第14話「明日の行方」
アークセイバーとゾルディオンの戦いから一ヶ月が経過した。
クルス・フェールラルトを失ったクルス派は勢力を弱め、幽閉されていた国王レケサ八世と貴族議会の四人はエレシスタ軍により解放され、クルスのクーデターが白日のもとに晒される事となった。
聖暦1000年1月、再びルガーで会合が開かれ、ゼイオン帝国との間で休戦条約が締結される。
テンハイス騎士団は独断行動として軍法会議にかけられる事となったが、レイの操るゾルディオンを止めた戦果を考慮し、厳重注意処分となった。
またそのゾルディオンを止めた本人であるアレクは、勇者の称号でもあるマギラとその彼が使っていたと言われる短剣を受け取る事になるが、アレクは称号の授与を辞退。短剣はリンが預かる事となる。
そして、エレシスタ王国首都セレルシタでは……
「あっ、アレク!来たのね」
セレシスタにある魔術研究所の前で待ち合わせていたリンは、向かってくるアレクに手を振る。
「ごめん、待たせた?」
「いや、全然。それじゃ行きましょ」
二人は魔術研究所の中へと入っていく。
魔術研究局は文字通り、大戦以前の魔術を解析研究する機関であり、アレク・ノーレを魔術で作り出す研究もここで行われていた。
「ここが俺の生まれた場所か……」
「そう考えると変ね。あっ!一応念のために言うと、もうあんな実験をしてないから安心して?」
目的地に向かい、廊下を歩きながら二人は話す。
場の雰囲気が暗くなるからというよりも、二人の大きな心の傷となった為か、レイの話題が出る事はなかった。
クルスのクーデター同様、魔術研究所の非人道的実験も暴露され、その実験を進めていたロー・シャリーコは禁固刑に処される事となった。
「これからは、ここは私の管轄に入るからね」
先の戦いでの功績を認められたリンはフェールラルト当主として、将軍となり魔術研究所も彼女の管轄となる事が決定していた。
それに伴う魔術研究所再編が行われている最中であった。
「着いたわね。ここにアークセイバーを封印する事になったの」
リンはそう言いながら、格納庫の扉を開ける。
アレクがここに来た理由は、封印されるアークセイバーを見届ける為であった。
アークセイバーの伝説通りの力を恐れた王は封印を命じ、貴族議会を通して封印が決定したのだ。
「少しの間だけいいかしら?」
「はいっ!大丈夫です!」
研究員の女性が返事する。
その言葉を聞き、アレクは膝立ちしているアークセイバーの元へ歩く。
「お前ともお別れだな……」
「そうみたいだな」
アークセイバーの装甲に手を当てながら一人呟くと、マギラの声がアレクにだけ伝わる。
ここの格納庫に移動された事から、アークセイバーと一体となっている彼もその事を察していたようだった。
「なんかいっぱい話す事があった気がするけど、言葉が出ないな……ハハハ」
ずっと同じ戦場を駆けた戦友とも言える彼に話したい事が山々だった気もするが、口から出ずにいた。
「元気でな」
「あっ、あぁ。わかったよ」
アレクはマギラらしくない言葉に少し驚いた。
彼がアレクを思いやるなど珍しいからだ。
マギラはただ、戦うためだけに生まれたのだから、せめてこれからは平和に暮らして欲しいと思い、そう言っただけであった。
「もしも、お前があの時のように力を求めるなら手を貸そう」
「いいぜ。その時は来るかわかんねぇけどさ」
あの時とはファース学園でゼイオン軍に襲われた時の事を指していた。
自分で一人ではどうしようもなくて、誰かを守りたいと強く望むその時は出来る限り来て欲しくないと思うと同時に、いつかはきっとまた戦わなければならない時が来るのだろうとアレクはどこか覚悟していた。
「それじゃあな」
アレクはアークセイバーの元を去り、リンの元へ向かう。
「軍やめた後はどうするの?ファース学園に戻るの?」
「それもいいけど、旅にでも出ようかなって思ってさ……」
アークセイバーが封印され、アレクは軍をやめる事を決めていた。
休戦条約が結ばれ暫くは平穏な日々が続くだろう。
ならば、アークセイバーが封印されるのを機に軍をやめて、度重なる戦いで疲れた心をどこかで休ませたいと考えていたのだ。
「じゃあ、これでお別れね……」
「そうだな……」
「貴方みたいな優しい人と共に戦えてよかった……エレシスタ軍はいつでも歓迎してるからね」
リンの伸ばした手をアレクは握る。
これが今生の別れになるか、また会えるのか。それは誰にも分からない。
マギラの再来と呼ばれる事となった彼は、愛機を降り何処かへと姿を消したのだという。
だがもしも世界が混沌に包まれようとする時、彼は守るために戦場に現れるに違いない。
仮に現れずとも、きっと彼の意思を継ぐ新たな勇者……マギラが現れるだろう。
第一章・完
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