第14話 起こされる

「樹里! 起きろ!」

 え? 朝、目覚めると拓海が目の前にいる。

「え? あ?」

「時間がないんだろ?」

「ああ、うん。ありがとう」

 うわー、昨日ボヤいただけに、これはちょっと言いにくい。いや、言えません。ごめんなさい。昨日散々文句言って。寝起きというか寝姿まで見られるって! 朝からハードだよ。


 *


「樹里どうした? 体調悪いのか?」

 もう公認で登校も下校も一緒にできるんで朝からずっと一緒の拓海と私。

 ちなみに私は果歩と同じで帰宅部。運動部だ! と張り切って入ったテニス部であえなく挫折して帰宅部になった。そこで果歩と仲良くなった。テニス部で得たものは親友だった。そして、三年の夏という、もうそろそろ部活はみんな引退するという時期に転校してきた拓海も当然のように帰宅部だった。

「ううん。ちょっと朝弱いから」

 本当はヘビーな朝に参ってるだけです。

「えー。昨日の朝は勢いあったのに」

 あー。勢いよく拓海を攻めてました。ごめんなさい。

「あれは遅刻しそうなんで勢いついたの」

 必死に抵抗してる私。素直に謝れないくなっていくー!

「ふーん」

 あ、出た。拓海のふーん。ああ、これはふーん、とは返せない。

「それより慣れた学校とか?」

 話をかえてみよう。

「うーん。まあまあかな」

「そっか」

 あ、終わった。

「もうすぐ夏休みだねー。あ……」

 そうだった。夏休みだ。いつまで拓海がいるのかは聞いてないが、まさか夏休みの間はいくらなんでもいるだろう。最短な子でも一ヶ月はいたんだし。

「夏休みかあー」

 拓海、夏休みを楽しみにしてる顔だな。なんかプランがあるのか? うちの夏休みはこれと言って夏休みをエンジョイはしないんだけど。二人とも働き詰めで私は夏休みらしいことせずに毎年夏が終わってるような気がする。


 *


「樹里! おはよう。朝から仲良く登校だね!」

 うん。今までがワザとずらして登校してただけなんだけどね。

「おはよう。果歩」

「で、どうなった?」

「……」

 どこまで事実を言えばいいんだろう? と迷っていたら、

「まさか! 樹里? いきなりはダメって言ったじゃない!」

 ああ、もう違う想像をしてる。

「一緒に帰っただけだって。果歩想像しすぎ!」

 まあ、いくら果歩でも拓海と同居してるっていう想像まではしてないだろうけどね。


 *


「樹里!」

 もう昼休みに来るのは恒例なのか? 拓海は友達作ってるのかな? あ…友達を作りたくないのかも。みんなそんな感じだった。今だけここにいるからって。

「樹里。いきなりラブラブだねー」

 果歩の誤解は続いてくよ、どこまでも。だって真実は言えないからね。嘘は雪だるま式に大きくなるっていうのは本当だね。

「ラブラブとか言わないで恥ずかしい。じゃあ行くね」

 と教室の入り口にいる拓海のところに行く。一応ラブラブとか言われないように念を押したけど……これっていつかはバレて果歩に怒られるんだろうな。拓海が転校したりすれば……チクっと痛む胸。あれ?


「何?」

「ガーゼ替えに行くぞ」

 ああ、そうだった。昨日お風呂上りに替えたから……指を見る。やっぱり保健室に行っといた方がいいみたい。

「うん」

 果歩ラブラブなんじゃなくて、これはただの怪我の心配だよ。


 この時間は失敗だよ。やっぱり保健室に先生はいません。今日もお昼を食べに行ってるね保健の先生。

「今はいないんだよー。先生、ご飯食べてるんだよ」

「傷どうなってる?」

「昨日も見たじゃない?」

 昨日もこれを貼り直したのは拓海なのに。

「昨日だいぶ治ってたから」

 と言いながらテープを外してる。かなり切れてた指の傷はかなりよくなってる。まあ、血がダラダラだった時に比べたらね。

 あ、血がダラダラだった指を思い出したら気分が悪くなった。傷もよくは見てなかったから……またフラッとする。

「お、おい!」

 拓海が私を抱えるようにする。私と拓海は椅子に並んで座っていた。

「ご、ごめん。傷を思い出したら気分が悪くなって」

 拓海の腕の中にいる。なんでだろう落ち着く。

「お前どれだけ血が苦手なんだよ」

 そういいいながらも腕を外さないでトンと私の頭を拓海の胸においておいてくれる。


 ガラガラ


「おい! 保健室でイチャイチャするな!」


 また、保健の先生に小言を言われてガーゼを巻いてもらう私と先生の小言を全く気にしてない拓海。


 やっぱり先生のががっちり巻いてくれるんでいい。拓海の巻いてくれるのは外れそうになる。指だからどうしても動いちゃうし使ってしまうから。これっていつまで続くんだろ? 絆創膏で済む時には……あ、なんか胸が苦しいな。なんだろ?

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