第13話 宿題する

「じゃあ、樹里! いきなりなんでも許しちゃダメよ、そこは純情な樹里でいてよ!」

「あ、ああ、うん」

 果歩そういう展開にはならないから。最初のキスで警戒してるんだだろうけど。拓海にとって私はただの女子よけになんだから。誰も見てない時には余計に何もしないよ!

「じゃあ、明日ね」

「うん、明日」

 果歩はご機嫌な足取りでバスケ部に向かう。明日ね、って言葉の響きに何かを期待してる果歩を見た。自分で念押ししたくせに!

「よお! なんの話?」

 拓海がバッチリ待ってるよ。しかも今の話を聞いてたようで、なんかにやけてるし。果歩のバカ!!

「こっちの話」

「ふーん」

「ふーん」

 もう拓海のふーんにはふーんで返そう。こいつのふーんはなんか怖い。


 *


「えー。嫌い。別のメニュー!」

「嫌いは聞きません」

 どっかの親子な会話をスーパーで繰り広げる高校生な私達二人。もちろん駄々をこねてるのは私。作る事が出来ない私にはメニューを拒否する権利もないようだ。ずっと、私が料理の担当だった。気づけばそうなっていた。そして、私は自分の食べたい物を作る。必然的に嫌いなものは食卓にはあがらない。

 拓海の今日のメニューはチンジャオロース。こいつめちゃくちゃ料理してるね。普通作らないよ、チンジャオロース。ピーマン嫌いな私がピーマン食べるの小学生以来かな?

 拓海はさっさとピーマンをカゴに入れる。

「ピーマン、ちょっと多くない?」

「こんなもんだよ」

 拓海、絶対、うちにくる前も料理しまくりな毎日だったな。


 *


 家に帰って部屋で着替えてたら


 コンコン


 と、ノックの音。

「ちょっと待って着替えてる」

「ああ、じゃあ終わったら声かけて」

「うん」

 なんだろう?


 ガチャ


 ドアを開けるとそこには教科書とノートを持ってる拓海がいた。

「え?」

「宿題!」

「えー」

 クラス違うから宿題違うし、一緒にやる意味がわからない。しかもちょいちょい私のノートに落書きする。子供か!

 でも、楽しかった。こんなことなかったな。ないことばっかりだな私。類に引きづられていろんな事しないできたんだと果歩が必死に恋だ彼氏だと言っていた意味がわかった。楽しいよ、まあ、本物じゃないけど。


 *


「えー。本当にチンジャオロース?」

 ピーマンの臭いが漂うキッチン。どうしても諦めきれない私。

「違うメニューにしてもピーマンは出てくるけど?」

「……諦めます」

「くくく」

 ワザとか!



「美味しい!!」

「な! 味覚って子供の頃と今とじゃ変わるんだよ」

 食わず嫌いって奴だったみたいでチンジャオロースを私は美味しくいただいた。拓海が料理上手なのか?



 また洗い物することもできない私は拓海を見ている。確かに拓海、カッコいい。今さらだ! って言われるかもしれないけれど、類とかぶることが多くって、拓海自身をあまり見てなかったせいなんだと思う。

 それにしても拓海には影がない。みんなどっかあるんだよね。小学生にだって。何があったかなんてわからないなりに肌で何かを感じとってる。拓海がものすごい図太くたって……やっぱり影なさすぎだよな。

「何をマジマジと俺を見てる?」

「え? ううん」

 まさかカッコいいということを再確認してたとは言えないし、さらには影がないなんて言えやしない。

「いや、見てただろ? 今、完全に」

「あのー、悪いなと。毎日、毎日。初日から料理させちゃって」

 ようやく出てきた。指に痛みがはしってくれたおかげでいい言い訳が思いついた。

「ん? ああ、いいよ。なんか俺のせいだったようなもんだし」

 そういえば……拓海の言葉で自分から類を思い出してグッサリ切っちゃったんだよね。私って引きづり過ぎだなつくづくバカな小娘だった。

「ううん、私がバカな小娘だったせいだよ」

「は? バカな小娘?」

「いいの。それよりあの見物女子はいなくなった?」

 実は気になってたんだよね。私で効果あったのかと。まあ、次の時間もすぐに保健室に行ったからわかんないかな?

「ああ! バッチリ。一人もいなくなってた。すっきりしたよ」

 すっきりって。それはそれで、どうなんだろう。片想い状態だった自分の姿を彼女たちにかぶしてしまうんだけど。

「そう、効果抜群だね」

 きっとキスのせいだね。あれは凹むよね。私なら立ち直れないよ。

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