第16話「魂の共鳴」


 草原の中、足音が聞こえる。

 その音は重々しく、生き物が立てる音ではなかった。

 それもそのはず。その音を立てているのは魔動機であるレオセイバーだからだ。


「ここにも手掛かりがなかったな……」


 レオセイバーの操者である金髪の少年、ラルク・レグリスが一人呟く。

 あの魔動機、ヴォルフブレードの目撃情報が無いか探して回っているものの、手掛かりを掴めずにいた。

 あれから三年。兄のエルクはもう死んだのではないか、何度も探すのをやめる理由が頭の中で浮かんだ。

 だが、ここで探すのをやめたら兄に顔向けできない。

 仮に殺され死んでいたとしても、何故どこの誰に殺されたのか、兄弟としてそれだけはハッキリとさせたかった。


「そろそろ稼がないとな……一週間食って暮らせるかどうかってトコか」


 探し回るにしても生きていく以上は食料、お金が必要になってくる。

 土木工事の手伝い、運び屋、用心棒……と魔動機の操者なら喜んで雇ってくれる仕事も多く、その上報酬も高く付く。

 ラルクは兄を探す中、時折レオセイバーを使って稼ぎをしていたのであった。

 次は運び屋でもするか……用心棒でもいいが、山賊の類の味方はやだな……

 などと考えていたその時、近くに複数の魔力反応を探知した。


「アレはエレシスタ軍のナイト、もう片方はなんだ?見たことないが……」


 レオセイバーの二つの目が戦っている魔動機の姿を捉える。

 ナイトはエレシスタで最も量産され、民間にも出回っているほどの魔動機だ。

 だが、そのナイトと戦っている魔動機はラルクも見たことがない。

 白く丸まった頭部のスリットから赤い光見える。

 エレシスタ軍と戦っているのだから、恐らくアレはゼイオン軍の魔動機なのだろう。

 見た所、エレシスタ軍は白い魔動機、ポーン達に苦戦しているようだった。

 ラルクは軍人では無いし、助けに来た訳でもない。ただ偶然近くにいただけだ。

 助ける義理などはなく、ここで何も見なかったように通り過ぎたって誰も責めはしないだろう。

 だが、ラルクにはそれは出来なかった。

 無意識的に襲われるエレシスタ軍と三年前の自分を重ねる。

 あのナイトの操者は声には出していなくとも、助けを求めているだろう。

 助けを求め、誰も来ないあの絶望感をラルクは知っている。

 知っている。だからこそ、彼らを放っておく事は出来ない。

 ただ、無償で人助けするというのは少しばかり恥ずかしく思い、あくまでも、助けた礼としての報酬を目当てにと、自分に言い聞かせた。

 

「待ってろよ……!」


 レオセイバーは地を蹴り、スラスターを吹かせ戦場に向かう。


「なんだ?!新手か?」


 三機のナイトはすぐにもレオセイバーの存在に気付き目を向けた。

 敵か味方か……彼らにとっては未知であった。

 ポーンもレオセイバーに反応し、剣を片手に持ち向かっていく。


「来たな!叩き潰してやるぜ!」


 レオセイバーは腰裏にマウントされた武器を右手に持つ。

 その武器は、銃身の上下に刃が付いたブレードガンと呼ばれる銃剣に似た武器であった。

 ブレードガンの銃口に魔法陣が現れると、魔弾が放たれポーンの頭部を撃ち抜く。

 頭部を失ったポーンは仰向けに倒れ、その仲間である残り四機もナイトよりも脅威だと考えたのか、レオセイバーに向かってくる。

 先頭のポーン一機が加速し、剣を向けてレオセイバーとの距離を詰める。


「甘いぜ!」


 ブレードガンを振り剣先を切り裂き、すぐさまポーンの胴体に銃口を向け、魔弾を放つ。

 魔弾がポーンの胴体を撃ち貫き、爆散する。

 残り三機のポーンは味方の大破など気にせず、レオセイバーに立ち向かっていく。


「そう来るならッ!」


 レオセイバーは跳び、スラスターを吹かせ三機の上空に舞い、三機に照準を合わせ三発の魔弾を放つ。

 射撃武装のないポーンは為す術もなく、レオセイバーが地面に降りると爆発していた。

 

「み、味方なのか……?」

 

 敵の敵は味方という理論ならば、恐らく彼も味方だろう。

 そう信じ、ナイト部隊隊長はレオセイバーに通信を入れる。


「どこの所属は知らないが、援軍か?感謝する」

「まっ、いいってことよ」


 ラルクは兵士の通信に応える。

 別に感謝される為に助けたわけでなく、ただ見過ごせなかった。それだけの事であった。

 これで助けた報酬が貰えたりすれば、願ったり叶ったりと言った所だ。


「ん……!なんだ、この感じ……!何かが呼んでるのか……?!」


 三年前にレオセイバーに呼ばれた、あの時の感覚によく似ている。

 何かが、誰かがラルクに訴えかけている。そういう感覚であった。

 本能的に段々と、近づいてくるのがラルクには分かった。

 その時、三つの魔力反応をレオセイバーが探知する。

 そのうちの一つ、高い魔力を放出している物が呼んでいる……

 ラルクはそんな気がした。

 青の機体に、緑色の翼をした孔雀の魔動機、ピーフォウィザーの姿を捉える。

 恐らくあの機体がラルクを呼んでいるのに違いない。

 

「この感じ……もしかして、あれが獅子の魔動機レオセイバー……?」


 ピーファウィザーの操者、クレア・テーベルが一人呟く。

 まさか、救援信号が上がっている場所へと援軍に向かったら、探していた機体がいたとは彼女は思っても見なかった。

 あれが、ピーフォウィザーと同じくソウルクリスタルを内蔵した機体の一つ、レオセイバーなのか。

 そのレオセイバーが現存していた上に、こうして巡り会えるとはなんという幸運だろう。クレアはそう思わずにいられなかった。


***

 

「ポーン五機、反応消失を確認。戦力低下問題無し。任務遂行問題なし。」


 ゼイオン帝国の北の山脈にある神殿の奥で、声が響く。

 人間にしては感情の起伏がなく、平坦な声であった。


「新たな脅威を確認。データーベースを検索。該当あり。レオセイバーと95.75%一致」

「面白い、少しは骨のある奴がいるようだな」


 玉座の前で、薄い水色をした魔術士のような魔動機ビショップと、両肩に塔のようなパーツを付けた深緑色の魔動機ルークが目である頭部のセンサーを光らせ話している。


「我らが王キングよ。まずはこのビショップが彼らを抹殺してみましょう」


 玉座に座る王冠を被った白と金の魔動機、キングの前に名乗りを上げる。

 キングが文字通り彼らの王であり、彼の命令は絶対であった。


「いいだろうビショップ。高性能な魔動機と言えでも、所詮は人間。不完全な知的生命体を相手にしくじるなよ」

「ははっ、レオセイバーの破壊とその操者の抹殺、このビショップにお任せ下さい」


 キングはビショップの提案を受け入れ、ビショップ率いる部隊を向かわせる事にした。

 彼らの名は、ガーディアンズ。

 永い眠りから目覚め、彼らは自らに与えられた使命という名のプログラムを実行し始めていたのだった……

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