15話「淫魔族の魔法少女」

「おーし、ダンジョンいこうぜ!」


 邪神が眠ると伝えられているダンジョンの入口は、この王都にある。

 地下100層に及ぶダンジョンは、世界でも最大級らしい。

 1階層から順に攻略と考えると途方もないのだが、金さえ払えばS級冒険者になると最下層までも瞬時に移動できる、魔法陣が使えるとのことだ。


 俺達のパーティにはS級冒険者のリシュアがいるってことで、使用が許可された。


 そんな訳で俺たちは一瞬で最下層まできた。


「明瞭たる光の精霊よ闇夜を照らす灯火となれ」


 リシュアの召喚魔法でウィルオーウィスプが召喚され、周囲を照らし出す。

 地下100層は流石に空気が薄いが、我慢できないほどではない。

 ボス部屋ぽい扉の前まできた俺たちは、慎重に重い鉄の扉を押した。


 扉の先は不思議な空間で綺麗に整理整頓された、可愛らしい部屋である。

 壁面はピンクの壁に覆われており、朱色の家具との色調は、『まさに女の子の部屋』を、連想させた。


「どうなってんだ? これがボス部屋なのか?」

「わあ……可愛いお部屋だね! ハジメの汚い部屋とは大違い!」

「むむ、こんな場所に……なんと奇怪な。趣味の悪い部屋だ」

「おいおい、お前らの感想、真逆すぎるだろ!」


 リシュアは眉をしかめ、アリスは明らかに瞳がきらめいている。

 俺は二人に注意を呼び掛ける。


「お前ら油断すんなよ? 罠かもしんねぇぞ」


 とか言いつつ俺が真っ先に踏み込んだ。


「ちょ……ハジメ! 何してんの!」

「罠かもしれないと申したではないか!」


 俺が向かった先には朱色のベットだ。

 そこには可愛らしいチョコ色髪の少女が、ネグリジェ姿で寝息を立てていた。

 ネグリジェが乱れ、華奢な身体のラインが露わとなっている。

 俺が少女の見えそうで見えない、はだけた胸元に興奮してるとアリスが呟いた。


「ハジメ……この子。もしかしたら……」

 

 アリスは何か言いたげな様子であったが、リシュアは血相変えて躊躇うこともなく魔剣を抜刀した。


「な、なんと! ふしだらなっ!」

「お、おい、リシュア! なに考えてんだよ! 可愛らしい少女じゃないか!」

「ハジメこの子は人間じゃないと思うよ」

「――ってお前ら二人とも人間ちゃうだろ!」


 天然のアリスも何故だか警戒を強めている。

 二人が必要以上に警戒してる中、俺は少女の頬をツンツンと突いた。


「もうお腹いっぱいなのです」


 少女が寝言を言った。

 何か食い物の夢でもみているのだろうか。


「な、どうみてもこの子。邪神って感じしねーよ」


 二人に振り向き、警戒を解かない二人に声をかけた矢先。

 後ろからぶつぶつと声が聞こえた。

 ――――ん? また寝言か? 


「我の眠りを妨げる汝は天か魔か。その魔剣から放たれる妖気。そなたらは邪神の使い。いや邪神そのものであるか! このマリリンは邪神復活を見張るもの。我の最強魔法により永遠の眠りにつくがよかろう!」


 振り向くとネグリジェがすとんと落ち、少女が呪文を詠唱した。


「太古より眠り姫たる乙女よ。我との盟約に応じこの者たちを永遠なる夢見の時に封印せよ! 究極眠り魔法アルティメットスリープ!!!」


「きゃ!」

「ぬっ!」

「あひゃ?」


 ――な、なんだ? 攻撃されたのか?

 アリスとリシュアがふらふらと倒れた。

 

「お、おい! 二人ともしっかりしろ!」


 完全に裏をかかれたと後悔した。

 が、アリスもリシュアもすーすーと、寝息を立てている。

 なんだ……眠ってるだけか。

 しかし油断大敵!

 すかさず少女を警戒した。 

 

 どうしてこうなっているんだ?

 少女は鼻ちょうちんを膨らまし、眠りについていた。

 まさか自分の魔法で寝ちゃったなんて、オチじゃねーだろうな。


 呆れた俺は二人を起こすことにした。

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