第5話 異変


ーキーンコーンカーンコーンー


「………」


…おかしい。


いつものように授業終了のチャイムが鳴る。


しかしいつもと違うのは、あのうるさい声が聞こえない事。



「あれ?今日は来てないんだ、あの一年生」


思っていた言葉を口に出して言ったかと思い一瞬焦る。


「…なんだ、尋紀か」


が、自分のものじゃないと分かると安堵して、声をかけてきたクラスメイトの尋紀に返した。


「ダチに向かって『なんだ』とは何だ。ひでぇやつー」


「悪い」


「良いけど。それより珍しいな、あの子。いつもはチャイムが鳴ると同時に来るのに」


「…そうだな」


「心配じゃね?何かあったとか」


「別に…つか何でお前が心配するんだ…どうせめんどくさくなっただけだろ」


「そんな事ないと思うけど」


「じゃあ飽きたんだ」


「…それも違うと思う」


「………」



(…じゃあ何だ?)


あまり勉強以外の事は頭の良くない十夜君、少ない脳みそを働かせるが見当がつかない様子。



「寂しいだろ?」


思い付かないまま一人あぐねいていると、尋紀が一言。


「…?何がだ?」


やはり理解が出来ずに首を傾げる。


「だって十夜、お前あの子が来てた時物凄い嬉しそうだったからさ」



…思わず沈黙。

次の言葉を発するまで数秒かかった。


「……嘘を吐くな」


反論したものの、尋紀はその言葉を否定し続ける。


「いーや、楽しそうだったね。だから十夜寂しいだろうって」


「…寂しくなんかねぇし」



そうだ、寂しいなんて思ってないぞ俺は。


心配なんて……


…………



「慰めてやりてぇけど、由行が待ってっし、俺は行くかなー」


「ダチよりも恋人を取るのか」


「当たり前だろ?」


「………」


…やっぱりそうだよな、尋紀はそういう奴だ。

分かってたぜ。


分かってて聞いた俺がバカだった…



「…っと、あ!あれ一年担任の早瀬じゃね?」


頭ん中で考えを巡らせてると、立ち去ろうとした尋紀が誰かを見付けて足を止める。


丁度廊下を一年生担任教師の早瀬が通ったのだ。


「ちょっと聞いてみようぜ!」


「おい、良いって尋紀っ…!」


「ほとりちゃーん!」


言うのが遅かったのか、目の前にいたはずの尋紀は早瀬の近くに移動していた。


そして俺も何故か腕をひかれここにいる。


「…鹿島、名前で呼ぶなっつっただろーが!つーか敬語を使え、敬語を」


「えー、可愛いから良いじゃん」


「そういう問題じゃねぇ!教師には敬え!」


「まぁまぁ…そんな事より一年の佐伯だっけ?見てない?」


「あぁ、いつも途中で授業抜け出してくあの問題児か」


…………


やっぱり問題児だったのかアイツ…


「それならいつも矢崎と一緒にいるじゃねぇか」


「いや、好きで一緒にいる訳じゃ」


「それがいねぇから聞いてんじゃん」


「おい尋紀…」


俺の言い分を無視する二人。


「何だ、フラれたのか」


「違っ、何でそうな」


「そうみたい」


「なるほどな」


だから違うっつーの!

ってか…お前ら俺の話を聞けぇぇー!



すると早瀬が何かを思い出したのか、口を開く。


「そうだな…何か三年の奴等に着いていくのを見かけたような…確か、資料室の方に向かってったぞ?」


「ほとりちゃんさーんきゅ!だってさ、十夜!」


「俺は関係な…」


「鹿島ァ!ほとりちゃんって言うんじゃねぇ!」


「はい十夜、男だったらつべこべ言わずに行ってこい。な?」


早瀬の怒鳴り声も無視し、有無を言わさない笑顔でにっこりと微笑んだ尋紀は俺の背中を押して促すと。


「じゃな!由行ぃー!」


さっさと恋人の元へ行ってしまった。

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萱草真詩雫 @soya

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