第18話「鋼鉄の守護神」
「作戦記録35120408……こちら、ビショップ。現在エレシスタ王国領土内、テンハイス城周辺。」
「5分と8秒前に威嚇攻撃を実行。城壁に被弾を確認。まだターゲット、レオセイバーは確認できず。」
「訂正。城内よりレオセイバーを確認。もう一機、高い魔力放出量を確認。データベース検索……該当あり。ピーフォウィザーと93.81%一致。」
ビショップは自らの行動と状況を纏め、レオセイバーが出てくるのを待ち構えていた。
するとテンハイス城からレオセイバーとピーフォウィザーを始めとした魔動機部隊が姿を現す。
ビショップを迎撃するためだ。
「こちらはエレシスタ軍テンハイス騎士団のダリル・ターケンだ。そちらが攻撃を行ったのは分かっている。直ちに所属と目的を明らかにせよ」
ダリルのナイトからビショップへ、通信が入る。
「交渉が決裂する可能性、72.47%……だが、一応は言っておく必要はある。魔力通信接続……」
人間は争いの絶えない野蛮な生き物だ。
それは千年前の戦いで彼らが導き出した結論だ。
だが、中にはガーディアンズの理想を理解できる物分りの良い者がいるかもしれない。
それで仲間になるならば都合がいい。
ビショップはテンハイス城の魔動機全機に通信を入れた。
「私の名はビショップ。無人魔動機軍隊ガーディアンズの参謀を務めている」
「そんな!無人の魔動機が存在するなんて……!」
ビショップの通信を聞き、研究者であるクレアは驚きを隠せない。
何故ならば、魔力は人のみに宿り、無人で魔動機を動かす事が不可能だからだ。
だが、彼らは予め人間から供給された魔力を魔動石で増幅させ、さらにその魔力を増幅させる事を繰り返し、内部に半永久機関を備えた無人兵器であった。
「人が乗らずとも動かせる魔動機……そんな物が存在するなんてな」
「ありえません!人の操作を無しに魔動機を動かす技術なんて大戦前ですら確立されていない筈なのに……!」
ラルクの一言に反論する程に、クレアはガーディアンズの存在を認められなかった。
彼女が言う通り現代の技術は愚か、大戦前の最新技術ですら無人の魔動機は難しい。
だが、現に、目の前にビショップ率いるポーンの無人魔動機部隊が存在していた。
「エレシスタ人も、ゼイオン人も愚かで野蛮な生き物だ。千年前の大戦を経験していながら、未だに争い続けている」
ビショップの起伏の少ない機械の言葉が、通信を聞いているエレシスタ人全員の心に突き刺さる。
彼の言葉は機械らしく、鋭く反論の余地を許さない。
「愚かな人類は我々ガーディアンズが支配し、管理する。歯向かうものは抹殺する」
「我々は人間のように感情に任せた行動はしない。完全なる支配。揺るぎない安寧を約束しよう」
先の言葉はともかく、今ビショップの放った言葉は間違いだらけだ。
人間であるラルク達が聞けばそう思うのは当然だ。
だが、ビショップはそれが絶対的に正しいと信じて疑わなかった。
「我々の軍門に下るならば歓迎しよう。そうでない場合は抹殺する」
ビショップは杖をテンハイス城、レオセイバーを始めとする魔動機達に向ける。
力に物を言わせて、力なき者を支配する……
ビショップの考えはあの日、村を襲ったゼイオン軍人と大差ない。
理想や考えは立派かもしれないが、本質は同じだ。
ああ、憎い。
叩き潰す……!
レオセイバーはブレードガンを先頭に立つビショップに向け、放つとビショップの肩に被弾する。
ビショップは弾道を予測し回避したが、被弾は避けられなかった。
「ラルクさん!」
「損傷軽微。怒りに身を任せ行動したか……やはり、人間は愚かだ。我々が管理する必要がある」
「そんな必要はねェ!」
ビショップの言葉に、ラルクは力強く反論する。
人間が、こんな機械なんかに支配されてたまるか。
ラルクはそう思わずにいられなかった。
「なんか大層な理想があるみてぇだが、くだらねぇ……叩き潰してやるッ!」
「愚かな……知能を持っていながら、何故この理想を理解できない、賛同できない……」
人間である以上、この理想を認めない可能性は十分にあった。
それでも、何故理解できないのか。ビショップはそれが分からない。
標的であるレオセイバーの操者は、物分りの良い人間はなく、愚かな人間として認識する。
「てめぇらがオレを、オレ達を殺そうとしてる!それだけだッ!」
ビショップが気に食わない、支配されたくない。
敵対する理由は山ほどあるが、何より殺しに来ている。ならば返り討ちにするしかない。
それが一番大きな理由だった。
ラルクは操縦桿を握り、レオセイバーを前進させる。
「ポーン、レオセイバーを排除せよ」
ビショップは後ろへ下がり、待機状態であったポーン達に指示を出す。
自分達に歯向かうとはなんと愚かなのだろう……
だが、元々レオセイバーと操者は抹殺対象だ。
攻撃してくるならばかえって好都合とも言えた。
ポーン達は槍を構え、レオセイバーに襲いかかる。
「邪魔だッ!」
ブレードガンを横に振り、三機のポーンの腹部を切り裂くと、魔動石が破損し爆発する。
爆煙が晴れ、また五機のポーンがこちらに向かってくるのが見えてきた。
「コレが撃ち抜いてやるッ!」
ブレードガンをポーン達にブレードガンを向けると、空から雷が落ちポーン五機に直撃した。
空は晴れている。それなのに突然雷が落ちるのは不自然だ。魔術という例外を除けば。
「もう、ラルクさん!一人で突っ走らないで下さい!」
通信が入る。クレアの声だ。
ピーフォウィザーはレオセイバーの隣に着地し、扇子のように翼を閉じる。
「貴方も私も一応は軍隊に属しているんですから、勝手に行動しないで下さい!」
「そうだラルク。あいつらが気に食わんのは分かるが、独断行動されたら困るぞ」
クレアの他に、ダリルからも通信が入る。
気が付くと、テンハイス騎士団のナイト部隊が後ろから近づきつつあった。
「俺たちは人間だ!血も涙もねぇ機械なんかに支配されてたまるか!各機、ガーディアンズに攻撃せよ!」
ガーディアンズの考えとやり方に納得がいかなかったのはラルクだけではない。
ここにいる人間全員、同じ気持ちであった。
「やはり、人間は愚かだ……痛い目を見ないと分からないようだな」
何故こんなにも計算通りにいかず、感情的になるのだ。
人工知能にプログラムされた感情を元に、ビショップはどこか苛立っていた。
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