第27話「最後の適合者」


 テンハイス城の北に位置する街、ミュードにガーディアンズが侵攻を始めた。

 駐留部隊は壊滅。救援はテンハイス城に届き、ラルク達第五部隊も出撃する事となり、昼下がりの空のもとミュードへ向かっていた。


「そろそろミュードです!皆さん、気を引き締めて!」

「わかった」

「まっ、アタシ達なら余裕でしょ!」


 クレアの通信を聞き、ラルクは返答する。

 以前幹部ルークを倒したからか、スアンは余裕のある態度でいる。

 口にはしてないが、他の四人も自信があるのは確かだった。

 自分達五人が揃えば、幹部だろうと相手できる。

 そう思うのは無理もない。


「機影確認!あれは……ビショップ!」


 街を前にポーン、その上空にビショップが待ち構えていた。

 無論、ラルク達を迎え撃つ為にだ。


「ビショップ?」

「ルークとやる前に、オレとクレアが戦ったガーディアンズ幹部だ」


 ビショップを初めて見る自分達三人を代弁するように、ヘンリがラルクに尋ねる。

 ラルクの言葉を聞いて「ああ、なるほど」とデルト達三人は納得する。


「ビショップには私とラルクさん、あとスアンさんで行きます!デルトとヘンリはポーンの方をお願いします!」

「了解!デルトとヘンリはポーン共を抑えておいてよね!」

「ああ!雑魚は俺達に任せな!」


 デルトが頼りがいのある返事をすると、第五小隊は二手に分かれ、ダイノアクスとライノカノンの後ろに友軍のナイト部隊が続く。

 ビショップと戦うは、戦った事のある自分とラルク、そしてイーグルランサーの機動性からスアンを加えた三人。

 敵はビショップだけではない。配下のポーン達を相手にしなければならない。

 その点から、近接戦闘に強いデルトのダイノアクス、砲撃による敵の一掃からヘンリのライノカノンを向かわせ、部隊を分断すべきだとがクレアは考えた。


「まずは突破口を作らないとね」


 ライノカノンの両肩のコンテナが開き、多数の魔弾が放たれる。

 魔弾はポーン部隊に命中し、大きな爆発がいくつも上がる。

 横並びだった戦列に穴が開き、ラルク達の三機がポーンを蹴散らしながら突き進む。


「ラルク達は行ったな……よし、やるぞヘンリ!」

「了解……まっこれくらいなら僕達でいけるかな」


 ダイノアクスは斧を構え、ライノカノンをポーンに二丁のバズーカを向ける。

 ざっと二十機ほどだろうか。

 それでも、自然と負ける気はなく、二人共自信に満ちあふれていた。


***


「レオセイバーにピーフォウィザー……あれはルークと戦ったというイーグルランサーか」


 宙に浮かびながら、ビショップは三機を捉える。


「また来たか。私にやられる為に」

「はい、来ました!決着を付ける為に!」


 クレアは自信満々に会話が噛み合わない答えをする。

 二機が三機に増えた程度で、そんな自信が湧くのか。

 人間以上に、的確な判断と分析が出来る自分達が勝つに決まっている。

 ビショップはそう確信していた。


「私がガーディアンズのビショップである以上、結果は見えている……!」


 ルークを倒したのが彼らの自信の元となっているのだろうか。

 だが、自分はルークのように甘くは行かない。

 人間を超えた自分達が、人間である彼らに負ける訳がない、負けてはいけないのだ。

 ビショップは魔術で五本の氷柱を出現させ、三機に向けて放つ。

 あの時、ピーフォウィザーに命中させた時と同じ強度と威力がある。

 これならば避けても、防げないだろうと考えてのものだった。

 氷柱は刻一刻と三機に向かってくる。

 クレアは咄嗟の判断で、ピーフォウィザーの翼を展開し炎の渦を作り出す。


(これだとまた突破される……出し惜しみしたら負ける……もっと強い炎を……!)


 クレアの意思に合わせ、炎の渦はさらに火力を増す。

 そして、氷柱は炎によって溶けていく。


「スアンさん!今すぐ全速力で突っ込んで腰を狙って下さい!」

「なんだか分からないけど、分かった!」


 この隙を逃す訳にはいかない。クレアはスアンに指示を出す。

 まずは、ビショップと自分達三機の距離を縮める必要がある。

 その為には、ビショップを滞空させる腰のスラスターを攻撃する必要があった。

 イーグルランサーは両肩の翼を広げ、二本の槍を向けながら、上空のビショップに向かって飛んでいく。

 機動性の高い魔動機だけに、ビショップでも回避は難しく、作戦通り腰のスラスターを破壊する事に成功する。


「くっ……人間の癖に……!」

「人間を舐めるんじゃないっての!」


 イーグルランサーはビショップよりも高い位置で止まり、ビショップは落ちていく。

 流石にそのまま墜落する訳はなく、姿勢を制御し土埃を上げて着地する。

 

