track 15-もう1回

「君らが拐ったバックフジ君を探してるんだけど……まぁ大人しく答えてくれるはずも無いよね」


地下道にて対峙した相手は、いやな笑みを浮かべた女性だった。

穏やかな笑みで、日常生活でこの表情を見て敵意を感じる事はまず無いが状況が状況である、その笑みに隠された敵意がとてつもなく不気味だった。


「あなた、私たちの仲間にならない?」

「残念ね! リーダー不在のハチレンジャーでは誰にも人事権は無いの! だから誰も抜けたりしないのよ!」


隣に立つ女子高生が得意げに言う、その前に立って相手を煽り倒している少女がハチレンジャーという遊びを始めた時は嫌そうな顔をしてたくせに、このノリノリっぷりだ。


「元気な子たちね、お世話はさぞかし大変でしょう」

「そりゃまあ」


ハァ? というれるりりの抗議の声を無視して、僕は続けた。


「まぁでも、彼女の言う通り、僕らは誰も欠けるつもりは無いと思うよ」

「そう、じゃあ仕方ないわね、あなたたちは私たちの敵ね」


電子音と共に彼女の隣に1人の少年が現れる、学ランを着たその少年の姿を見たれるりりが「うわっ」と心底嫌そうな声を挙げた。


「知り合い?」

「クラスメイト、あいつの曲なんかドロドロしてて苦手なのよ」


ジリジリと音を立てて空間にノイズを走らせる少年、その背後には無数の文字で形成された顔のようなものが浮かび上がっていた。


「れるちゃん、久しぶり」

「何でアンタがそっちにいるの」


少年は手に持っていた折り畳み式のケータイを閉じる、同時に背後に浮かんでいた文字が移動を始め、カミソリの刃のような形を作り上げた。


「何でって、それは──」

「言い訳無用!!!」


さつきがそう叫んで飛び出す、手には槍のようなものが握られている、会敵時にこっそりれるりりが発動していた『聖槍爆裂ボーイ』を『オリジナリティ』でコピーしていたのだろう。

閃光と爆風が地下道に溢れかえる、れるりりを庇うように立って爆風を「ずらし」た僕はそのまま次の行動に移る、相手が居た周囲に一筋の線を思い浮かべながら指で宙をなぞる、灰色のラインが空中に引かれ、爆風が巻き起こる一定の範囲が囲われる。

すかさずもうひとつの異能を重ねる、39秒、その短い時間を延々と繰り返す異能、普通に使えば自分までも39秒の呪縛に閉じ込めてしまう危険な異能だが、こうして他の異能を使い範囲を指定してしまえば絶対的な拘束として有効な異能になる。


「無意味なのよ」


先ほど槍の爆撃を受けたはずのあの女性が天井に立ち例の嫌な笑みを浮かべていた、まぁこんな簡単に片付くとは思っていなかったさ、と僕はため息をつく。


「これ使うと通信量バカにならないんだよねぇ」


パチンとケータイを閉じる音がすると同時に少年の背後で顔のような形を形成していた文字列が並び替えられ、棺桶のような形に置き換わった。


「僕は探し求めない、見出すだけだ」


れるりりが投げた槍を避け、再びケータイを開く、少年の姿が歪み、れるりりの目の前に瞬時に移動する。

文字列は形を崩し、羽根が生えたハートの形に変わる。


「れるりり!」


僕は叫び、彼女に異能を行使する、位置をずらされた彼女はその勢いでバランスを崩すが、何とか踏みとどまる。

同時に彼女がいたはずの場所にかなりの重量を有したコインロッカーが落下してきた。


「さつき! コイツやっちゃうよ!」


状況を把握したれるりりが叫び、左手を顔に当てる、さつきも同じ動作をしてれるりりと一緒に少年を挟み込む位置に立った。


「私の“魔眼”が疼くわ……」

「ククク……封印を解くのは今ね……」


2人がブツブツ言い始め、右手を大きく振りかぶる、少年はニヤリと笑い再びケータイを開いた。


「「エターナルフォースブリザード!!!!」」


少女たちの手から氷柱が発生し、地面を這い少年に襲い掛かる、既に異能を発動している少年はその場から動こうとしなかった、しかし余裕の表情の少年に対して僕が発動していた異能で、彼の手元のケータイは瞬時に39秒前の状態、つまり閉じた状態に戻る。


「……!」


異能を解除され自分の状況に気付いた少年に、2つの氷柱が直撃し、その場に巨大な氷の塊が成形された。


「なるほど、君を倒さないと全て無意味になるワケか」


天井に座り込み、退屈そうにあくびをする女性を睨み、僕は声をかけた。


「やっぱりただのさんのこの異能面白いね」

「私もお気に入りなの」


「うわっ」というさつきの声が聞こえた瞬間、地下道の向こう側にいた彼女が勢いよく飛んで来て僕の背後の資材置き場に叩きつけられた。


「あの距離を落ちたらきっと大変ね」

「ちょっ──」


れるりりの怒りの声は一瞬でかき消され、今度は彼女がこちらに向かって「落ちて」来る、咄嗟にそれを受け止めた僕はれるりり諸共壁へと飛ばされる。


「エターナルフォースブリザード!」


れるりりの叫び声に反応して地面(だった面)を氷が這い、壁に向かってゆるやかな滑り台のような斜面を形成した。


「あの少年の知り合いだろ、異能について何か知らないのか?」

「ケータイを開くと発動する異能が『パケットヒーロー』、電波に乗って移動することができて異能とか全部透過しちゃうやつ、カミソリの刃が出て来るやつはwowakaさんも何回も見たでしょ、もう一個は知らない!」


れるりりが手短に説明する、そしてそのまま天井、いや、僕らから見た「壁」に立ってこちらを見る女性に視線を移した。


「厄介なのはアイツ、前に1回見たことがあるんだけど、相手の行動を全部「無意味」にしちゃうの」


ズドンと音を立ててこちらに何かが飛び込んで来る、避ける事には僕もれるりりも成功したが、今度は僕の目の前にあの少年が現れる。


「君のせいでれるちゃんに攻撃を当て損なった、恨むよ」


僕の上、今は側方となった位置にコインロッカーが現れる、僕にかかっている重力ではない、地球の重力に従い始めたコインロッカーは僕目掛けて落下を始める。

しかし、ロッカーは落ちてこない、金属が歪む音と共に少年の後方にひしゃげたロッカーが飛んで行った。


「wowakaさん、これ面白いね」


宙に灰色の線を引くさつきが笑う、どうやら無事だったようだ。


「だから、無意味だってば」


先ほど僕らの元に落ちて来た物体、いや、あの女性が言う、僕はすかさず彼女の周囲にラインを引いた。


「無駄よ」


ラインは空気に滲むように消える、しかし想定内だ、むしろ僕の異能を無効化した事はだ。


「僕ら3人の中で最も強い人間は、僕じゃない」


僕の隣でれるりりが音を立てて両手を合わせる、彼女の背中から千手観音のような黒い腕がいくつも現れる。

目の前の女性がれるりりの方に手を翳し、彼女の異能の発動を「無意味」にしようとする、同時に少年も動き出し、彼女にコインロッカーを落とそうとするが、それもだと、僕はほくそ笑んだ。


「残念ながら、そっちも外れ、僕らの『ギルド』の1番は、そっちじゃないんだ」


キュルキュルと音を立てて僕が普段使う数十倍もの『ラインアート』が彼女たちの周囲に現れる。


「私が、私たちの中で1番の誇り高き戦士よ」


さつきが得意げな顔で言って指を鳴らす、ラインはそのまま彼女たちを縛り上げるようにバチンと音を立てて巻き着いた。


「これも『大逆転』に使えるのね」


僕が出した三日月型のグレーのオブジェクトを眺めながられるりりが言う、重力操作が切れて地面に落とされた僕は、服に付いた埃を払い、少女たちの安否を確認する、どうやら目立った怪我も無いようだ。

拘束されたままこちらを睨む女性たちを尻目に、僕たちは地下道の奥へと歩き出す、作戦は滞りなく進んでいるだろうか、僕は遠くで行動をしている相棒のことをぼんやりと考えながら、その道を進んだ。


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maretu

「コインロッカーベイビー」でブレイクしたボカロP、動画のサムネイルが特徴的。

異能

1-パケットヒーロー:折り畳み式のケータイ電話を開いている間のみ発動、使うと背後に文字列で構成された顔のような形のオブジェクトが生成される。 電波に乗って瞬間移動できる。 電波に乗っている間は異能や人の接触等の干渉は受けない。 しかし電波を使うためパケット料金がとんでもない事になるのと、圏外のエリアでは使えないのが難点。


2-脳内革命ガール:使用すると背後に文字列で構成されたカミソリの刃のようなオブジェクトが生成される、使用中に使った「言い訳」は必ず相手を納得させてしまう。 また、オブジェクトを動かし盾として使う事も可能。


3-コインロッカーベイビー:使用すると背後に文字列で構成されたハートに羽根が生えたようなオブジェクトが生成される、恨みを抱いている相手の半径1m以内に居る時に相手の頭上にコインロッカーを出現させる事ができる。


4-ドクハク:使用すると背後に文字列で構成された棺桶のような形のオブジェクトが生成される。 「I can not seek I find」または「僕は探し求めない、見出すだけだ」と言うと判断力が一時的に数十倍に跳ね上がる。


wowaka

異能

2-アンハッピーリフレイン:周りで起きた39秒間の出来事を繰り返し続ける異能。 使うと周囲全体に影響を及ぼすため、異能を止めるタイミングが非常にシビアになってくる。


3-ラインアート:空中に線を引く異能。 線で囲った場所は範囲系異能の範囲を絞るのにも使える他、線の末端同士を繋がないで使えば拘束するのにも使える。


4-ローリンガール:相手が何かを間違うと次々と間違いを連鎖させる事のできる異能、発動時に三日月型のグレーのオブジェクトが生成される。


さつき が てんこもり

異能

3-ネトゲ廃人シュプレヒコール:所属する団体の中で「誇り高き1番の戦士」になる事のできる異能。 味方に強い人がいれば居るほどそれを上回る強さを手にする事ができる。


れるりり

異能

3-聖槍爆裂ボーイ:先端が何かに触れると爆発する槍を生成する異能。 これをコピーしたさつき が てんこもりは槍を持ったまま突撃していたが、厳密に言うとこれは投擲用の槍であって持ったまま突撃することは普通はしない。


4-厨病激発ボーイ:いわゆる「厨二病」のような発言をすることで発動。 「エターナルフォースブリザード」と叫ぶと手から氷の魔術的な何かを出す事ができる。


5-一触即発☆禅ガール:両手を合わせると発動、千手観音のような腕が背中から現れ、自身の実力の上限を底上げする。 別に悟りを開くわけではない。

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