第32話「決意の輝き」


 ミュードを舞台に、戦いは続く。

 ラルクは兄のヴォルフブレードを前に、まだ迷いがあった。

 それでも、これ以上仲間であるクレア達に迷惑はかけられない。

 迷いを胸に、レオセイバーはヴォルフブレードへ、 クレアとデルトはポーン達を相手に、ゼイオン軍の救援へ向かう。


「大丈夫ですか!?」

「あん時のオリジンか、すまねぇ……」


 右腕を失ったライズのヴァーガインの元に、クレアのピーフォウィザーが駆けつける。

 また、オリジンに命を救われた。これもなにかの因縁なんだろうか。

 あの時の言葉通り、人々の為に戦う彼らの姿をこの目で見れ、そんな彼らに助けられるならば、ライズは悪い気はしなかった。


「ラルクさん……」


 ラルク一人でヴォルフブレードに向かわせたのは間違いかもしれない。

 もしも、クレアかデルトが共にいれば、遠回しに兄と戦わせる事を強制させる事になる。

 そうなれば、「納得した理由で戦って欲しい」というラルクへの思いと矛盾する。

 彼の意思を尊重し、そしてクレアは彼を信じたかった。彼は自分達を裏切らないと。

 その間にも、レオセイバーとヴォルフブレードの戦いは続いている。

 しかし、ラルクは迷いを振り切ろうとするも、出来ずにいた。

 その迷いは動きにも現れ、ガンブレードの刃がヴォルフブレードにかすりもしない。

 だが、ヴォルフブレードは攻撃してくる様子はなく、ただ素早く攻撃を避けていく。

 

「なにをやってるんだアイツは……!」


 焦りと迷いが混ざり、手加減をしているような動きをするレオセイバーに対して、ハオンは苛立ちを隠せない。

 あれではオリジンの性能を活かしきれていていない。


『大きな力を持つ者には、弱き者を守る責務がある。それを忘れるな』 

『分かるさ。その弱き者の一人だったからな』


 あの時、レオセイバーの操者が自分に言った言葉が蘇る。

 人の為にその力を使う。それも言葉だけだったのか。

 ハオンは彼に失望しながら、ハオンのレーガインは銃を構える。


「邪魔だ、そこをどけッ!」


 怒声でレオセイバーに通信を入れると、すぐに銃口から魔弾が放たれた。

 レオセイバーは回避に成功し、魔弾はヴォルフブレードの肩に命中する。

 だが、肩に命中しただけでは致命傷とはいえない。まだかすり傷程度だ。

 今のレオセイバーはあてに出来ない。

 ならば、さっさと逃げた方がマシだ。

 レーガインは注意を引かせるように、ヴォルフブレードに射撃し続ける。


「いい加減にしろ!戦う気がないなら逃げろッ!」


 再び、ハオンから通信が入る。

 今度こそは迷わない、そう心に決めたのに。

 実の兄を前に、ラルクの決心が揺らいでいた。

 レオセイバーが後退すると、レーガインの射撃を避けながらヴォルフブレードは距離を縮めていく。


「終わりだ!ラルクッ!」


 逆手で握られた剣がレオセイバーに迫る。

 明らかな殺意がラルクに向けられていた。


「ラルクッ!」


 デルトはラルクの名を叫び、スラスターを吹かせダイノアクスは向かう。

 急がなければ。ラルクは自分達の為に戦ってくれた。命の恩人だ。

 ならば、今度は自分がその恩を返す時だ。


(辛い思いしてるから、放っておけねぇ……そうだろ、ラルク!)

 

 そして、ヴォルフブレードの剣はレオセイバーに刺さる事はなかった。

 剣はダイノアクスに刺さっている。レオセイバーとヴォルフブレードの間に割り込み、身代わりとなったのだ。


「デルトッ!」


 レオセイバーは銃口をヴォルフブレードに向け、躊躇いなく魔弾を撃つ。

 兄が仲間を攻撃したという現実が、兄と戦うという葛藤を上回ったのだ。

 魔弾は命中せず、剣を抜き取りヴォルフブレードは後退する。


「デルト、大丈夫か、しっかりしろッ!」

「俺は大丈夫だ……それよりも、兄貴とケリ、ちゃんとつけろよ……」


 操縦席には刺さらず戦死は避けられたが、怪我を負っているのはデルトの弱々しい声から察しがついた。

 自分と兄の問題なのに、デルトを巻き込んでしまった事への責任感を抱くと同時に、今のエルクは自分の知っている兄ではないと確信を抱いていた。

 ラルクの知っているエルクは人を傷つけるような事はしない。

 ガーディアンズのように力づくで事をなそうとしているのであれば、もう敵だ。戦うしかない。それが兄であっても。


「アンタはオレの知ってる兄貴じゃない……仲間を、人を傷つけるなら……オレは容赦しないッ!」


 ラルクは迷うを振り切り、固く決意する。

 すると、レオセイバーが光り輝く。

 ソウルクリスタルがラルクの強い意志に共鳴し、高出力の魔力を放っているのだ。


「とてつもない魔力反応……!一体レオセイバーに何が起きてるんですか……?!」


 クレアにも分からぬ、未知の現象がレオセイバーに起きている。

 これから何が起こるのか、彼女は心配でしかたなかった。

 ピーフォウィザーは新たな魔力反応を探知する。

 まるで、レオセイバーの魔力に引き寄せられるようだった。

 魔動機にしては速く、レオセイバーに向かっていく。

 ピーフォウィザーの目が金色に彩られた鳥の姿を捉える。それがレオセイバーに向かうモノの正体であった。

 鳥がこれほどの魔力を発するわけがない。

 なにより鳥にしては大きく、魔動機のような機械に見えた。

 ならば魔動機か?ありえない。魔動機は人が操り、操者の思考を読み取り動く為、どうしても人型である必要がある。

 クレアは金色の鳥について考察するも、納得いく結論は出なかった。

 

「ソウルガルーダ……」


 ラルクはモニターに出たその名前を呟く。

 レオセイバーのモニターに鳥の形をした魔動機のデータが書かれている。

 「この機体はレオセイバーと合体が可能である」とも。

 ラルクはソウルガルーダが何なのか分からない。

 だが、それがガーディアンズに対抗できる力になるのであれば、使いたい。いや、使うしかない。

 傷付いたデルトの為に。

 クレアとスアンとヘンリ、仲間の為に。

 ライズとハオンに誓った約束を果たす為に。

 昔の自分のように力を持たない人々を守る為に。


「力があるなら、オレの為に使えッ!」


 合体するべく、レオセイバーは地を蹴り空高く飛ぶと、背中に魔法陣が展開される。

 そして、ソウルガルーダの足がレオセイバーの背中を掴み、合体が完了する。

 背中に鳥が付いたようなこの姿こそが、ソウルガルーダとの合体形態であった。


「行くぞ、レオセイバー!ソウルガルーダッ!」


 魔動機と鳥が合体した、信じられない光景を前に全軍は動きを止めていた。

 翼を大きく広げ、翼から金色に輝く魔力が放出される。

 ソウルガルーダと合体したレオセイバーは輝きを放ち、神々しく空に浮かんでいた。

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