第15話 好きになってる
「なあ、こっち」
お昼休みはまだ時間があるからなのか、拓海は例の木陰に私を連れて行く。
「なに?」
「なんか言われた? ここでのこと」
拓海ってばザックリと聞くな。ここでの事っていってもいろいろあるんだけど。事実からフェイクなことからキスまで。
「学校でキスはどうかと思うと」
「やっぱりキスはやりすぎたかな? みんなにからかわれるし」
みんなに? え?
「みんなって友達出来たの?」
「ああ。登校初日にすぐにな」
早い! 早過ぎる。そして、ためらいがなさすぎる。みんなにとは複数形だ。完全に三人以上はいるよね。だから毎時間は来ないんだね。お昼も食べて来てから来るし。それは、いいことなんだけど……。
「樹里は苦手なの? 友達作り」
「あー、うん。そうかな」
そこになんで絡まる。
「ふーん」
また来たよ。ふーんが。
「いいでしょ。性格なんだから」
「うん。でも、昨日も今日も仲良くしてた子がいたけど本当のことは言ってないんだ」
相変わらず痛いところをグリグリついてくね、拓海は。
「果歩は高一から友達なの。だから、類のこと知ってるから、私のこと心配してくれてるの」
「なるほど、新たなる同居人の俺にはいい顔出来ない、しないもんな」
わかってくれたら話は早い。
「そういうこと!」
……そういうこと……あれ? なんで私はそういうことにしときたかったんだろう……果歩にバレないようにって……どうして思ってたんだろう……はじめから……。
「ふーん。……樹里?」
「なに?」
「なんか今考え込んでた?」
「別に……」
鋭い奴だよ。コイツは!
「ふーん。あは」
拓海が笑う。なに?
「なんでそこで笑う訳?」
「また見られてる!」
「え?」
見るとそこには男女関係なく見てるよ、こっち。
「拓海がキスするからでしょ? すっかり見せ物になってるじゃない!」
「あはは。しとく? な? ウッ!」
グーで拓海のお腹殴っときました。もちろん怪我のない右手で。
「そうするから見せ物になるんでしょ?」
「やー。期待には応えといた方が……う!?」
もう一度殴っときます。
「期待に応えないの! 毎日することになるでしょ?」
「いいじゃない?……あー嘘、嘘。樹里、力込めすぎ」
私のグーを見てやっと諦めたか。ファーストキスがあんな形だったんだ。気をつけなさいよね! 類はキスをするそぶりもなかった。やっぱり類には私のこと子供にしか見えなかったのかな。っていうか、やっぱり付き合ってさえもいなかったんだろうな。私の一方通行な恋だったんだ。拓海とのフェイクな関係の方が付き合ってるっぽい……っぽい。
ああ、ダメだ。なにやってるんだろう私。切ない気持ちが蘇って視界が滲んできた。バカな私を思い出して。
「え? 樹里? えー?」
ヤバイ皆に見られてる。変に思われるよ。拓海の胸を借りる。そっと頭を拓海の胸につける。
「ごめん。少し胸貸して」
「あ。ああ……あいつのことか?」
「まあ、その……いろいろ……」
拓海の胸にそっと頭をおいとくつもりだったのに……拓海に抱きしめられた。すっぽりと拓海の胸に入ってしまった。
「やり過ぎ!」
「誤解を生むだろ? さっきのじゃ」
うーん。殴ってたし、ケンカしてるように見えてたならこの方がいいんだろうけど……なんだろう、この気持ち。さっきの胸の痛みが消えて、ドキドキとそして安心感が交差する。もう涙もすっかり引いたからいいのに、それを拓海に伝えて離れてしまいたくない自分がいる。なんで?
「ああ。うん。じゃあ」
そっと拓海の制服をつかんでみる。あったかい何かがあの時空っぽになった胸の中に入ってくる。……ああ、最悪だ。私、拓海を好きになっている。また馬鹿な小娘の出来上がりじゃない。拓海もいつか……どれくらなのか全くわからないけれど、私の隣の部屋から去って行くのに……。せっかくおさまった胸の痛みが、もう一度沸き起こる。今度は激しく胸を締め付ける。この関係が偽物だと思えば思うほど。
「樹里? 大丈夫か?」
何時の間にか握りしめていた制服を引っ張っていたみたい。涙をこらえる為に。体も震えている。どうしようもない苦しみをなんでもう一度味合わなきゃいけないの?
「あ、樹里? もう時間が……」
「うん。大丈夫!」
自分に言い聞かせる大丈夫。そう、拓海には私の気持ちを言わなければいい。このまま偽物の関係をしばらく続けていればいい。そうすれば慣れていくだろう。こういう関係にも。こういう事にも。
チャイムがなる頃には自分を言い聞かせられた。類と同じようにならないように。拓海には接すればいいんだ。
「樹里大丈夫か?」
「うん。ごめん。なんかいろいろね!」
頭を離して、拓海の顔を見ても大丈夫だ。ちゃんと話せる。意外に私強いな。きっといっぱい傷ついたせいだろう。
「行こう。授業に遅れる」
「あ、ああ。うん」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます