track 14-哨戒

「ズイブンと大所帯で来たね、彼らホンキだよ」


クルクルと巻いた髪の男が、やる気の無さそうな目を遠くへと向けた。


『アスノヨゾラ哨戒班』


朝焼けのような風景を思わせる光で満たされた周囲、4つの星のような光が辺りをゆっくりと『哨戒』している。


「死にはしないよ、エグい強さの人もイるし」


俺の不安を察したのか、男はボソリと呟く、瞳に浮かび上がる輪の向こうに、哨戒班から見た景色のどれかを映しているのだろうか、左右の目のそれぞれの焦点が合わずにフラフラとしている。


「蜜柑星さん、そろそろです」


じんさんがそう言って伸びをする、目の前にあるのはただのマンホール、しかしそれをEZFGさんが消し去ると、そこには下水管に続くものとは思えない綺麗なハシゴがかかっていた。


「今日は週末だからささくれさんとは相性が悪い、EZFGさんとみやけさんは迎撃、僕とナユタン君はバックフジ君を連れて作戦続行、蜜柑星さんはここで待機しててください」

「相手にハチ君が加わってるけど、ホントに大丈夫?」

「危ないと思ったら蜜柑星さんが加勢してくれれば大丈夫です」


男は頷き、側に立っていた2人に触れる、触れられた2人の姿は、接続が悪くなったモニターのように点滅し、消えた。


「いくぞ」


じんさんにグイと引っ張られ、俺はマンホールのハシゴへと降りていった。


* * * * *


「なんか、空気が重いな」


路地をすり抜けながらDECOさんが言う、雰囲気の事を指した表現ではなく、確かにギリギリと締め付けるような感覚に先ほどから見舞われていた。


トン、と僕たちの行く先に1人の男が立ち塞がる、虚ろな目に真っ黒な服装、いかにもといった感じの敵襲だ。


「下がって! 絶対に影に近付かないように!」


ささくれさんが指示を飛ばす、しかし彼の足元からは既に、大きな口のようなものが飛び出してきていた。


「『夜』は地球の大きな影ですよ、ささくれP」


バチバチと音を立ててDECOさんが異能を発動する、口元に現れたガスマスクは『リバーシブル・キャンペーン』の発動を意味していた。

重力を反転させられたささくれさんは空高くへ飛び上がり、影から現れた何かの襲撃を見事避けた。


「みやけさんも向こう側だったか、アレに食われると時間を止められる、気をつけろ」


ピノキオPの忠告から間髪入れずに次の影が飛ぶ、辺りに舞っていた砂埃の一部がピタリと静止した。

キンという高い音と共にみやけさんと僕たちの間にナイフが落ちてくる、先ほど空中に飛ばされたささくれPが投げたものだ、ナイフの先端から飛んだ火花がオレンジの閃光となり、焔のように広がる、暖かな光の中から現れた結晶を寄せ集めたような姿の鳥は、光を発しながらみやけさんの元へと飛んでいった。


「上塗り」


よく通る声と共にみやけさんの目の前の空間が塗り潰されたように黒く染まる。

その「塗り潰し」の後ろから伸びる影からあの影が飛び出し、焔の鳥へと噛み付いた。


「やはり来ていたんだね、EZFGくん」


『アンチグラビティーズ』を使い宙に留まるささくれPが呼びかける、影に噛み付かれた焔の鳥は、煌々と光りながら固まり、一つのオブジェのような状態になってしまっている。


