第33話「金色の翼」
ラルク達がエルクのヴォルフブレードと交戦している一方、スアンとヘンリはルークと激しい戦いを繰り広げている。
スアン達はルーク相手に苦戦するが、ルークもオリジン二機が相手では赤子の手を捻る要領とはいかず、互いに一歩も引かぬ戦いとなっていた。
「フン、愚かな人間め……たった二機で私を止められるとでも思ったか?」
「それはアタシ達に勝ってから言いなさい!」
「止めてみせるよ、ラルクの為にも……!」
ルークを前に二人は臆す様子はない。
今度は自分達がラルクを助ける番だ。
スアンも、ヘンリも、その強い意思が根底にある。
ラルク達のいる方角から高い魔力の反応を探知したのはその時であった。
二人も、この後レオセイバーの新たなる姿を目撃する事となる。
***
「兄貴、いや……エルクッ!覚悟しろッ!」
鳥型魔動機のソウルガルーダと合体したレオセイバーは、地にいるヴォルフブレードに向かっていく。
そこに迷いはない。ただ、まっすぐに突き進んでいく。
「そうだラルクッ!俺を倒してみせろ!人類の敵であるこの俺をッ!」
ヴォルフブレードも地を蹴り、空に舞うレオセイバーに向かっていく。
弟は人を守る為に。
兄は人を支配する為に。
相容れない二人は、雄叫びを上げ激突する。
レオセイバーのブレードガン、ヴォルフブレードの剣、二つの刃がぶつかり合う。
さっきまで優勢であったエルクだが、ソウルガルーダと合体し、出力の上がったレオセイバーを前に押され始めていた。
「この馬鹿力がぁ!」
レオセイバーのパワーに負け、空中で激闘を繰り広げていたヴォルフブレードは土埃を上げ、地面に激突する。
こんな筈が。こんな訳が。
あの鳥が、あの鳥さえ無ければ……
負け惜しみのような考えが、エルクの頭の中を駆け巡る。
「これなら、このレオセイバーならやれるッ!」
ブレードガンの銃口をヴォルフブレードに向ける。
湧き上がるような感覚がラルクの自信を裏付ける。
これならば兄を、いやエルクを倒せる。
その力を振るい、誰を傷つけるならば、エルクを撃つ事にもう迷いはない。
両翼に魔法陣を展開し、レオセイバーは銃口から魔弾を放つ。
すると、魔弾はヴォルフブレードの右腕を撃ち抜き、胴体から外れた右腕は地に落ちる。
「クソッ、クソッ……!」
このままでは弟に殺される。
逃げなければ。殺される。死ぬ。
レオセイバーの力に恐怖し、エルクのヴォルフブレードは戦場から撤退していく。
今ここで追撃するのも手だろう。
しかし、それよりもやらなければならない事がある。
ルークと戦っているスアンとヘンリの援護だ。
「クレア、ここを頼む!オレはスアンとヘンリの方に向かう!」
「分かりました!ここは任せて下さい!」
レオセイバーは空を駆け、二人の元へと向かう。
足元に魔動機や町、木々がいつもより小さく見える。
空を飛ぶ魔動機を操る気分とはこういう感じか。
もう少し操縦に苦戦するようなイメージをラルクは抱いていたが、まるで自分に羽が生えていたかのように、何の不自由もなく飛べていた。
そして、レオセイバーの目がイーグルランサーとライノカノン、そしてルークの姿を捉える。
「空中に機影を確認。あれはレオセイバーか……!」
ルークもレオセイバーを姿を捉える。
敵を近づけまいと、足元と砲口に魔法陣を出現させ、魔弾をレオセイバーに向けて放つ。
「相変わらず容赦ねぇな……!」
翼を羽ばたかせ、レオセイバーは魔弾を回避し続ける。
「レオセイバー!ラルクか!」
「ああそうだヘンリ!オレ達三機でやるぞ!」
「とはいっても!こっちも魔弾かわすのに必死なんですけど!」
スアンの言う通り、ルークの魔弾はスアン達にも向けて飛んできている。
絶えず放たれる魔弾を前に、接近するのも難しく、砲撃戦用魔動機であるライノカノンも手も足も出ない状態であった。
「たしかに、これじゃあ近づけねぇ……」
その時、ラルクは閃いた。
近づけないならば、無理して近付く必要はない。遠距離で戦えばいい。
今のレオセイバーには、遠距離で戦えるだけの力がある。
ヴォルフブレードの腕を撃ち抜いたあの時、魔弾の威力が明らかに高くなっていた。遠くから魔弾を撃つという手もある。
ルークは強敵だ。以前倒した時と同じ手は通じないだろう。ならば、この手で行くしかない。
「行くぞ、レオセイバー!」
ブレードガンの銃口に魔力を集中させる。
遠距離からでもルークに命中し、さらに装甲を撃ち抜けるだけの魔力を溜める必要がある。
レオセイバーは魔弾をかわしながら、魔力を溜めていく。
「どうした?その程度か!」
ルークの挑発を無視し、ただひたすらに回避し続ける。チャンスが来るまで。
防戦一方に見える戦いではあったが、ラルクは勝利のイメージを掴んでいた。
撃ち抜く分の魔力は溜まったが、撃つために動きを止めれば、今度は魔弾に命中してしまう。
まだ、まだその時ではない。
今度はルークの砲口がレオセイバーから、地上のイーグルランサーとライノカノンに向く。
今だ。一瞬ではあるがチャンスはやってきた。
「ルークッ!今度こそ終わりだァ!」
レオセイバーの両目が輝き、魔弾が放たれる。
大きな魔力の塊が止まることなく走る。
「何っ?!」
ルークは自分に向けて放たれた魔弾に気付くが、重装甲で機動性の低い機体では今から避ける事はできない。
両手を交え、腕の装甲で受け止めようとするが、いともたやすく魔弾が装甲を溶かし、胴体を撃ち抜いく。
ルークの装甲も、今のレオセイバーの前では防げなかった。
魔弾は胴体を貫通し、止まることなく地面を焦がし走り続ける。
すると、ルークであった残骸の後ろには、長く黒い跡が残っていた。
これほどの力があるとは。操者であるラルク自身が、この光景に驚いていた。
「アレ、ホントにレオセイバー?」
「みたいだね」
スアンとヘンリは、レオセイバーとは違う魔動機なのではないかと疑っている。
レオセイバーはソウルガルーダと合体する事により、別次元の力を手にしたのだ。
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