第二章 《第二の世界》

第15話 『剥奪』

 「うわーおっきいねー」


 ……今俺こと霊彦はトライルの家に来ている。目的は勿論衣食住の確保だ。

 日本だったらなんとかなるかもしれないがあんな化物バンどもがいる場所で寝れるとは思わないし食だって食べたらどうなるかわかったものじゃない……まぁそれはここでもあてはまるのだが。

 一応仕事の為ゲンナは伐った木の報告に行ってしまった為トライルに案内されながらここに来た。

 しかしここまで来るのには苦労した。

 理由は聞いてないが羊脚族ホーガは人間に強い敵対心があるのだという。

 しかも黒髪と黒い瞳をもつのは神の使者だけという神話もあるという大矛盾から俺らはかなりの重装備でここまで来た、そのせいで変な目で見られまくったが……


 「待ってね、お父さん呼んでくるから」


 そう言ってトライルは家の中に入っていってしまった。

 途端に怖くなってくる。

 ホーガが人間族に強い敵対心を抱いているということはトライルのお父さんもではないのだろうか。

 幸いトライル達は色んなものを紹介したりしたお陰で心を開いてくれたが大人がそう簡単にいくとは思わない。

 ましてや怪しいものとも思われる。

 事実身元を証明する方法などない、異世界から来ましたと言うわけにもいかない。

 まさかこんなところで日本という国がいかに暮らしやすい場所だということを思い知らされるとは思ってもいなかった。日本なら交番にでも行けば家に帰れるし身元なんてすぐ分かる。

 トライルの話を聞いて自己分析する限りこの世界の科学技術は平均で中世レベル、話に聞く『神帝世界』と呼ばれる他を隔絶するレベルの最高文明圏でも科学技術は18世紀レベルだ。まぁ魔法とかいう変な力を使える事を考えると19世紀レベルにはなるのだが……

 ……と、考え込んでいると赤髪の30代後半に見える男性がトライルと一緒に玄関から出てきた、恐らくお父さんだろう。


 「……で、何だトライル、話ってのは」

 「…お願いがあります!」

 「はぁ……?」

 「彼らをうちに泊まらせてあげてください!」

 

 トライルがそう言うとお父さんは驚いたような顔をしている、仕方ないだろう、目が見えない程全身を布でぐるぐる巻きにした奴を泊まらせろと言うのだ。

 神生はもう頭を下げている。俺も下げるべきなんだろう。

 しかし俺には心に残ることがあった。

 トライルには人間とバレない様にお父さんの前では全身を隠してろ言われた。あたかも角があるように、あたかも脚が大きいかのように、あたかも普通のホーガかの様に……




 いいのだろうか?


 俺たちは仮にも助けを乞うている立場、果たして自分を騙そうとする者を人は快く受け入れるだろうか?


 受け入れて、本当の事を知ったときどう思うだろうか?


 勝手な事とは分かっている。でも嘘が後世に何をもたらすかは歴史が物語っている。


 そう思うと俺はこの布を身にまとうことはできなかった。


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