第13話 遺伝

 問題含みの中、息子も小学四年になった。小四と言えば自我が芽生える年齢。息子なりに悩むことが多く、次第に不登校になっていった。朝から晩までオンラインゲームに没頭し、ネットのお友達以外とは会話しない生活。ある夜、ルーターの配線を探る息子を見て女が言った。

「あの子のお尻見て。女の子のお尻みたい」

 息子は、四つん這いになって配線を探っていた。息子は、女の言葉に気付いて立ち上がり、ズボンを引き上げた。僕は、答えた。

「まだ子どもやから。そのうちオッサン臭くなる」

 女は、青ざめる。何か考えているようだった。そういう僕も息子の女性的な面が気になっていた。息子は、人前でよく泣く。先生からも指摘を受けていた。男の子と遊ぶより女の子と遊ぶほうが好きだ、ごく幼い頃から。と言って、どうすることができるだろう。息子がクラインフェルターであるとして、誰にもどうすることもできないのだ。女は、翌日、母子医療センターに電話した。このへんでは、遺伝子検査をやっているのは、その病院だけということを知っていた。母子医療センターの話では、遺伝子検査を受けるには、最寄りの泌尿器科を受診して母子医療センターへの紹介状をもらってください、との事だった。女は思案する。病院嫌いの息子を二度も受診させるのは無理だ。また、クラインフェルターであると判明したところでどうすることもできない。それなら、診断は、息子が成人してから本人の自発性に任せるということでもいいのではないか。女は、吐き捨てるように言った。

「何てことなの。まさかあの子が。スポーツをやらせてあげたいと思っていたのに。こういう結末だったなんて・・・苦しみの多い人生よ」

「他の子と比べて苦しみが多いというだけだ。ヘレンケラーじゃあるまいし。大したことないよ。その分、親が」

「あの子が苦しむ姿をただ見ているしかないのね。そんなの、耐えられないわ・・・」

 女は、もうすぐ眠りに落ちる。女は、社会の因習に染まっていた。それが苦しみの一因。

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