「食いつきが浅かった、1分もあれば動き出す」


みやけさんがそう言ってその場から動こうとする、しかしその隙を逃しまいと既にDECOさんとハチさんが飛び出していた。

各々が振りかぶったバールのようなものと金属バットに影が食らいつく、ガチンと固定された武器に対して、2人は力任せにその腕を振るう。


「──バカな」


バリンと音がしてバールのようなものと金属バットがみやけさんへと襲い掛かる、2つの轟音が混じり、辺りに衝撃波が発生した。


「夜の魔物ですら止められないのか……」

「みやけさん、奴らを甘く見てはいけません、とくにハチさん、彼は規格外の塊のような奴です」


砂埃の向こうでEZFGさんの声がする、僕はそっと刀を生成し、砂埃の向こうを睨んだ。


「できるとは思ってませんでしたが、僕らの時間の流れの圧力を高める事ができてなかったらみやけさん今頃ミンチでしたよ」


砂埃が徐々に晴れてくる、みやけさんの前に立つEZFGさんの周囲には、たくさんの気泡のようなものが浮いていた。


「それはともかく、そこに居るのはお尋ね者のナブナ君じゃないかな?」


EZFGさんの言葉と共に彼から見た焔の鳥の向こうの位置から透明な破片が飛ぶ、しかし破片は空間ごと塗り潰されてその場にバラバラと落ちた。


「視界を塞ぐのは愚策じゃないかな? ブレインのEZFGさん」


ナブナさんが挑発する、同時にバチンと音を立てて焔の鳥が動き出した。


「しまった、時間が動き出した」


チリチリと音を立てて結晶を捨てていく焔の鳥、自身の身体が軽くなるに連れて加速するその鳥を「夜の魔物」と呼ばれる影が再び襲おうとするが、全てが上手く躱される。


「Neru君!」


ささくれさんの合図と共に飛び出す、上空から柄杓を持ったささくれさんが同じく彼らの方へと飛び掛った。


「上塗り」


塗り潰された空間に刃を弾かれ、刀が火花を立てて折れる、予測の範疇だ、僕はそのままEZFGさんの頭上に手を向ける、ノイズのような音と共に彼の頭上にギターが現れる、同時にささくれさんの一撃が降り掛かり、EZFGさんが避けた先にギターが落下した、それすらも避けるEZFGさんだが、腕をギターが掠めた瞬間に彼は膝から力が抜けたかのように地面に伏せた。

しかしその後ろに控えていたみやけさんの足元から伸びる影がそこから飛び出す、このままだと直撃だ。


「来い!」


ささくれさんの声に呼応して燕ほどのサイズまで小さくなった焔の鳥が高い鳴き声を挙げて影と塗り潰された空間の隙間を縫って飛んで来る、焔の鳥の光に怯んだ影に追撃を加えるべく、焔の鳥は彼らの側方で旋回した。


「ブッ飛べぇぇぇぇ!!!!」


DECOさんの叫びとともにハチさんとDECOさんが再びそれぞれの武器を振り上げる、向こうも防御の体制に移るが、彼らの動きはガクンと止まる、いや、これは動きが遅くなっているのか──


「僕らの勝ちだ」


後ろから飛んだピノキオピーの声と共にバールのようなものと金属バットが叩き込まれ、同時に無数の透明な破片がいくつも飛んで行った。

ビルの壁面が大きく凹む、DECOさんの正面直線上の砂埃が一気に吹き飛ばされ視界がクリアになった。


「居ない……?」


誰かが困惑の声を漏らす、先ほどまで暗かった空がほんのりとオレンジ色に染まっているのに気付いた僕は、視線の先に3人の人影を見た。


「『同期』が間に合ってヨかったよ」


宙を旋回していた4つの光の玉がスゥと消えて無くなる、オレンジ色の光は強さを増していく、まるで夜明けのように──


「まずい!」


ささくれさんが叫び、勢いよく何かを宙に放る、しかしそれは何も起こさず地面にボトリと落ちて、投げた主人の元へと駆け戻った、彼がいつも連れているカフェオレのような生物だ。


「シュウマツはやってコなかったようだね」


微妙に片言の日本語を喋るその男は手を軽く二回叩き、そして笑った。


「アリス、デバンだよ」


オレンジ色に包まれてた周囲は瞬時に水色に染まり、頭上に巨大な冷凍庫が出現する。


「Neruくん!」


DECOさんが叫び、僕を突き飛ばす、バランスを崩した僕がその時見たのは、金髪の少女がDECOさんを冷凍庫のような容れ物に引き込む、その光景だった。


──────────────────

orangestar

アメリカ在住のボカロP、日本に来て居た時にたまたま異能対策本部に捕まりかけて逃げて来たため帰国できずにいる。

異能

1-アスノヨゾラ哨戒班:4つの星(魁星)を使い自らの周囲を哨戒させる異能。 魁星から見た景色を自分の視界に映し出す事もでき、魁星のある位置まで味方を転送する事もできる。使用時は朝焼けのような光が周囲に発生する。


2-DAYBREAK FRONTLINE:13秒先の事象の確率を揺らがせる異能、固有結界を展開している間は様々な13秒先の出来事を確認する事ができ、見る事のできた未来の結末を揺らがせる事が可能、見逃した未来は変動不可。


3-Alice in 冷凍庫:周囲に気温の低い固有結界を展開する異能。 結界内に居る異能の本体「アリス」の持つ冷蔵庫に幽閉されると脱出が不可になる、異能の本体か異能者本人を倒す事により解除可能。


4-シンクロナイザー:他者と自分のコンディションを同期(=シンクロナイズ)する異能。


みやけ

「ナポリP」として活動するボカロP。

異能

1-不完全な処遇:影を自在に行き来する「夜の魔物」を使役する異能。 夜の魔物が食いついた空間は「時間」が食べられ、一定の時間完全に静止してしまう。


sasakure.UK

異能

8-ウタカタ永焔鳥:ナイフを使い発生させた火花から炎のような光を発する結晶の鳥を生成する異能。 鳥を構成する結晶の量を調節する事で鳥が保有するスペックの変動が可能。


ピノキオP

異能

4-すろぉもぉしょん:標的の動きをスローにする異能。 制限時間は2分とちょっと。

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