第24話「決死の共同戦線」
ルークの砲撃から逃げてきたラルクとデルト。
二人はクレアとスアン、ヘンリの三人の元へ向かった。
「デルト!」
「ちょっと、大丈夫なの?!」
損傷の目立つダイノアクスを目にし、ヘンリとスアンの二人は通信を入れる。
デルトの言葉に従ったとはいえ、彼の言葉に甘えてこうなったのだと、二人は罪悪感を抱いていた。
「デルトを助けてくれて礼を言うよ。えっと……」
「オレはラルク。礼はいい、オレが好きにやっただけだからな」
誰かに苦しめられ、苦しんで、助けが必要な状況をラルクは放ってはいられなかった。
ただそれだけであった。
「僕はヘンリ、こっちがスアン」
「言っておくけど、アタシはまだアンタの事信用してる訳じゃないんだからね!」
ヘンリは少し警戒心を緩めているが、デルトを助けてもなお、スアンの警戒が解ける事はなかった。
研究所を抜け出す時に助けてくれたエレシスタ人がいたが、三年間同じゼイオン人は助けてくれもしなかった。
それなのに、エレシスタ人のラルクが助けてくれるなど不自然だと、スアンは思わずにいられなかったのだ。
「とりあえず、今は俺達の敵であるガーディアンズから逃げるのが先だが……」
「アイツを潰さねぇといけねぇみたいだな」
デルトが本題を持ちかけると、ラルクは冷静に今の状況を分析する。
アイツとは無論、ルークの事だ。
ルークの狙いがソウルクリスタルの五機であり、あの厄介な砲撃がある以上、逃げているだけでは埒が明かないと考えたのだ。
「アイツの砲撃は厄介だが、潰せば後は雑魚だけだ」
確かにルークは強敵だが、ポーン相手なら苦戦はしないだろうとラルクは踏んでいた。
「だけど、機体の損傷してるデルトを除いて、この四人だけでどうしろって言うの?」
「まずは敵の注意を向けて、その間に倒す。ベタな戦法だけどこれしかないんじゃない?」
スアンの疑問に、ヘンリが答える。
ヘンリは三人の中でも作戦立案などが得意で頭の回転も速く、参謀のような役割を務めていた。
「それならば私に提案があります。ですが、この作戦には四人全員の連携が必要不可欠です。一人でも取り乱せば……」
クレアが作戦を提案する。
書物と、そして先の実戦でソウルクリスタルを持つ機体の性能を熟知している彼女だからこそ、この作戦を考えられると言えた。
***
デルトを後方に待機させ、作戦は開始された。
ピーフォウィザーを先頭、四機はスラスターを吹かせながら川を走り、ルークの元へ向かっていた。
「ねぇ、ほんとにあの二人を信じてるの?作戦とか言ってたけど、どさくさに紛れて逃げ出したりしたらどうするの?」
「僕もまだ完全には信用してないさ。でも、そんな事をするなら、わざわざデルトを助けると思う?」
スアンはヘンリに通信を入れる。
双方ともガーディアンズが敵だから一時的に手を組んでいるが、やはりスアンはまだ不安であった。
ヘンリも過信はしていないが、デルトを助けた彼らがここで逃げ出すとは考えづらかった。
それに、クレアの言葉も信用に足る根拠であった。
ガーディアンズから人々を守りたいという強い意志は、嘘偽りない物だろう。
「仮にも逃げ出したら、その時はその時さ」
ヘンリがスアンにもう一言話すと、前方にルークの姿が見えてくる。
「ガーディアンズ幹部の一人、ルークを前に臆せず出てきた勇気だけは賞賛しよう。だが痛みも疲れも知らず、死ぬ事もなく人間を超えた私の勝利は揺るぎない……!」
クレアは自分の推測でガーディアンズの幹部だと断定していたが、やはりあの機体も幹部なのだと再認識すると、ルークの両肩から魔弾による砲撃が始まる。
魔弾が川に着弾し、大きな水飛沫を上げる中、クレアはピーフォウィザーは魔術で障壁を作り、ルークの砲撃に備える。
段々と狙いが正確になり、魔弾が障壁に命中し始める。
障壁とはいえ、限界がある。
ルークの砲撃を防ぎきれるのも時間の問題でもあった。
「ヘンリさん!作戦通りお願いします!」
「僕もこんなとこで死にたくないからね。了解した!」
ヘンリのライノカノンは両肩のコンテナを開放し、向かってくるポーンに向け魔弾を発射する。
魔弾は命中し数機のポーンは撃破されるが、残りのポーンはルークの命令に従い突き進んでいく。
障壁を打ち破らんと、接近してきたポーンは剣を振る。
だがルークはそんなポーン達がいても砲撃を続け、味方を巻き込んでいく。
「攻撃はこちらに引きつけています。スアンさん!」
「言われなくても!」
ピーフォウィザーの後方で待機していたイーグルランサーは高く飛び、二本の槍を向けてルークに向かって急降下する。
ルークの魔弾が飛んでくるも、イーグルランサーは華麗に回避していく。
「今度はアタシ達がデルトを助けるんだからッ!」
スラスターを大きく吹かせ突撃するが、ルークは上を向き、腕を交差させ槍を防ぐ。
「残念だったな、その程度想定の範囲内だ」
「ラルク、今よ!」
イーグルランサーの攻撃も、ルークの注意を引きつける囮だった。
ラルクのレオセイバーは障壁の前に出て、全速力でルークに向かっていく。
「何が来ようと同じだ!」
機械らしからぬ荒げた声を上げ、イーグルランサーを払い除け、レオセイバーに向けて砲撃するが命中せず、川や味方のポーンに着弾する。
「人間ごときに、遅れを取るなど!私は完璧なのだ!任務に失敗することなど……!」
ついに、レオセイバーが至近距離まで接近し、機動性の引くルークは回避が間に合わず、ブレードガンがルークの腹部に突き刺さる。
「これで終わりだッ!」
「私は完璧だ……私は死なない……」
自分の敗北を受け入れられないルークの言葉に構わず、ガンブレードから最大出力で魔弾を撃つ。
魔弾がルークの胴体を貫通したのを確認すると、レオセイバーは素早く後退し、ルークは爆散した。
すると、ルークの管轄下にあったポーンも、機密保持の為か自爆装置が起動し爆発する。
「やりましたね、ラルクさん!ヘンリさん!スアンさん!」
「まっ、上出来じゃないかな」
クレアが作戦成功に喜び、三人に話しかけるとヘンリは満更でもなく答える。
「ねぇ、なんでアタシ達を助けてくれたの?」
スアンはラルクに尋ねる。
何故ゼイオン人でもないラルクが助けてくれたのか。
ルークを撃破出来た今でも、その疑問が晴れる事はなかった。
「ガーディアンズのヤツらが気に食わないのと」
「と?」
「お前達が放っておけなかったからだ」
ラルクにとっては後者の方が要因として大きかった。
デルトと二人の関係が、どこか兄と自分を重ねて見えていた。
「フフフっ、変わってるねアンタ」
「そうか?」
デルトが死ねば、二人に大きな傷が残る。
その傷がどれだけ大きいか、ラルクにはよく分かる。
だから、助けた。
ただそれだけだった。
ゼイオン人である自分達を助け、その上見返りを求めない彼はスアンにとって変わった人に見えていた。
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