第4話「亡霊の声」前篇

 

 ゼイオン帝国軍四将軍のレーゼ・リ・ディオスとガゼル・ガ・カーカが率いるテンハイス城近辺での戦いは、帝国軍の撤退で幕を閉じた。

 アレクがテンハイス城へと戻る時、アークブレードに異変が生じる。

 マギラと名乗る姿なき亡霊がアレクへ語りかけてきたのだ。


「俺の名はマギラ……かつてこの機体を乗り、戦った操者だ」

「マギラってあの大戦で戦ったっていう伝説の……?」

「そうだ。俺はゼイオンのゾルディオンとの戦いで魔力を使い果たし、肉体と魂が分離してアークブレードの魔動石に魂が取り憑いている」


 アレクにとっては嘘のような話ではあるが、マギラと名乗る者の声から真剣さを感じられる。

 恐らくは嘘ではないのだろう……とアレクは信じる事にした。


「もしかして、あの時無人で動いたのもアンタがやったのか?」

「そうだ。最悪ゼイオンの手に落ちる可能性があったからな」


 これで説明が付く。アークブレードが突然現れたのも、すんなりと動かせたのも、全てはマギラによりものだったのだ。

 

「何故俺しか動かせないアークブレードをお前が動かせるかは知らんが、この機体に乗っている以上は話し合いなど生温い事を言うな。奴らとは分かり合えん」


 マギラはゼイオン人を憎んでいる。

 何人もの仲間や同族を奪った忌まわしき人種だからだ。

 彼らと分かり合えるとは思えず、アレクの話し合いで解決しようとする姿勢には納得せずにいる。


「奴らは野蛮で好戦的な人種だ。奴らを生かしていればいずれ、千年前のような惨劇を引き起こす。根絶やしにしなければならない」

「それでもレーゼっていう人も、あの魔動機に乗ってる人も守るために戦っていた……だから、ゼイオン人全員が悪いだなんて俺は思えない!」


 リックを殺したゼイオン人は確かに殺す程に憎悪した。

 だが、レーゼもガゼルも自分と同じく守る為に戦っており、完全に悪とは断言できないと思っている。

 きっとゼイオン人の中にも話せば分かり合える人がいると、アレクは考えている。


「そうやって、敵の言葉を鵜呑みにするのか……甘いな、話して分かるのなら誰も戦いはしない」


 マギラからすると、アレクの言う事は綺麗事のように聞こえる。

 千年前も話し合いで解決し戦火が収まる可能性はあったが、そうはならなかった。

 この世界を滅ぼしかねないほどの戦争が起こり、それから千年も経った今もこうして戦っている。

 エレシスタ人とゼイオン人が分かり合える可能性など、マギラは完全に無い物だと思っていた。

 それでも、アレクは信じている。エレシスタ人とゼイオン人が共存できる可能性を。


***


 テンハイス城の戦いから数日。

 帝国四将軍のレーゼとガゼルが攻撃してきたという報は王都セレルシタにある城、セレシスタ城内にも届いていた。

 現国王レケサ八世の前にある円卓に、五人の男が座っている。

 彼らは貴族議会に属する者達であり、エレシスタの貴族五家の当主でもあった。

 エレシスタの最高権力者は国王にあるが独裁を防止すべく、貴族議会の三人以上が賛成しなければ王の命令とはいえ、国民には渡らないようになっている。

 その為、この国を動かしているのは貴族議会とも言えた。

 そんな彼らが議論しているのは、アークブレードの事であった。


「帝国四将軍がテンハイス城を襲ったとはほんとなのだな?」

「勿論です。あの城が所持しているオリジン……アークブレードでしたか、アレを狙って来たんだとか」

「エレシスタ軍にオリジンを配備するのは過剰防衛なのでは?」

「その通りですな。オリジンを配備したあまりにゼイオンに警戒され、攻撃されたら話にならん。そうだ!アークブレードを廃棄すれば不要な対立は避けられる!」

「名案ですな」


 円卓に座る四人の貴族達が話し合う。

 そんななか一人、沈黙を保っている金髪の男がいた。

 彼は他の四人よりも十数歳程度若く、名はクルス・フェールラルト。

 リン・フェールラルトの兄であった。


「軍事関係はフェールラルト卿の管轄でしたな?それも、アークブレードの管理と運用に関しては自ら指示したとか」


 貴族の男は嫌らしく、クルスに問いかける。

 クルスは貴族の当主にしては若い。彼をよく思わない者も少なくはない。

 男はテンハイス城を攻撃された責任を取らせ、この貴族議会から下りてもらおうと企んでいたのだ。

 

「はい。アークブレードと操者のアレク・ノーレを確保するようダリル将軍に命じたのはこの私です」

「では今回の責任、どう取るつもりですかな?」

「責任……何故今、この段階で取らなければならないのでしょうか?」


 クルスは臆せず意見する。

 自分の選択と行動は何一つ間違えていないという自信が彼にはあったのだ。


「先程、アークブレードを廃棄するべきという意見がありましたが、仮に廃棄してゼイオンが攻撃してこないという保証はあるのでしょうか?廃棄すればあちらは好機と考え、攻撃してくるのでは?」

「それはだな……」


 男はさっきまでの威勢を失い、クルスの意見に押される。

 アークブレードを廃棄したなどと、ゼイオンに知られれば、戦力が低下したと考えその隙きを突かれるのは容易に想像ができた。


「現皇帝、ヴァグリオは好戦的な人物。アークブレードの有無など関係ないでしょう。現にエレシスタはアークブレードを回収する前から攻撃を仕掛けています。それについてはどうお考えで?」

「な、なるほど……流石はボーガリアン鎮圧で名を挙げただけはありますな……フェールラルト卿の仰る通りです!」


 現金な態度で、男は手のひらを返す。

 さっきまでアークブレードの廃棄を賛成していた貴族達も、クルスの言葉に説得され意見を変えている。

 クルスは主義主張をすぐ変える貴族達に嫌気が差したが、思い通りに物事が動くならばそれでいい。


「国王、確かにアークブレードは過剰な防衛戦力かもしれません……ですが、これから先この国を守るためには必ず必要となる力。どうか、アークブレードの管理をこのクルス・フェールラルトに任させてはいただけないでしょうか?」


 レケサ八世の前に、クルスは腰と頭を下げる。

 後は国王の賛同を得れるかどうか考えていたが、彼の中ではどこか賛同を得れると確信していた。


「フェールラルト卿。貴公の考えはよくわかった。だがオリジンはこの世界を滅ぼすほどの力を宿しているという。扱いは慎重に頼むぞ」

「わかりました国王。フェールラルト家の名に掛けて、必ずこの国のために使う事をお約束します」


 レケサ八世はクルスの考えを賛同したが、誤れば世界を滅ぼしかねない力を持つアークブレードを警戒している。

 クルスの事を信用していても、万が一という事もある。念を入れて慎重に使う事を促した。


(国王の賛同を得られた。これでオリジンの研究もしやすくなるな……)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る