第13話「二人の戦い」


 アークセイバーの操者、アレク・ノーレ。

 ゾルディオンの操者、レイ・フィ・ロートスの二人の戦いは始まった。

 以前は同じエレシスタ軍人として共に戦ったが、今は違う。

 異なる理想を抱き、彼らは戦う。

 アークセイバーとゾルディオン、それぞれの剣がぶつかり合い、二機の高い魔力により生み出される衝撃が戦場を走る。


「レイ、何故だ……どうしてこんな事をする……!」

「愚かな人間がのさばるゼイオンもエレシスタも、オレが滅ぼす……それだけだッ!」


 アレクの中にある、レイを討つ事への躊躇いが現れたのか、ゾルディオンの双剣に弾かれアークセイバーは押されていく。

 ゼイオン人の血が流れているからか、アレクはクルスが乗っていた時よりも力強く感じていた。

 レイはこの隙を逃さんと、追撃し双剣を振り下ろす。


「だからって、人を傷付けていい道理にはならないだろッ!」


 愚かな人間が多いからか二つの国を滅ぼす。

 そんな事をアレクは許せるわけが無かった。

 どんな理由があれ、人を傷付け苦しめる人間はアレクの敵だ。

 剣に魔力が集まり、光り輝く。

 アークセイバーは剣を横に振り、襲いかかる二本の刃を叩き斬る。


「クッ!」


 流石にアレクを甘く見すぎたか、レイは油断した。

 ゾルディオンは使い物にならなくなった双剣を投げ捨て、後退する。


「レーゼ皇帝!リン達を頼みます!ゾルディオンは俺が抑えてるうちに!」

「アレク、お前だけで大丈夫か?」

「もしもの時は……頼みます」


 オリジンであるゾルディオンを抑えられるのは同じオリジンである、アークセイバーだけだろう。

 ならば、ここは自分が抑えるしかない。

 だが、相手は一筋縄ではいかない。

 もしも自分が殺された時は、少々無責任だがレーゼ達に任せよう……

 アレクはそう考えた。


「分かった。無理はするなよ」


 アレクを信じ、レーゼは辛うじて生き延びた友軍の援護に向かう。


「アレク!危ない時はすぐにも撤退するのよ!」

「わかったよ、リン」


 リンを通信を聞き、アレクは応える。

 だが、ゾルディオンを止められるのは自分だけ……

 なんとしてでも止める決意が彼の中に出来ていた。

 雪地を踏み、大きく加速する。

 攻守一転、今度はアークセイバーが攻めへと移る。

 両手で剣を掲げ、ゾルディオンに振り下ろす。


「何故分からない!クルスに利用されていたお前がッ!」


 アレクもレイのように利用されていた。

 それも、戦う為に彼は生まれたのだ。

 彼ならば、人の醜さを知っている筈だ。

 それなのに、何故分からない。レイは理解できなかった。

 ゾルディオンは拳を出し、剣を弾く。

 その勢いに乗り、怒涛の如く殴り続ける。


「分かるさ!だけど!だからって!愚かな人間ばかりじゃないって!お前にも分かるだろッ!」


 確かにアレクもクルスやロー、ゼイオンのヴァグリオのような人間を見れば、人は愚かだと思うかもしれない。

 しかし、全員が全員愚かではない。

 リンやレーゼ、ガゼルのように純粋に平和を望み戦う者もいる。

 その事をアレクは知っていた。


「それに!傷付けるお前を許せるわけないだろッ!」


 リックの最期がアレクの脳裏に過る。

 自分勝手に力を振り、苦しめる……

 レイがやろうとしている事はあの時のゼイオン兵と同じだ。

 ならば、止めなければならない。

 その為に戦っているのだから。

 アークセイバーは攻めてくるゾルディオンを剣で押し退ける。

 押されたゾルディオンは空中から攻撃せんと翼を広げ空高く飛び、追撃すべくアークセイバーも雪地を踏み飛ぶ。

 暗雲の空で剣を振り、拳を突き出し、アレクとレイ二人の意思を表すように、二機の魔動機は激闘を繰り広げる。

 二機の戦いは地上からでは、二つの光が尾を引きぶつかり合っているように見えていた。

 ゾルディオンはアークセイバーを地面に向けて蹴り飛ばす。


「お前がオレの邪魔をするというならば、オレはお前を殺すッ!」


