第二章 魔動戦記MAGIRAⅡ(セカンド)

第15話「あの日の夜」


 三年前のあの夜……

 村からあんな物が、アレさえ出てこなければ、オレの兄は今も無事でいたかもいれない。

 アレは何かに応えるように、地中から目覚めた。


 聖暦999年11月の夜、エルク・レグリスは突然導かれるように、外に出て走って行った。

 弟のラルクはその行動を不信に思い、後を追い走っていく。

 月光だけが頼りの闇の中を走り、村の畑にたどり着くと、突如地面が揺れ灰色の魔動機が地中から姿を現した。


「なんだアレ……」


 理解の追いつかない状況を前に、ラルクは一人呟く。

 恐らく、三歳上とはいえ兄であるエルクも何が何だか分からなかったのだろう。

 剣を逆手で持ち、狼の毛を思わせるような肩の装甲を付けた魔動機。

 その名は、ヴォルフブレード。かつて大戦で活躍したという伝説の魔動機、オリジンの一機だ。

 地中から出てきただけとはいえ、そんな物が出てくれば村中騒ぎになるのも当然だ。

 とりあえずは、エレシスタ軍に引き取って貰う事が村で決まった。

 だが、そこに最悪の事態が訪れる。

 次の日の夜、ヴォルフブレードの魔力を探知したのか、ゼイオン軍が村に来たのだ。

 ここに自衛用の魔動機はない。兄は村を守るためにヴォルフブレードに乗り、三機のゴブルに立ち向かっていく。

 すると、ゴブルは珍しい魔動機を前に群がっていく。


「ちょうどいい!この珍しい魔動機を手土産に本国に戻ってやる!」

「クソッ!」


 伝説のオリジンとはいえ、魔動機に初めて乗る兄では、軍人として訓練を受けているゴブル相手に苦戦するのは必然であった。


「兄貴!」

「ラルク!来るな!怪我をするぞ!」

 

 ラルクはエルクの乗るヴォルフブレードの元へ走っていくも、魔動機の拡声機能により聞こえるエルクの声に止められる。

 魔動機同士が戦っている所に、生身の人間が近づけば死んでもおかしくない。

 そんな事くらい、ラルクには分かっていた。

 だが、それでも。亡き両親の代わりに自分の面倒を見てくれたエルクを見捨てる事なんて出来なかった。


「ヘッ!大した事ねぇな!おいお前ら!しっかり抑えておけよ!」


 指揮官と思わしきゴブルの指示通り、二機のゴブルはそれぞれヴォルフブレードの片腕を抑える。

 誰か、誰か兄貴を助けてくれ……

 何の力もないラルクがそう思っても、エルクを助けてくれる都合のいい救世主は現れない。

 現実は非情であった。

 そして、ヴォルフブレードの抵抗も虚しく、エルクがそのまま連れ去られていった。


「兄貴!アニキ……あああああっ!」


 あの時のラルクは涙を流し、大きな声を上げ、理不尽な暴力を前にただ屈するしかなかった。

 ゴブルがこの村を去り、一ヶ月後……

 兄が連れ去られた悲しみを引きずる中、何かが自分を呼んでいる事をラルクは気付いた。

 その何かはラルクには分からなかった。

 ただの気のせいか、それとも本当に何かが訴えかけているのか。

 それが何かなのかラルクにとってはどうでもよかった。どうせ気のせいなのだろうと決めていたから。

 ラルクは直感のまま、足を運んでいく。

 そこには金と白で彩られた獅子の魔動機、レオセイバーの姿があった。

 この村に眠っていた魔動機がヴォルフブレードだけではなかったのだ。

 おそらくはアレがラルクを呼んでいた物の正体であり、ヴォルフブレードのようにレオセイバーがラルクを呼んだのだろうか。

 またオレとこの村に災いを呼ぶのか。

 ラルクにとってレオセイバーは歓迎出来る存在ではなかった。

 だが、これから兄の行方を探す為にはゼイオン軍との対立は避けられないだろう。

 ならば、レオセイバーはその兄を探す力になるはず。ラルクはそう確信した。

 

「災いを呼ぶほどの力があるなら、オレの為に役立てろ……!」


 ラルクは睨みながら、兵器であるレオセイバーに対して命じる。

 命じた所で、従う訳も逆らう訳もない事はわかっている。

 それでも、自分の力になって欲しい。

 ただ、それだけの想いをぶつけただけであった。

 レオセイバーに乗り、ラルクは生まれ育った村を旅立つ。

 無論、行方知れずの兄を探すために。

 そしてそれから三年が経った聖暦1003年の4月……

 兄のエルクを探す中、彼は大きな戦いの渦に飲まれていくのだが、まだその事を誰も知らない。

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