第12話 設定する

「樹里!! どういうことなのか説明しなさい!」

 さっきは教室につくと同時に先生が入って来て、中腰だった果歩は諦めて自分の席にそのまま座ったんだけど。今度はチャイムと同時に、私の席に走りこんできた。説明……どうしよう。そこの設定を拓海に聞いてなかったよ。勝手に言ったら話がゴチャゴチャになりそう。

「えーっと、そのー。付き合った?」

「なんで疑問なのよ!? キスしてたじゃない!! しかも二回も! それも、学校でやるなんて」

 バッチリ見てたんだね。二回とも。学校でキスするのは私もどうかと思うよ。

 ヤバイ追求の手が緩むどころかキツイよ。

 と、そこに

「樹里! 保健室行くぞ!」

 いきなり樹里って呼び捨てはどうだろう。拓海のど根性は知らない人から見るとどう見えるの? さっき付き合った二人には見えないように思うんだけど。

 けれど果歩から逃れるのと設定をキチンとしとくにはあちらに行くしかない。というか、この事態に収集つかないし。みんなが拓海と私を交互に見てるよ。

「ごめん。果歩。指のガーゼ保健室で替えてくるね」

「え? ああ、うん」

 果歩も引く拓海の強引さ。すごい奴だよ、拓海。


 *


 少しの間は話が出来ない。保健室に行っても先生がいたら出来ない。教室と保健室の間の人のいない瞬間を狙う。

「ねえ。付き合ったって、どういう設定?」

「設定?」

「友達に聞かれるじゃない! どうやって付き合ったとか、ほらいろいろ!?」

「ああ。俺が樹里に告白したって言った」

 拓海もうすでに誰かに言ってたのか! 危ないとこだったよ。果歩に違う情報を伝えるとこだったかも。

「そういう事ちゃんとしとかないと後でおかしくなってバレるでしょ?」

「そうかあ。うん、俺が昨日樹里を気に入って、今日お昼にあそこで告白して樹里は受けたってことで」

「わかった」

 変なの。ってことで、って。類との微妙な関係よりも微妙な感じがするんだけど。

「樹里からが言ったって方がいい?」

「え? もう誰かに言ったんでしょ? 今さら変えたらおかしいじゃない」

 ってか、選び放題? なの、この設定。

「じゃあ、それで」

「うん」

 変なの。


 *


 先生に小言を言われて巻かれたガーゼ。まき直ししてないんで怒られました。昨日先生に巻いてもらったままだったんで。


 *


「じゃあ、変えないでよ! 話を」

「わかったって」

 その時の気分で話を変えそうな拓海に念を押してそれぞれのクラスに帰る。私は果歩の元へと。


 *


「ジューリー!」

 亡霊のように呼びかけないで果歩。そして、肩をガッチリ組まれて席に座らされた。一応、怪我人だから座らせた?

「果歩。怖いよ」

「さあ、言いなさい!」

 ああ、うまく言えるかな。というかあの簡単な設定で果歩は満足するんだろうか?

「お昼にね。えー。た、安田君に告白されたの」

 あ、拓海は樹里ってさっきすでに呼んでたよね。拓海でよかったのかな?

「で、樹里はそれを受けたの?」

 果歩はすごい疑り深い目で私を見てるよ。今まで誰の告白も断って来たのに、昨日見た拓海の告白を受けるなんて疑わしいよね。でも、

「うん。受けた」

 って言うしかない。

「ふーん。受けたの……」

 果歩の沈黙が怖いよ。

「受けたの」

 ああ、ついまた言っちゃうよ。

「そうか! ついに樹里も!!」

 果歩、音符が出てきそうな声に変わってる。なぜか納得してくれたみたい。よかった。

「うん」

「そうか。そうか。樹里って相当、面食いなんだな。だから、今まで上手くいかなったんだな」

「う? うん」

 面食い?

 そういえば……あの人気ただ単に転校生ってだけじゃないよね。拓海って……そういえば男前だ。ちょっと類の事でいろいろあったんでそういう風に見てなかったけど……男前だ。

「なんで疑問なのよ。樹里?」

「あ、いや、その顔より中身かなーって」

 く、苦しい。中身って、拓海の図太い根性か? そこに惹かれたのか?

「ああ、昨日のあれか。いいよねー。初対面で傷に気づいてすぐに保健室に連れてってくれるなんてなかなかないよね」

 ああ、ない。初対面でなんて……ん? 初対面で……そういえば、キッチンで指を切ったあの時も指の血を……拓海は……ああ、ヤバイ思い出して顔が熱くなる。キスよりもなんだかすごく恥ずかしい。指になぜかまだ残っている拓海の唇の感触を思い出す。

「樹里って本当、純情なんだから」

 私の赤面を違う風に捉えてくれた果歩。キスに赤面しないことは気にしないんだね。

 指を見つめて拓海を思い出す。確かにキレイな顔だな。まつげも長くて、鼻筋も通っているし、唇が……うう、ヤバイ顔から火が出そうだよ。

「樹里! かわいい!」

 果歩、多分思ってることが私とは全然違うんだけど。抱きつく果歩の胸の中で赤くなってるだろう顔が授業開始までには戻りますように。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る