第22話「種族の壁」


 スアンとヘンリの、イーグルランサーとライノカノンはクレアが操るピーフォウィザーを狙い、追撃を始める。

 

「今度こそはッ!」


 イーグルランサーは地上にいるピーフォウィザーを標的に、再び突進する。

 直線的な動きだが、あれほどのスピードを回避する自信はクレアにはなかった。

 ここでラルクに助けを借りる訳も行かない。

 クレアは自力でイーグルランサーの攻撃を防ぐ手段を考え、実行する。


「その手には乗りません!」


 ピーフォウィザーが杖を向けて翼を広げると、足元に魔法陣が展開され、羽先が緑色に輝く。

 すると、杖先から放たれた暴風がイーグルランサーを阻む。


「魔術使うなんてッ!小賢しいッ!」


 風に押し返され、イーグルランサーは崖に激突する。

 クレアはこれで攻撃を防げるか、少しばかり自信が無かったが成功し安堵した。

 そこに二発の魔弾が放たれ、ピーフォウィザーは咄嗟の判断で回避する。

 ライノカノンが両手に持っているバズーカによる砲撃であった。


「避けた。なら……!」


 ライノカノンは接近し、両肩のコンテナを開放する。

 すると、計16発の魔弾が放たれ、ピーフォウィザーを追尾する。

 そう、両肩のコンテナは追尾型魔弾を発射する為の物だったのだ。


「これくらい魔術で防げばッ!」


 杖を突き防御用の魔術を展開するも、魔弾の方が速くピーフォウィザーに着弾し、木々を倒しながら吹き飛ばされていく。


「どうする?もう降参?」


 落ち着いた声で通信を入れ、倒れているピーフォウィザーにバズーカの銃口を向ける。

 この機体が目的なら自分達を殺す気はないだろう。

 ならば、ヘンリも自分達を放って逃げるならば、殺さなくてもいいだろうと彼は考えていた。


「お願いです、力を貸してほしいんです。ガーディアンズから人々を救うために……お願いです……」


 自分に銃口を向けられている事を承知で、クレアはヘンリに頼む。

 彼らが何のためにソウルクリスタルとその機体を使うのか、クレアにはわからない。

 それでも、エレシスタ人とゼイオン人の共通の敵であるガーディアンズと戦う為に使って欲しいと願っていた。


「ガーディアンズ……」


 その名前に、ヘンリは覚えがあった。

 ゼイオンの方でもガーディアンズによる被害が相次いでいると、逃亡生活の中で話を聞いたことがある。

 なるほど、それで彼女達は自分達に接触してきたのかとヘンリは納得した。


「どうしたのヘンリ?さっさと撃ちなよ」

「こいつらの話、もう少し聞いたほうがいいんじゃない?」

「えっ?そんなの必要ないでしょ。どうせコイツらも、研究所のアイツらみたいに兵器として使う気なんだよ!」


 二人の脳裏に、研究所の頃の記憶が浮かぶ。

 孤児なのをいいことに、無理矢理に訓練させられ、逆らえば体罰……

 あそこには何一ついい思い出がない。だから、逃げてきた今日まで。

 自分達に関わってくる者は、三機のオリジンとそしてそのオリジンを動かせる自分達が欲しいに決っていると、スアンは決めつけていた。

 だから、ラルクとクレアの二人も同じなのだろう。そう思っていた。


「待ってください!私は貴方達を無理矢理戦わせる気は……!」


 通信で入るクレアの声も届かず、イーグルランサーの槍先はピーフォウィザーに向けられていた……


***


 一方ラルクのレオセイバー、デルトのダイノアクスは激しい戦いを繰り広げていた。


「オラよッ!」


 ダイノアクスは大きな斧をレオセイバー目掛けて振り下ろすが、レオセイバーは素早く攻撃を回避する。


「当たるかよッ!」

「まだまだッ!」


 斧の柄を軸にダイノアクスは機体を動かし、尻尾でレオセイバーを突き飛ばす。

 防御は間に合ったものの、レオセイバーは吹き飛ばされ、崖の下の川に落ちる。

 川とはいっても、魔動機の大きさからすれば浅瀬のような物であった。


「それほどの腕があるならいい。力を貸して欲しい。人類を、この世界を支配しようとするガーディアンズと一緒に戦ってくれ!」

「一緒にだと?笑わせる。エレシスタ人と俺達ゼイオン人が?」


 肩に斧を担ぎながら崖を下り、ダイノアクスへレオセイバーの元へと近づいていく。

 そうか。ラルクは大きな見落としをしていた。

 彼ら三人がゼイオン人という可能性をだ。

 ゼイオン人ならば、協力が難しくなる。

 エレシスタ人とゼイオン人が一緒に戦うなど、まずはあり得ない事だからだ。


「力あるヤツが全て!それがゼイオンだ!力のねぇヤツの話は聞かねぇ!」

「なら、力づくでねじ伏せてやるッ!」


 斧を両手に持ち、ダイノアクスは突き進む。

 近付かれる前に、レオセイバーはブレードガンを構え、魔弾を放つ。

 しかし、ダイノアクスは飛び上がり、魔弾を回避すると、レオセイバーの上空から斧を振り下ろす。

 ラルクは直感的に機体を動かし、ブレードガンの刃で斧を受け止める。


「クッ!やるじゃねぇのッ!」


 ダイノアクスは後ろに下がり、斧を構え態勢を整える。

 次こそは決めると思ったその時、二機の間に魔弾が着弾する。

 ヘンリのライノカノンかとデルトは思うも、魔弾は彼と反対の方から飛んできた。

 ならば、一体誰だ……今度こそゼイオン軍か……と思ったその時、何機もの魔動機が接近しつつあった。


「高い魔力反応を確認したと思えば、アレはビショップが仕留め損なったというレオセイバーではないか。ちょうどいい。この私が抹殺しよう」


 大砲である両肩の塔のような部分を上げ、頭部のセンサーで二機の姿を捉える。

 名はルーク。ガーディアンズの幹部である。

 エレシスタとゼイオン、そしてガーディアンズ……

 戦場は今、混沌としていた。

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