 元々レイはアレクの事をよくは思っていなかった。

 価値観も考え方も真逆であった。

 だが、彼の守りたい、戦いを終わらせたいという強い意思と姿勢が嫌いではなかった。

 ヴァグリオを討ち取った時は素直に感心もした。

 けれでも、今自分が突き進もうとする道を阻むというならば倒すしかない。

 ゾルディオンの両手をかざし、掌に魔力を集中させる。

 これならば、アークセイバーもひとたまりもないだろう。レイはそう確信していた。

 そして今、両手から強力な魔弾を放つ。


「アークディフェンサーッ!」


 あれに当たれば無事ではすまない。

 アークセイバーは左腕を前に出し、アークディフェンサーを展開する。

 クルスが乗った時よりも魔力が強大だからか、簡単には行かずなんとか防げている状態であった。

 魔術による攻撃ならば、跳ね返せなくとも防ぐ事は出来ると考えたのだ。


「アレク!これじゃ防ぎ切れないぞ!」

「魔力をアークディフェンサーに集中させる!」

「だが……」

「ここでやられたら終わるんだ!耐えてくれ!」


 アレクの考えに沿い、マギラが機体制御を行いアークディフェンサーの出力を上げると、二つの魔弾は吸収された。


「なにッ?!」


 レイが驚愕する隙を与えぬように、アークディフェンサーから反射した二つの魔弾が放たれる。

 回避行動よりも魔弾の方が速く、両腕と二枚の翼を撃ち貫く。

 翼を失った事により、ゾルディオンは地へと堕ちていき、地面に叩きつけられる。

 アークセイバーもゾルディオンを追い、地上へと降りる。


「お前の勝ちだ……さぁ殺せ……」


 ゾルディオンから通信が入り、レイの声が聞こえる。

 魔力が消耗しているからか、とても疲労しているのが声から分かった。


「レイ、俺にはお前は殺せない……無理だ……」


 アークセイバーは剣を握るも、仲間であったレイを殺すことに躊躇っていた。


「フッ……甘いな……やはり、お前に軍人なんて相応しくないな……」


 非情になれず、人を傷付ける事を好まない彼に軍人は務まらないとレイは前々から思っていた。

 戦う為に生まれ作られたとは思えないくらいの優しさをレイは感じていた。


「オレはお前が羨ましい……戦う為に生まれ、誰かに利用され続けたのに、それでも……それでもこの世界に希望を見出すお前が……」


 レイの本心からの言葉が出る。

 恩人に利用され軽蔑もされていたのに、自分よりも悲惨な過去を持っていたアレクは何故ここまで人の為に戦え、希望的にいられるのだろう……

 レイは不思議に思わずにいられなかった。


「俺はこの世界を良くしていこうといている人達を知っている。ただ、それだけださ」

「フンッ、お前らしいな……」


 アレクらしい答えが聞けて、レイは満足した。

 二つの国を恨み滅ぼそうとする自分では、アレクのような人間には到底なれそうにもない。

 その事を強く意識した。


「さぁ、殺せ!いいから殺せ!」

「レイ……やっぱり、俺には無理だ」

「いいのか!オレとゾルディオンがあれば誰かが傷付き、殺されるんだぞ!お前の友人ようになッ!」


 何故敵である自分がアレクに説得しているのだろう……

 だが、再生が間に合わなければここでアレク以外の誰かに殺されるだろう。

 ならば、潔くここでアレクに殺されよう。

 一方、ゾルディオンの両腕と翼が段々と再生している事にアレクは気付いた。

 クルスとの戦いでの傷が完全に無くなっていたのはこういう事だったのかと理解した。


「……レイッ!うわあああッ!」


 アークセイバーは再び強く剣を握り、ゾルディオンの操縦席を目掛けて突き刺す。

 剣がレイを殺し、生命を奪う。

 レイを殺した感触が、操者のアレクの手にも伝わるようであった。

 俺達が戦わずに済む道はなかったのか……

 操縦席の中、アレクは一人涙を流した。

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