第23話「救いの手」
ルークの砲撃により生じた爆音が森中に響く。
その音は、クレアとスアンとヘンリの三人にも聞こえていた。
「あっちってデルトがいる方よね?!」
「間違いない、僕達も向かおう。アンタもあっちに向かったほうがいいんじゃない?」
ヘンリはクレアに通信を入れる。
デルトがいれば、その相手であるレオセイバーの操者ラルクもいるはずだ。
「どうしてわざわざ私に……?」
「さぁ、なんでかな。気まぐれさ」
クレアはヘンリ達と歳が近いからか、エレシスタ人だからか、自分達を兵器のように扱ってきた大人達とは違う。
ヘンリはなんとなくそんな気がした。
ならば、ここで恩を売っておくのも悪くはないと考えていた。
二人はピーフォウィザーを仕留めるよりもデルトを助けるのを優先し、爆音の方へと向かっていく。
「私も、行かなくちゃ……」
倒れ傷ついたピーフォウィザーを起こす。
オリジン、そしてソウルクリスタルはガーディアンズへの切り札となる。
だから、ここでレオセイバーを失うわけにはいかない。
なにより、ここまで一緒に来てくれた仲間であるラルクを見捨てるわけにはいかない。
クレアもピーフォウィザーを動かし、ラルクの元へ向かう。
***
「どうだ人間共。私の砲撃の前では手も足も出ないだろう」
ルークは両肩の大砲で絶えず砲撃を続ける。
射撃武装の無いデルトのダイノアクスはただ砲撃を回避し続ける他なかった。
ブレードガンがあるラルクのレオセイバーも、ルークの火力の相手では分が悪く、ダイノアクス同様逃げ回っていた。
「あれがガーディアンズってヤツか?」
デルトも噂話程度には聞いたことがあり、この世界を支配しようと企む連中という認識であった。
「ああ!奴らにエレシスタもゼイオンも関係ない!だから手を貸してくれ!」
「冗談じゃねぇ!テメェらだけで戦って、テメェらだけで死にやがれ!」
誰が他人の為になんか戦えるか。
ただ自分達が生き延びる為だけにデルト達は戦っていた。
自分達を利用してきたゼイオン人は勿論、エレシスタ人の為に戦う気など彼にはなかった。
「どうした?逃げ回るだけでは私に勝てんぞ?」
ルークは砲撃を続けながら、部下のポーンをレオセイバーとダイノアクスに向かわせる。
ポーンだけならば脅威ではないが、あの砲撃は強力だ。
ルークがいる以上、ラルク達が苦戦するのは必然だった。
二機は次々と来るポーンを薙ぎ払っていく。
「デルト!」
「ラルクさん!」
そこに、ピーフォウィザーとイーグルランサー、ライノカノンの三機が駆けつける。
それぞれの仲間を助けるために。
「バカ野郎ッ!なんで来た!ここはオレが抑える!そのうちに逃げろ!」
斧を振り回し、敵機を打ち倒しながら、デルトはスアンとヘンリに通信を入れる。
年長者である自分がこの二人を守らなければ……
自分達三人を助けてくれた、あの人のように二人を守らなかれば……
デルトはそんな使命感を抱えながらポーンと戦っていた。
ラルクもレオセイバーを操り、間合いに入った敵を切り裂き、向かってくるポーンを撃ち抜いていると、突然機体が大きく揺れる。
「ラルクさん!ここは逃げましょう!」
クレアの通信で、飛んでいるピーフォウィザーにレオセイバーが持ち運ばれている事に気付いた。
「だけど、アイツらは……!」
「彼らが味方でない以上、今の戦力でガーディアンズ幹部とやりあうのは無理です!この間のビショップを忘れたんですか?!」
レオセイバーとピーフォウィザーは森の中で着地し、二人の議論が始まる。
クレアの言っている事は分かる。この間のビショップとの戦いも忘れた訳ではない。
恐らく彼女の意見が最も現実的なんだろう。
だが、ガーディアンズと戦っているデルトを見捨てて逃げる事に、ラルクは抵抗を感じていた。
ラルクはデルトと、あの夜の兄との姿を重ねて見ていたからだ。
ゼイオン人だからだとか、ソウルクリスタルがあるからだとか、仲間じゃないからだとか、そういう事も少なからずあるかもしれない。
仲間である二人の為に戦っているデルトの力になりたい。
苦戦している彼は助けを求めているに違いない。
ここでデルトを見捨て、彼が戦死でもすれば、スアンとヘンリに大きな傷が残るのは想像に難しくない。
折角レオセイバーという力があるのに、助けを求めている人から目を逸らすのか?
ラルクは葛藤していた。
「生きてればチャンスがあるんですよね?!なら、ここは逃げるべきです!ラルクさんだって分かるでしょ?!」
この間ラルクに言われた言葉を、クレアは返す。
デルト達を見捨てる罪悪感はクレアもあった。
だが、それは生きて次へ繋げる為だ。
ガーディアンズと決着をつける為にも、ここは逃げるのが最良だと彼女は考えていた。
「助けが来ない辛さはオレも知っている。だから、アイツらを助けたい。たとえ仲間にならなくてもな」
ラルクは自分の思いを、自分の言葉でクレアに伝える。
「わ、分かりました!ラルクさんはそう簡単にやられはしないと思いますけど、彼らを助けるために死んだら意味ないんですからねッ!」
「ああ!クレアはあの二機を頼む!」
レオセイバーは大きく跳び、再び戦場へ戻る。
ブレードガンをポーン達に向け、空中から魔弾を放つ。
三発の魔弾は三機の頭部を撃ち抜くと、レオセイバーは着地する。
「なんでテメェが戻ってきた?」
ダイノアクスはレオセイバーと背中合わせになり、ラルクに通信を入れる。
「お前達が放っておけねぇからな」
「フン、バカなヤツだ。辛い目にあってるオレを放って逃げりゃいいってのに」
「辛い目にあってるから、放っておけねぇんだろッ!」
その言葉が、デルトの心を大きく動かした。
自分達の為に命を張ろうとする人など今まで居ただろうか。
彼は何かの見返りを求めているかもしれない。
それでも、先の言葉は必死で、真剣さを感じられた。
彼ならば信じていいかもしれない。
デルトはそう思い始めていた。
「とりあえず一旦引くぞ?いいな!」
「奴らに負けたままってのは気に食わねぇが、しょうがねぇ!」
ラルクもデルトも、必ずルークを仕留めるという意思を胸に秘めて撤退する。
「戻ってきたかと思えば、また逃げていったか……まぁ、いい。この私が逃げられると思わない事だな」
ルークも、必ずレオセイバーとダイノアクスを倒さんとしていた。
追われる者と追う者、ラルク達とルークの戦いはまだ続く……
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