「ラルクさん!」

「任せろ!」


 レオセイバーは空を飛べないが、今のビショップは足が地に着いており、空を飛べるというアドバンテージが活かせない。

 ならば、勝てる見込みが大きい。

 ラルクはレオセイバーを前進させ、獲物を狩る獣のようにスラスターを吹かせ接近していく。


「そう簡単に勝てると思うな!」


 ビショップは再び氷柱を出し、レオセイバーに向けて放つ。

 

「勝つのはオレ達だッ!」


 レオセイバーはガンブレードを氷柱に向け、魔弾を放つ。

 魔弾が命中した氷柱は砕けるが、絶え間なく次の氷柱が向けられが、ラルクは動じない。

 次々に来る氷柱に撃ち落としながら回避し、ビショップへと近づいてく。

 しかし、ほんの一瞬を突かれ、レオセイバーの左肩に氷柱が命中し、仰向けに倒れていく。


「ぐあああッ!」

「ラルクさん!」


 クレアとスアン二人は焦り、クレアは思わず声を上げる。

 仲間であるラルクがやられたのだ、動揺も致し方なかった。


「チェックだ!」


 動揺しているこの瞬間が狙いと考え、ビショップはピーフォウィザーに狙いを定め氷柱を放つ。

 クレアは向けられている氷柱の存在に気付くも、回避が間に合わない。


「クレアッ!」


 クレアの危機を、仲間であるスアンが見過ごせる訳がなかった。

 一秒でも、一瞬でも早く駆けつけるべく、イーグルランサーはピーフォウィザーの元へ向かう。

 向かってくる氷柱から助けるべく、イーグルランサーは敢えてピーフォウィザーを蹴り、強制的に回避させる。

 クレアも、その意図を受け取り、蹴り飛ばされても即座に態勢を整える。


「しっかりしなさい!アンタが隊長なんでしょ!」

「すいません!ですが、ラルクさんが!」


 スアンの言う通りだ。

 ラルクが直撃を受けたとはいえ、隊長だというのに不注意であった。

 スアンは比較的落ち着いてはいるが、ラルクの事が心配なのはクレアと同じだ。


「ピーフォウィザーは仕留め損ねたが、レオセイバーはもう死んだも同然。ここで私が引導を渡してやろう……チェックメイトだ!」


 レオセイバーの上に氷柱が現れ胴体を貫こうとしたその時、レオセイバーは突然起き上がって氷柱を回避する。

 すると、動かなくなった左腕をぶら下げながら、スラスターを吹かせビショップに接近する。


「何だとッ?!」

「チェックメイトはお前だッ!ビショップッ!」


 ガンブレードをビショップに向けて、魔弾が放たれと、ビショップの右腕に命中する。

 右腕が外れ、ドシンと大きな音を立て地面へ落ちる。

 絶好のチャンスを逃さんと、レオセイバーはガンブレードを突き胴体を狙う。

 ビショップもこのままやられる訳にはいかない。

 まだ動かせるスラスターを吹かせ跳ぶが、ガンブレードの攻撃を避けきれず、刃が腰に刺さり、ビショップの機体は上半身と下半身に斬り裂かれてしまう。

 ビショップの上半身が宙を舞い、背中から地面に激突する。


「何故だ……何故あの絶望的な状況下でも恐れず立ち向かう……」


 左肩とはいえ、直撃を受けたというのに、それでも立ち上がり突き進んでくるラルクを、ビショップは理解出来なかった。

 彼には恐怖というのが無いのか。

 そんな風に思えてきた。


「クレアとスアンが繋げてくれたチャンスだ。そのチャンスを逃すワケはねぇだろ」


 訪れたチャンスは逃さない。ラルクのモットーでもあった。

 クレアが立てた作戦に、スアンが作ってくれたチャンス。

 仲間として、それを逃す手は無かった。


「それに、テメェらガーディアンズは絶対に叩き潰さないといけねぇからな」

「私達を倒すという一つの目的の為に、動じず突き進む……恐ろしい人間だ」


 あの状況下でも諦めず、ただ敵を倒すために動く彼をビショップは恐ろしく感じ、同時にどこか感心していた。

 感情の起伏が激しいが、人間にしては優秀な判断力だ。

 少々人間を見くびりすぎたかと、ビショップは認識を改める事を検討していた。


「ビショップ、貴方には聞きたい事が山ほどあります。投降して下さい」

「私が人間相手に負けるわけには……」


 クレアはビショップに、投降するよう宣告する。

 右腕と下半身を失い、文字通り手も足もこの状況ではどうする事できない。

 ビショップは不本意だが、敗北を認め投降する他なかった。


「私も負ける訳にはいかないんです。人々を守るために」

「人々を守るために、か……」


 ビショップは一人ぼやく。

 自分達も愚かな人間の為に、この世界を支配し管理しようとしている。

