7
朝食の準備をしていると、七海さんがもう起きてきた。食事が終わると、何か手伝えることはないかと聞いてくる。こんなことは初めてだった。僕は皿洗いをお願いした。距離が近づいたことを実感する。僕は椅子に座ってテレビを見ながらウーロン茶を飲んだ。ふと、ウーロン茶のティーパックがなくなりそうだったことを思い出す。
午前中はそのままダラダラと過ごして、僕は昼食のためにそうめんを茹でた。
「裕也くん今日はアルバイトないんだね」
お皿を洗いながら、七海さんは言った。
「そんなに働いてもしょうがないですからね」
「今日はどこも出かけないの?」
「このあと、図書館に行く予定ですよ。あと、買い物もしてこようと思っていますけど」
「私も今日は外出しようと思うんだけど、何時ごろ出かけるの?」
二人同時に外出することを想定していなかったため、確かに悩みどころではあった。
「鍵は一つしかないんですよ。一緒に出ましょうか」
そういうと七海さんは少し困った表情を浮かべた。
「うーん。でも、もうちょっとだけやることがあって」
「だったら待ちますよ」
「それもなんか悪いからさ。ね、先に出掛けなよ」
「じゃあ、鍵渡しておきましょうか?」
「いいの?」
「そうしないと、閉められないじゃないですか」
「そっか」
「七海さんが空き巣ではないことがわかったから貸してあげますよ」
僕がそういうと、七海さんは笑みをうかべた。七海さんの帰宅時間がはっきりとしないため、鍵を閉めた後は郵便ポストに入れておいてもらうことにした。
僕はその日の午後、ずっと図書館で過ごした。普段はゆったりと小説を読みふけることが多いのだが、この日はいくつか料理関係の本を手に取った。調理師免許の取得方法に関する本も初めて目を通してみた。
将来について考えてみたのだ。七海さんに言われた言葉が心から離れなかったから。確かに過小評価をしてはいけないのかもしれない。自分の強みに目を向けないと。そんなことを考えたことは今までになかった。
帰ったら相談してみようかな。僕はいくつか本を借りて、いつものスーパーに寄ってから家に帰った。
郵便ポストには封筒に入った鍵があった。まだ七海さんは帰ってきていないらしい。
ずいぶんと遅いんだな。
僕は玄関の鍵を開けて電気をつけたあと、腕時計を確認した。夕飯はいるのだろうか。聞いておけばよかった。リビングの明かりをつけると、テーブルの上に置き手紙があった。
凜々子の部屋を見ると、七海さんのキャリーケースはなかった。あたりはしんとしていた。それは、久しぶりに味わう確かな静けさだった。
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