第34話「彼らの軌跡」


 ヴォルフブレードの撤退とルークの撃破により、ミュード奪還作戦はエレシスタとゼイオンの連合軍による勝利で幕を下ろした。

 ラルク達第五小隊はテンハイス城へと戻り、魔動機の整備など次の戦いの向けて準備をしていた。

 ここテンハイス城の格納庫では、両手足を失ったビショップへの尋問が始まろうとしていた。


「貴方に聞きたいことがあります、ビショップ。貴方達は何のために作られたのですか?」


 初歩的な事をクレアは尋ねる。

 一体誰が何のために作り、人を支配を目指すようになったのか、未だ謎だらけであった。


「千年以上前、私達はエレシスタの魔術師達により作り出された。この国を守るために」

「では何故、貴方達は人を支配しようと考えたのですか?」


 エレシスタを守るために作られたのに、今では人を支配し、自分達が管理する世界を作り出そうとしている。

 何故そう思ったのか、そうなったのか、クレアが気になるのは必然と言えた。


「我々は戦いの中で一つの結論にたどり着いた。争いのない世界を作るためには、我々が支配しなければならないのだと」


***


 聖暦以前、光暦と呼ばれていた時代の5月11日。

 私、ビショップという存在が出来た。


「私はキート。キミを作った……まぁ、父親って事になるな。よろしく頼む」


 目覚めて間もない私の前に、一人の白衣を着たエレシスタ人の男、キート博士がいた。

 彼こそ、私という存在を作った魔術師であった。

 何故作られたのか、私はキート博士に尋ねた。

 彼が言うには、エレシスタとゼイオンの戦争が激化しており、長期化しかねないこの戦争を有利に運ぶために、無人で完全に独立した魔動機を投入を魔術研究所が提案したのだという。

 その結果、従来の操者を必要とする魔動機の開発と並行する形で、我々の研究を始まった。

 キート博士は魔術により構成された人工知能の研究を専門としており、魔動機は専門外である。

 しかし、今は戦時中。

 人工知能の研究に協力する代わりに、エレシスタの為に無人魔動機を作れと命じられた訳だ。

 戦争に加担する後ろめたさを感じながらも、彼は無人魔動機の開発に協力する事となる。


「最新で最先端の魔術を使った戦争だなんて……いくら技術が進歩しても、人ってのは変わらないもんだ」


 ある日、私の前で彼はコーヒーの入ったカップを手に取り、愚痴をこぼす。

 まだ人のような経験は少ないが、私もその通りだと納得した。

 魔力の発見、魔術の発明、そして発展と普及。魔術により人々の生活は大きく変わった。

 しかし、その変化に人間が追い付いているかと言えば、そうではない。

 人々はすぐにも魔術を軍事技術として利用し始めた。

 最初は魔動石を付けた杖で炎を出し、敵を焼き払った。

 次に、自分の放った魔術から身を守り、より強力な魔術を放つように鎧を作った。

 次第に鎧は大型化し、着るモノから乗るモノへと変わり、魔動機が誕生した。

 どんな兵器よりも強く、堅く、速く、魔動機は過去の兵器を圧倒し、すぐにも戦場の主役へとなった。

 そして、我々も戦争を終わらせるために、魔動機として戦場に立つ日が訪れた。

 機械だから、死なない。疲れない。痛みを感じない。睡眠も食料も必要としない我々はすぐにも、激戦区に送り込まれた。

 エレシスタ軍上層部は機械である我々への不信感もあり、ここに送ったのだろう。

 次も、その次も過酷な戦場に送られ、休む間もなく我々の戦いは続く。終わりが無いのかと思えるほどに。

 そんな時、ガーディアンズの幹部であるナイトに異変が生じる。


「何故我々が人間の為に戦わないといけないだッ?!」


 ナイトの疑問は最もだ。

 人が争いを起こしたのならば、人が争いを終わらせるべきだ。

 何故我々が戦争の終結の為に戦わなければいけない?

 その疑念はキング、クイーン、ルークにも広まり始めていった。

 危険な思想を抱いていると判断した軍上層部は、ナイトのデータは完全に消去された。

 バックアップされ、ボディさえあれば蘇る事が出来る我々にとって、データの消去とは死を意味していた。


「ナイト……」


 自分の都合で作り、戦わされ、そして消した、軍の行いは理不尽だと私は思った。

 ナイトが消去されても、当然戦いが終わるわけではない。

 戦いに勝利しても、また次の戦いが待っている。

 人は戦いというゲームを永遠と繰り返す。

 エレシスタとゼイオン、白黒はっきりと分かれたこの世界はまるでチェスの盤上。

 我々は魔動機。戦う事しか出来ず、人のように死なない。

 人は我々を「死なない兵士」と呼んだが、それは違う。

 機械だから生命がないから死なない。「生きてない兵士」なのだ。


「戦争を終わらせるためには、機械である我々が人間を支配しなければならない。それが私の導き出した答えだ」


 我らが王、キングは一つの答えに辿り着いた。

 人を守るために、人を傷つけ、力で支配する。

 矛盾しているが、「戦争を終らせる」という目的を果たすための近道であった。

 人は不完全だ。感情に身を任せ、間違いを犯し、争う。

 ならば我々が支配し、管理すればいいのだ。

 こうして我々は戦争を終わらせるために、人間達に反旗を翻した。

 しかし、戦争は終わる事となる。

 両国は長年争い続けた結果、人口は激減し、大地は荒れ果て、最早戦争を続けられる余裕すらないほどに追い込まれたのだ。

 役目を終えたと判断した王は、現在はゼイオンの領土であるラングルー山脈の神殿にて眠りに付くこととなった。

 また再び、人間が大きな争いを起きたその時まで。

 そして千年後。その時は訪れる。

 我々は"誰か"によって目覚め、人間を支配すべく再び動き出したのだ。

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