 だが、彼女も人を守る為に、戦い立ち向かって来ている。

 自分も彼女も、同じ人間の為に戦っているはずなのに何故対立しているのだろう。

 ガーディアンズの理想が絶対的に正しいというのに。

 ビショップはそんな疑問が浮かんでいた。


***


「ポーン部隊はあらかた片付いたか」


 残骸となったポーン達を見て、デルトは呟く。

 その時、デルトとヘンリにラルク達に初めて会った時のような感覚が襲いかかる。


「デルト、この感じ……!」

「ああ、なんだか分かんねぇがなんかが来る、そんな感じだぜ……!」


 二人は直感的に、何かの気配を感じ取る。

 すると、ダイノアクスとライノカノンが魔力の反応を捉える。


「一機だけ?ガーディアンズか分かんねぇが、行くぞ!ヘンリ!」


 ダイノアクスはスラスターを吹かせ、反応の元へ向かう。

 一刻も早く向かう必要がある、直感がそう告げているようであった。


「ここは任せたよ!」

「わ、分かった!気を付けろよ!」


 ヘンリはナイト部隊の兵士に通信を入れると、ダイノアクスの後を追い向かう。

 なんとかしなければならない、それはヘンリも同意見であった。

 理屈だとかそういうのは後回しだ。

 今はただ、この直感に従う必要をヘンリは感じていた。

 

「本当に一機みたいだね。なら先手は取らせてもらうよ!」


 向かってくる謎の魔動機の姿を捉える。

 自分達の援軍、そういう可能性もあったかもしれない。

 だがやはり、直感はそうじゃないと告げている。

 コイツは敵だ。倒すべき敵だと。ソウルクリスタルがそう囁いているような気がした。

 ラルク達に会った時と同じようであったが、何かが違う。

 初めての感覚だった。

 ライノカノンは両肩のコンテナを開けると、すぐに魔弾を放つ。

 しかし、敵は横に回避し魔弾は一発も当たらない。


「へぇ、なかなかやるじゃん……!」

「よせヘンリ!無闇に近付くな!」


 躍起になったヘンリは、両手のバズーカを放ちながら敵に突き進むが、敵は攻撃を回避しライノカノンへ近づいてくる。


「あの機体は……!」


 近づいてきて、敵の正体がハッキリと分かった。

 あれはヴォルフブレード。ソウルクリスタルを秘めた六機のうちの、最後の一機。

 研究所で見たことがあり、ヘンリも知っていた。

 そして、その適合者である操者も……


「ヘンリ!!」


 ヴォルフブレードは至近距離まで接近し、逆手で持った剣でライノカノンへ斬りかかる。

 刃が胸の装甲を斬り、ライノカノンは倒れてしまう。

 命の恩人である彼がヴォルフブレードを操っているのだと考え、デルトは少し攻撃を躊躇ってしまう。

 しかし、現に仲間であるヘンリが攻撃されたのだ。仲間を守るために戦うしか無い。

 デルトはヘンリを助けるべく、ヴォルフブレードに接近し斧を振り下ろすも、ヴォルフブレードは紙一重でかわす。


「なに……?!ぐあああッ!」


 驚くデルトにすぐさま蹴りを入れ、ダイノアクスを退ける。

 すると、標的は違うのか追撃せず、ヴォルフブレードは二機に目も向けず進む。


「あれはヴォルフブレード……ってコトは……」


 ソウルクリスタルを秘めた魔動機を操れる者は、とても少ない。

 だから操者はすぐにもわかった。ラルクの兄、エルクだ。

 そして、ヴォルフブレードの向かった先にはラルク達がいる。

 狙いはラルクなのか?

 自分の弟だというのに?

 そもそも、何故ヴォルフブレードが自分達に襲いかかってきたのか。

 それすらも、デルトには分からなかった。


「ラルク達が……!おい、ヘンリッ!」


 ラルク達に危機が迫っている。助けなければ。

 ヴォルフブレードの攻撃を受け、倒れているライノカノンからヘンリの応答を待っているその時。

 さらに新たに二十機ほどの魔力反応を探知し、魔弾が地面に着弾する。


「今度は誰だッ!」


 魔弾が飛んできた方へ向くと、ポーンと見たことある機影がいた。

 そう、あれは……


「また会ったな、ダイノアクス。今度こそ息の根を止めてやろう」

「ルーク!テメェ、死んだ筈じゃ!」

「フフフッ……死とは実に人間の発想だ。私達は人間を超え、死という概念すらも超越しているのだよ……!」


 ダイノアクスに魔弾を放った主はそう、ルークであった。

 ソウルクリスタル最後の一機であるヴォルフブレードに、再び姿を現した幹部ルーク。

 今、この戦場にさらなる波乱が起きようとしていた……

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