不気味な現象を前に、アレクは慌てながら声を上げて尋ねる。

 亡霊の類か……魔動機が喋るわけがない。

 いっその事、ただの幻聴であって欲しいとアレクは思った。


「俺の名はマギラ……かつてこの機体を乗り、戦った操者だ」


 今、マギラと名乗ったのか。あの伝説の。アレクは何かの聞き間違いだろうと思っていたが、さっきの声はハッキリと聞こえる。

 伝説の英雄が亡霊として現れ、アレクは動揺するしか無かった。

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