第19話「氷のビショップ」


 テンハイス騎士団とガーディアンズの戦いが始まった。

 機械であるガーディアンズには屈してたまるかと、彼らは進軍する。

 テンハイス騎士団のナイトと、ガーディアンズのポーンが剣をぶつけ、激しい戦いを繰り広げていた。


「クレア、ラルク!雑魚は俺達が抑える!お前達はあの親玉を頼む!」

「わかった」

「了解しました!」


 ラルクとクレア、二人の魔動機はビショップ目掛けて突き進む。

 しかし、二機の前に何機ものポーンが行く手を遮る。


「そこをどきやがれッ!」

「待って下さいラルクさん!ここは私が!」


 レオセイバーはポーンに銃口を向けるが、ただそれだけでは効率が悪い。

 クレアには考えがあった。


「ピーフォウィザー、私に力を!」


 ピーフォウィザーは翼を広げ魔法陣を展開し、六枚の羽の先端が青く輝く。

 すると、魔術より発せられた冷気が立ちはだかっていたポーン達は凍りついていた。

 ピーフォウィザーは火、水、風、雷の魔術を駆使する魔術士型の魔動機であったのだ。


「そういう事か!」


 ラルクは凍っているポーンに照準を合わせ、ブレードガンから魔弾を放つ。

 この状態でポーンが動けるわけもなく、魔弾が命中しポーンは爆発せずに砕け散った。

 道を阻む敵はない。レオセイバーとピーフォウィザーはビショップに立ち向かっていく。


「やつも抹殺しなければ……」


 レオセイバーがテンハイス城にいるというのは予測通りだが、ピーフォウィザーがいるのはデータには無かった。

 レオセイバーは勿論、同じくソウルクリスタルを搭載しているピーフォウィザーも脅威だ。

 ビショップはあの機体も抹殺対象に加える事とした。


「消えろ!」

「そう簡単にやられてたまるかッ!」


 杖をレオセイバーに向けると、レオセイバーも空中に浮いているビショップに銃口を向ける。

 両者から魔弾が放たれ、二つの魔弾は激突し大きな爆発が起こる。


「逃がすかッ!」


 レオセイバーは跳び上がり、爆煙をくぐり抜けビショップに斬りかかる。

 ビショップは杖を向ける。

 この距離で魔弾は間に合わないだろう。ラルクはそう確信したが、それは早計であった。

 杖先の魔動石から魔法陣が展開され、レオセイバーとビショップの間に突如氷の壁が現れる。

 ブレードガンは振り下ろされるが、氷の壁に攻撃を遮られ、ビショップは愚か氷の壁にすら傷が付かない。


「チェックメイトだ。レオセイバー」


 魔術により、レオセイバーの後ろに大きな氷柱が三本現れる。それをレオセイバーに突き刺そうという魂胆だろう。

 

「ラルクさん!」


 ピーフォウィザーの羽先が赤く輝き、三つの火の玉が氷柱に向けて放たれる。

 ここでビショップを狙うよりも、ラルクを助ける事を優先すべきだとクレアは考えたのだ。

 火の玉は氷柱に命中し、三本とも溶けて跡形もなくなっていた。


「助かったぜ、クレア!」


 レオセイバーは一度後退し、地面に着地する。

 劣勢であったが、クレアの援護により形勢を取り戻しつつあった。


「それほどの魔術を持ちながら、我らに歯向かうとは愚かな……」

「愚かなのは、その人間の為に魔術を使わない貴方達です!」


 ビショップの言葉に、クレアは強く反論する。

 人の手によって作られたというのに人の為に魔術を使わず、その力で支配しようとするガーディアンズは魔術研究者のクレアにとって許せず、愚かに見えた。


「我らが王に支配される事こそが、貴様ら人類の為になるだ……!」


 愚かで野蛮な人類に、自分達ガーディアンズが愚かだと言われビショップは許せなかった。

 ビショップは静かに怒り、何個もの氷柱を魔術によって生み出し、レオセイバーとピーフォウィザーに向けて飛ばす。


「その手にはッ!」


 再びピーフォウィザーの羽が赤く輝き、二機を囲う炎の渦が大きくなり、氷柱を巻き込む。


「やりました!」


 しかし氷柱は溶けず、炎の渦を抜け飛んでくる。

 ビショップの方が一枚上手であった。


「避けろ、クレア!」


 ラルクはクレアに通信を入れ、レオセイバーは氷柱を回避するが、ピーフォウィザーは回避が間に合わず二本の氷柱が肩と脚部に刺さる。


「避けきれなかった……!」


 クレアは悔しそうに呟く。

 魔術には精通しているものの、魔動機の操縦技術は高いという訳ではなかった。

 回避出来なかった自分、そして何よりビショップの魔術を侮っていた自分に嫌悪感を強くする。


「我々の魔術が人間に劣るとでも思ったか?」


 自分達ガーディアンズのプライドを強くし、人間であるクレアを見下す。

 ガーディアンズは予めインプットされた魔術を状況に応じて発動するように出来ていた。


「ポーン消耗率36%……人間とはいえ、一筋縄ではいかないようだな。撤退する」


 ダリルを始めとしたナイト部隊により、ポーンの半数が撃破されていた。

 人間とはいえ、殲滅は簡単には行かない。

 戦力を揃えれば、二機のソウルクリスタル搭載機も倒せるだろうと推測した。

 ビショップは一旦撤退するべきと結論付け、残存のポーンを率いて撤退し始める。


「待ちやがれ!テメェは俺が潰す!」

「お前がここで私を撃破出来る可能性は0.0972%だ」

「そんなもん、やってみねぇと分からねぇだろ!」

「今回は見逃してやると言っているのが分からないのか?次会った時は必ず抹殺する」

「その台詞、そのまんま返してやるぜビショップ。次会ったら潰してやる!」


 ビショップに向けていたブレードガンを下ろし、ラルクは撤退していくガーディアンズを睨む。

 クレアのピーフォウィザーも損傷し、このまま戦ってもビショップを倒せるのは難しいだろう。

 不本意だが、ここはビショップ達が撤退するのも見逃すしかない。

 だが、次こそは絶対に倒して、この屈辱を晴らす。

 ラルクはそう強く決心した。

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