第11話 依存症

 依存症。精神に作用する化学物質の摂取や、

ある種の快感や高揚感を伴う特定の行為を繰り返し行った末、それらの刺激を求める抑えがたい欲求である渇望が生じ、それらの刺激を継続的に摂取し続けた結果、身体的精神的社会的に破滅するかもしれないという恐怖感を抱きながら、なおも摂取をやめられない状態を指す場合が多い。依存症の別名、緩慢な自殺。トラウマやストレス過重により発症する。

 僕の職場に、真剣に喫煙をやめたいと悩んでいる若い女性がいる。彼女は何年も前から禁煙にチャレンジしている。だが、結果は、うまくいっていない。禁煙外来に通い順調にいっているように見えても数週間で挫折するを繰り返してきた。禁煙を邪魔しているのは、ストレスだ。本当のわたしは喫煙とは無縁の健康的なわたしなのに、今のわたしは本当のわたしじゃない。肺癌になりたくない。

 僕の妻は非喫煙者だが、アルコールという依存症にはまっていた。飲酒している間だけは職場のストレス、生きていることに対する不安感、自己否定感から解放された。だが、彼女の苦しみの説明は、これだけでは充分ではない。彼女にも気付いていないもっと深いものがあった。なぜ彼女が緩慢な自殺を図ってでも得たい何物かがあるのか、彼女にもカウンセラーにも誰にも分からなかった。それが苦しみの原因だ。幼い頃のトラウマ、仕事の人間関係の苦痛が引き金となってはいたが。

 ある深夜、酔いから醒めた女が言った。女は座って食洗器にもたれて天井を仰いでいた。

「ダルクに入ったほうがいいのかもしれないわ。以前は三日に一度しか飲酒しなかったのに、最近では毎日よね。体もしんどくなってきた。こういうのはアル症よ」

 ダルク(DARC)とは、Drug(薬物)のD、Addiction(嗜癖・病的依存)のA、Rehabilitation(回復)のR、Center(施設)のCを組み合わせた造語で、グループセラピー(ミーティング)や自助グループへの参加、各種レクリエーション活動、ボランティア活動、家事作業等を通じて、「薬物(またはアルコール、ギャンブルなど)を使わないで今日一日を生きる」ことに取り組んでいる。それを毎日続けることによって、回復・成長し、薬物(またはアルコール、ギャンブルなど)を使わないクリーンな生き方を実践している施設。「どんな依存症者でも必ず回復できる回復するための場所」という希望のメッセージを伝える活動を行っている。入所には、家族と世帯分離して生活保護を受給し、それを入所費用に充当するという方法も取られている。


「親戚にアルコールで若死にした者が何人もいる。あたしは死にたくない。けれど、入るにしても子どもは小さいし、仕事を整理しなきゃならないし、今すぐは無理よ・・・」

 すべての依存症者を受け入れたらダルクがパンクする。ダルクは最後の切り札として温存しておかなければならない。ダルクに入らなくても何とかなる方法はないのだろうか。

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