女神の回復魔法が俺の攻撃魔法と比べたら全く役に立たない件について

３９話「ちょっとだけ！ ピンチ！？」

　こりゃやばいと危険を察知した俺は、瞬時に距離を開けた。

　その瞬間。

　――こん棒が空を切った。

　間一髪だった、

　後一瞬、身を引くのを遅れていたら、俺の首は宙を舞ってたかもしれない。

　しかし、その直後。

　もの凄い突風が巻き起こる。

　バランスを崩し転びそうになるのを堪えた瞬間。

　背後のマリリンが、あわあわと、焦ったように尻もちをついた。

　もはや予断を許さない。

　こうなったら爆裂魔法で木端微塵に粉砕してやる！

　俺はブロードソードを、キュクロプスに向かって放り投げる。

　キュクロプスは剣を軽く払いのけると、ニヤリを俺を睨んだ。

　勝ち誇った顔だ。

　爆裂魔法を使うにはもう少し、アリスやリシュアから引き離さなければ、巻き添えになる危険性がある。

「しっかりしろ！　マリリン、立てるか？」

「こ、恐いのであります！」

「爆裂魔法をぶっ放す。もう少しこっちに引き寄せるんだ！」

　マリリンを助け起こし距離を取る。

　恐らくマリリンはこんな実戦は初めてなんだろう。

　マリリンは恐怖で顔が引きつっている。

　俺だって恐い。

　恐いけど。

　こんなゲームオーバーはまっぴら御免だ！

「わ、わ、われの……ね、ね、ね……」

「もういいから！　さがってろ！　こいつだけは許せねェ！　爆裂魔法で消し飛ばしてやる！」

　うまくキュクロプスを引き寄せることができた。

　この距離ならアリスやリシュアにまで、爆裂魔法のダメージは届かないはずだ。

　俺はキュクロプスに腕を翳すと、素早く呪文を詠唱した。

「我が身に宿りし灼熱の赤き竜よ！　楔を解き放ち我が命ずる！　きたりて咆哮、究極爆裂魔法（アルティメットエクスプロージョン）！！！」

　呪文詠唱完了と同時に眩い閃光とともに、キュクロプスは消滅すると踏んでいた。

　だが、魔法が発動しない。

　――――あ、あれ？　ど、どうなってんだ？

　その瞬間、アリスの言葉が俺の脳裏を掠めた。

『ハジメの爆裂魔法は、アリスが魔力を供給してるんだよ』

　そ、そうか……そう言う事か――。

　魔力の供給を受ける条件は……距離だけじゃなかったんだ。

　アリスが気を失ってる時点で魔力の供給はストップしてるのか。

　タイミングを逸した俺に、容赦なくこん棒が振り落とされる。

　――――し、しぬっ！！！

　痛みに堪えようと歯を食いしばった瞬間。

「ハ、ハジメ氏っ！！！」

　俺はマリリンに突き飛ばされた。

　骨が軋む音。

　俺の装備に鮮血がほとばしる。

　瞬時に俺は絶望感に満たされた。

「マ、マリリン……」

　恐る恐る振り返ると……そこには血まみれのマリリンが倒れていた。

　――――う、うそ、だろ……？

　マリリンの杖を握った腕が、胴体と切り離され転がっていた。

　あまりの惨状に頭の中が真っ白になる。

　地面を這いつくばりマリリンの元へと向かう。

　抱き上げた。

　息をしていない。

　俺は叫んだ。

「アリス！！！　マリリンが……マリリンを早く回復してくれぇぇぇ！！！］

　目がしらが熱くなり涙が止まらない。

　マリリンは死んでいた。

　リシュアも倒れ。

　アリスも倒れ。

　爆裂魔法も放てない。

　そんな状況でも魔の手は忍び寄る。

　絶望の中、俺はルーレットスキルを発動。

　もはやチャンスは一呼吸しかない。

　ハズレを引いたら一巻の終わりだ。

　高速で回転するルーレットをひたすら目で追う。

　スペシャルを引くしかない。

　が、涙目で視界が霞む。

　それに元々、どんなに集中しても半分以上は運任せなのだ。

「ク、クッソッ！」

　――頼む！

　キュクロプスがニヤリと、ゴミ虫を見下すような笑み浮かべた。

　絶対的強者が、絶対的弱者を見下す。そんな笑みだ。

　その直後。

　キュクロプスはしゃっくりを繰り返す。

　ああ、ダメだ……。

　ハズレを引いた。

　俺が死ねば、アリスも死ぬ。

　――――もう全滅は避けられない。

　戦意喪失しマリリンを抱きしめる俺に、最後の審判が下された。