第17話 『神話』

 「君たちは神官なのか?」

 「神官というかその子供と言うか……」

 「私は巫女って事でいいけど…」

 「よくねぇよ」


 あの後ケイトさんとも少し仲良くなった……あ、ケイトさんってのはトライルのお父さんの事だ。


 「黒髪の人間と話すなんて一生に一度味わえるかどうか分からないわぁ」


 そう言って微笑むのはパララさん、トライルのお母さんである。

 あの後夜遅くまで話してこの館の人とはある程度仲が良くなった、そのせいか今は朝だったりする。


 「あの……どうして人間族は嫌われているんですか?」


 空気が悪くなるかもしれないが会話によく出てくる人間への憎悪、その原因が知りたくて質問してみる。


 「うーん……人間自体は嫌いじゃないんだが…十数年前この村を隣国の正規軍が

  襲ってきてね、虐殺と略奪を繰り返したんだよ、しかもその国が人間族単一

  国家だったもんだから大変さ、この村の羊脚族ホーガは人間嫌いになって

  しまった。この村はホーガしかいないからこの村にとって人間は忌み嫌う存在

  となってしまった」


 一瞬の沈黙。


 「まぁ安心したまえ、この国の王は人間だ、人間を排除しようとなんてしまい。

  それに最下級層からも信頼が厚いくらい民からの信頼もある善良な方だ。証拠

  に王様が風邪をひいたって噂が流れた時には国民の年間消費量に匹敵する量の

  作物が王宮に届けられたんだよ」


  そう笑いながら言うケイトさん、別にそういう意味で質問した訳ではないがこの国では善政が行われているという事を知ってホッとする。

 空気も悪くならなかったしもう一つ質問をしても良さそうだ。


 「黒髪って珍しいんですか?」

 「珍しいも何もそんな種族存在しないよ」


 驚いた、しかし不思議だ。彼らはどうみても黄色人種モンゴロイド、しかし髪色は赤、ホーガという種族が特殊なのだろうか。


 「こんな神話があってな……」


 そう言うとケイトさんはこの大陸に伝わる神話について教えてくれた。




 ―――――――――――――――――――――――――――――――――


 カララ紀第一節




 その昔、ギャラドの地にまだ国がなかった時代


 カルルの地には多くの風竜がいた


 風竜は破壊の限りを尽くし


 人間族は口へ消え


 羊脚族は足に消え


 狐魔族は手に消えた


 三族が涙と共にその身を神へ捧げ竜の消滅を願ったとき


 世界は異界へと移された


 そこに現れたタカマガハラの神々は黒髪の使いを出した


 黒髪の使いは風竜を駆逐しカララの地は再び三族のものとなった


 人々が神々へ感謝した時世界は元の世界へと戻された


 以後カララの地は三族のみが国を立てれるようになった




 ―――――――――――――――――――――――――――――――――



 「って御伽噺みたいな神話があるんだよ、ここでは皆信じてるけどな」

 「…タカマガハラってあの高天原ですかね?」

 「ん? タカマガハラの事を知っているのか?」

 「うーん知っているというか何というか……僕の国に伝わる神話の天津神の住んで

  いる世界の名前が同じなんです」

 「不思議なこともあるものだな、君の『転移』の原因も隠されているかもしれな

  い」


 ……黒髪と高天原、そしてこの世界の転移、とても無関係とは思えないが今いくら考えても状況は何も変わらない。


 そんなことを考えているとトライルとトライルのお母さんが興味深いを話を始めた。


 「そう言えば昨日トラちゃん風竜が復活するとか言ってたけど風竜っていなくな

  ったんじゃなかったの?」

 「いなくなりはしたと思うんだよ、確認方法はないけど……でも四千年前に他の

  大陸からまた一匹だけど風竜が来たの、その時に種族が絶滅しかねない大損害

  が出ながら封印したの、まぁ寝かせただけなんだけどね。風竜は物理的な攻撃

  に弱いけど寝たら一瞬で硬い殻が生成されて手出しできなくなるの、下手に手

  に出して復活させたら大変だか手は出さないんだ。でもそれが最近復活しそう

  で……」


 なんだそれチートじゃねぇか、一匹で一大陸の種族を絶滅寸前まで追い詰めて倒されても寝ただけで寝ている間も手出し不可能、動く核兵器ツァーリ・ボンバか。


 「あ、阿須波君、この魔法石触ってくれるかな?」

 「? いいですよ」


 急にケイトさんに話しかけられてびっくりしたがそれは別にいい、魔法石を触ってくれとはどういう意味だろう、というか魔法石ってなんだ。

 と思ってるとケイトさんが青色の石を持ってきた、宝石というにはくすんでいる。これを触れという意味だろう。


 「触りますよ」

 「ああ、ただ触るだけでいい」


 そう言われて石に手を置く。













 パキンッ



 ガラスの球体を割ったような音が部屋に鳴り響いた。





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