第10話 心理カウンセラー

 彼女は、若い頃から心理カウンセリングというものを受けさせられていた。鬱病で心療内科や精神科を受診すると必ずといっていいくらいに勧められるからだ。

「くっだらない。ロールシャッハテストや聞き取りやらで、あたしは最低一時間も我慢させられたわ。あたしは一時間もあいつらの意見に感銘を受けている振りをしなければならなかったのよ。それもこっちがお金を払って! 振りというのは大切なことよね。社会性動物には必要よ。人間、生きている限り、振りをしなければならないのよ。この世の中に何一つ感動できるものなんて無いにしても。振りをしなければ嫌われる。嫌われていいことなんて一つもないでしょ。でも・・・あたしは、いつまで振りをしなければならないの?」

 女は酔っていた。返答してもすぐに忘れるだろうと分かっていたが答えた。

「しなくていいよ。嫌われてもいい覚悟が持てれば」

 女は、ガラスコップをぶらんぶらんさせて足元がおぼつかない。

「嫌われる覚悟?・・・恐ろしい、そんなこと」

 配偶者には嫌われていいのに、それ以外には嫌われたくないというのは矛盾だが、それが彼女だった。女は病気なのだ。

「この家の中では、振りは要らない」

 女は、もうすぐ眠りに落ちる。

「そうね。この家の中だけは」

 女は、眠りの国に着く。

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