第16話 バカな小娘になる
「樹里? なんかあったの? 昼……」
ためらいがちに果歩が次の休み時間に聞いてくる。さっきのことだ。心配させるような光景だったんだろう。
「ああ、ううん。なんかヤキモチ? かな?」
自分の仕草を思い出して、想定される事を思い描いた。ヤキモチか……きっとこの先、そういう気持ちにもなるだろうな。
「樹里がヤキモチ?」
「うるさいな! 果歩の恋に口出ししてないでしょ! 私もヤキモチぐらいやくよ!」
そう、そうなるよ。きっとこの先、拓海が去って気持ちの整理がつくまでは。何度でも。
「はいはい。樹里怒りっぽいよ! 恋する乙女は怒りっぽいね」
「自分もじゃない!」
「私の場合は……ねえ」
果歩の彼氏は果歩ラブだもんね。心配なしですか。
「なによ! 最初は自分だって心配してたくせに。今でもバスケ部いってずっと観てるくせに」
まあ、今は一緒に帰る為に待ってるついでなんだろうけどね。知ってるけど突っかかる。幸せな果歩の恋。なんで私はこうなのよ!
「あーそう。もう。樹里、怒んないで! ごめん……で、何があったの?」
「言わない」
言えない本当の話なんて。きっと怒られる。また同じことを繰り返してるんだから。
「えー!」
「えー、じゃない。それよりそろそろバスケ部引退じゃないの?」
「次の試合で引退なの! 会える時間増えるのに受験生になって……」
果歩ショボンとしてる。えー、話題を変えてみようと果歩にとっていい話題だと思って振ったのに。
「え、あ、そう……だよね」
「でね! 健太郎と、受験勉強をね、一緒にすることになってるの」
心配して大損だった。言葉の端々に音符が飛びまくってるよ果歩。
「はいはい。勉強しなよ。ちゃんと」
ラブラブしすぎで勉強出来るのか?
「出来るかな?」
果歩……最初からやる気ないんですか!
*
「じゃあ、明日ね! 樹里!」
さっきの続きで音符が見える……違うハートだよ。ウキウキだな果歩。
「また明日ね。果歩、ちゃんと勉強しなよ!」
もう今から釘さしておこう。あの頭の中がすっかりハートな奴には。もう二年は付き合ってるよね。長いこと付き合ってるのに、ラブラブ加減が増してる気がするのは私だけかな?
「友達ご機嫌だな」
見なくてもわかる。拓海だ。
「もう! 突然入ってこないでよ! びっくりするよ」
「ごめん。ごめん。もう…」
大丈夫か? って、聞きたいの多分、拓海はおさえてる。
「大丈夫! さあ、今日は選ばしてよ。晩御飯のメニュー!」
そう、もう大丈夫。自分の気持ちがわかったから。もう大丈夫。
「ダメ! 俺の好きなメニューだよ。作らない人には選ぶ権利なし!」
「作らないんじゃなくて、作れないの!」
「ダメ! もうメニューは一週間分、決めてるからね!」
そうだよね。材料バッチリ買ってたし。
*
家に着いて一息つく。自分の部屋にこもった空気を変えたくて、窓を開けても無駄だった。よけいな熱気を部屋の中に入れ込んだだけだった。クーラーをつけてしばらく風に当たる。着替えも出来ない。汗だくだよ。シャワーしたいぐらいだけどな……。
トントン
やっぱり来たか。
「はい」
「宿題するぞ!」
拓海の声。毎日一緒に宿題する気だな。これは。
「まだ着替えてない!」
「何してたんだよ?」
「涼んでたの! あんなに汗だくだったんだから、着替えも出来ないじゃない」
「マジ? 早く着替えろ!」
拓海、完全にクーラー目当てだな。
「わかった待ってて」
やっと汗が引いて着替えが出来る。
またちょっかい出されながら宿題をする。そろそろ受験とかにもなるのかな? 拓海の進路は聞いていない。どういう状況かもわからない。聞くに聞けないし……果歩のようにこうやって、毎日拓海と一緒に勉強できたらいいのに。私も同じだな選ぶことが出来ない。ただ受け入れるしかできない、ただのバカな小娘だ。
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