第16話 体育祭

 

 体育祭当日。意外にも忙しい。用意や準備。自分の出る競技やら。


 いつも運動苦手で足も遅い私は長距離走を選ぶんだけど、今回は生徒会の企画の為に体力を残してないといけないので走り高跳びにしたんだけど……飛べません。ごめんなさい。と、私がブーイングを浴びる心配もなく大歓声が聞こえて来た。男子の部の走り高跳びに榊は最高記録を出して三年生を抑えて一位。そして、短距離をわざと選んだとしか思えない柏木君。橘君と並んで走り柏木君一位になってるし。きっと陸上部の部長に言った腹いせだね。めっちゃ嬉しげな柏木君と悔しそうな橘君。


 変装するから着替えに時間をとるので昼一番から障害物競走の出番になった。競技後は応援団が演技をする事に先生が調整した。この障害物競走って先生が一番やりたかったの?


 クラスで競技者を決める抽選と引き続き見事抽選に当たった人がさらに何を着るか隣のクラスと合同で抽選する時、あんなにも居づらかったことはない。針のムシロに座ってる気分だった。私がコスプレ決めたんじゃない! って言いたかった。そんなの言えないけど。



 お昼も生徒会室には行かないのに集合してご飯を食べ雑談する生徒会。まあ、この後から本格的な生徒会としての仕事がはじまるしね。


「じゃあ、そろそろ更衣室の方に行くね」

「俺も」


 橘君と私が動く。なぜか私に袋を榊が渡す。榊が持ってるそれなんだろうとは思っていたけど。


「何コレ?」

「香澄も着替えて」

「はい?」


 慌てて袋の中身を確認する。出すまでもなく、さっき更衣室に用意したメイド服だし。


「なんでメイド服に私が着替えるの!?」


 免除だっていったじゃない!? 生徒会は!


「非難の声があるみたいなんだ。だから香澄も一緒に着替えたら女子も納得するだろう」


 非難の声は想定内だよね。抽選な時点で!!


「いや、なら榊が着替えてよ!!」

「嫌だ」


 あ、あっさり。


「ほらみんな集まるぞ!」

「行こう! 佐久間!」

「えー!」


 橘君に引きずられるように更衣室に使う教室へ。


「橘君も着替え……」

「嫌だ」


 榊と同じ反応してるし。なんで私の嫌は受け入れてくれないの?




 女子の更衣室に到着してしまった。もう待っている人がいたので慌てて鍵をあける。


「ごめんね。今、開けるから」


 みんなしぶしぶ入って行く。男子に比べれば女子の方がマシだけど……メイド服を渡された私にはわかるよ、その気持ちが!

 私もしぶしぶ着替える。


「あれ? 佐久間さんもコスプレするの?」


 同じクラスの子が聞いてきた。


「あ、うん。生徒会代表で」


 多分。


「そっかー。じゃあ、まあいいか」


 あれ? なんかみんなの気分が変わってる?

 榊の作戦は効いているの?



 みんなが着替えて外に出たので鍵を締める。

 そのまま競技場の控え室へと誘導する。なにこの集団。メイド服にチアリーダーで体育祭。変だね。変だよ! チアリーダーがマシに見えるよ!!

 まあ、目の前にいる女子生徒に扮しきれてない男子に品素なミイラ男達に比べれば可愛いもんだけどね。男子は意外にもテンションが高い。何を言ったんだ橘君!

 あー! 考えたら私はこの姿で競技中にずっと補助であそこを動き回ってるじゃない! もうすでに実行委員が平均台やら跳び箱やらを設置してくれている。榊と柏木君が指示してる。雑談ばかりの生徒会室でちゃちゃっとその辺は決めてた。相変わらず三人で。私いるの? って思うんだけど。


 さて、次のコスプレ障害物競走のアナウンス。ああ、もうコスプレってなってるし。まあ、コスプレ以外の何物でもないんだけど。


「ほら、佐久間行くぞ」

「はーい」


 橘君に促されて諦めて競技場へ。恥ずかしい……。

 早くはじまって!! 出てきてメイド服の女子!!

 一人競技場にメイド服姿……。罰ゲームだよ。


 ようやく全員出揃い、競技スタート。女子は難なく障害物をクリア……しない。やっぱりメイド服のスカートが邪魔をする。ハードルをコカしまくってくれる。直すの大変なんだけど。跳び箱はついてないと危ないし。網はまあ、絡まりつつクリア。次のチアリーダーにバトンタッチ。

 チアリーダーならば! って、ハードル普通にこかしていくチアリーダー。これってコスプレのせいじゃないじゃない! 平均台は大丈夫だけど、アレ! ポンポン持ってるから跳び箱至難の技なんだけど。そして、ポンポンが網に絡まるし、コスプレで障害物競走これで十分満喫なんだけど、ここからはじまる本番! チアリーダーが男子にバトンタッチ。

 女装した男子がスタートしていく、ハードルはスカートでやっぱり倒れていく。何回起こすのハードルを! 平均台は大丈夫だけど、女装した男子の跳び箱の補助は怖いよ。補助なんて無理。しかし、なぜか上手く跳び箱を飛んでる女装男子。一応安全の為に低めな設定だから? 網にはそこそこ絡まれ、さてここからが榊の狙い目のミイラ男登場。

 女装男子からバトンタッチを受けたミイラ男はハードル、平均台、跳び箱を難なくクリア。問題の網へ。やっぱりね。網に入るととれるとれる、いやどうだろうと思ってたんだけどね。思いの他これが面白い。最後はズボンだけで網から出てくる元ミイラ男達。ゴールってもうみんなの関心は順位ではないし。大歓声? 大爆笑? があがってるよ。

 あの網、後の片付けが大変そうだな。網はトイレットペーパまみれ。実行委員泣かせな競技だね。

で、私は先生に鍵を返してもらって、競技し終わった女子を更衣室へ誘導。みんなは恥ずかしい気持ちよりも競技をやり終わった達成感があるんだけど、競技をしてない私は恥ずかしさたっぷりなんだけど。なのに疲労困憊。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る