第六章

42話「来訪者」

 窓から射し込む陽射しが眩しい。

 もう朝なのか。

 アリスはすやすやと気持ちよさそうに、眠っている。

 最近は憎まれ口を叩くことが多いアリスだが、こうやって見ると原点に立ち返ると言うのか、随分と可愛らしいじゃないか。


「ハ、ハジメ殿!」


 ドアが開くとリシュアがいた。


「一体どうしたんだ? そんなに慌てて!」

「ハジメ? どうしたの? 朝なの?」

「お! アリス殿も目を覚まされていましたか。それは良かった」


 アリスは今、目が覚めたと思うのだが。

 リシュアって案外、鈍いところあるのかもしれないな。


「で、どうしたんだい?」

「昨日、森で出会った狼が訪ねて参ったのだ!」

「へ? マジで?」

「あの狼さん?」


 アリスが眠たげに起き上がると目を擦った。

 

「失礼するぞ」


 ぬるりとリシュアの影から狼が姿を現した。


「あ、こらっ! ここは寝室だぞ! 獣だけに無礼な!」

「まぁまぁ、いいじゃないか、リシュア。敵意はなさそうだし、むしろ俺達の命の恩人だ」


 リシュアをなだめていると、今度はニャムが弓矢を片手に侵入してきた。


「主! 狼が侵入したニャ! やっと見つけたニャン!」


 ニャムは弓に矢をつがえキリキリと弦を引っ張る。

 しかし、ニャムは本気で撃つ気はないさそうだ。

 むしろ、威嚇してるだけで内心、ビビってるのがありありとわかる。

 その証拠に両肩がビクビクと震えている。

 

「恐れるな猫族の小娘よ。我は敵ではない。貴様らにお願いしに参ったのだ」

「あ、主! お、狼が言葉を話したニャ! どうなってるニャン!」

「誰も狼のことを、ニャムに話してなかったのか?」


 俺はそう言ってリシュアを見た。


「うむ、すまぬ。昨夜はマリリン殿の精霊界の話で持ち切りであった。ついつい話すのを忘れていた」

「まあ、いいや……とりあえずニャム。その狼は俺達の恩人だ。昨日、パーティが全滅しかけた時に助けてくれたんだ。弓を引っ込めてくれないか?」

「わかったニャン」

「で、狼さんって呼べばいいのかな? 昨日は、マジでサンキュウなっ! で、どんな用件なんだ?」


 尋ねると狼は、ゆっくりと俺に近づいてきた。


「汝に用がある」


 そう言う狼の視線は俺ではなく、アリスに向いていた。


「え? アリスに用があるの?」

「いかにも」


 狼がアリスに用件とはなんだろう。

 とりあえず黙って様子を窺う事にした。

 リシュアもニャムも狼の次の言葉を待ってる。


「我らの姫を救ってほしい。汝の回復魔法を見た。あれほどの回復魔法なら我が姫の窮地を救えるであろう」

「狼さん。名前はあるの?」

「我が名はフェリエル。竜王軍の魔軍司令で姫を守護する者だ」


 アリスと狼の会話を聞きながら、俺はどこかで聞いた名だと記憶を遡った。

 竜王軍に魔軍司令か……う~ん。なんだっけな。 

 あっ! 思い出したぞ。いつぞやの冒険者ギルドでの賞金首だ。

 ――って……たしか。

 王国軍に竜王軍は滅ぼされたとかって、冒険者ギルドのお姉さんが言ってたな。

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