track 13-点と線

「邪魔をするな」


少年が苛ついた声で影の手を伸ばす、しかし彼らの前に現れたカミソリの刃のような文字列に阻まれてしまう、前に一度見た異能だ。


はMARETUさんのものでしょ? 泥棒は良くないなぁ」

「ちょっとしたコネって奴よ、泥棒なんかじゃないわ」


『オリジナリティ』

『ずれていく』


少年の目の前にバットを持った男と少女が瞬間移動する、少女のバットには僅かに青いノイズが走っているように見えるが、男と共に地面に叩きつけたそれは男のものと同等の破壊力を示した。


「離れすぎると位置をずらせなくなる、深追いするな」

「私が中継する!」


少女が手を横に振るとバチバチと音を立ててバットの男の周囲に青い閃光が瞬き、大きく飛び退いた少年の背後に男が移動した。


「捕まえた」


男はそう呟き、バットを首に回し少年をガッチリと捉え、締め上げた。


「ホップ、ステップ」


間髪入れずに少年が歌うように言う、天井にヒビが入るのを見逃さなかった男は少年を手放し、横に大きくダイブした。

次の瞬間、男が居た場所から先が一瞬にして音も無く消し飛ぶ、笑った少年はまた同じように歌う。


『脳漿炸裂ガール』

【電脳狂愛ガール】


文字がダブるように頭に浮かぶ、今まで無かった見え方だ。

ガンと音を立てて少年の真上からシャッターが勢い良く降りる、しかし『こちら、幸福安心委員会です』によって出現した鎌でそのシャッターは細切れにされてしまった。


「それもコネってやつ? 厄介だね」


少年の指パッチンと共に、俺の周囲に光る壁が現れた。


『tell your world』


宙に浮かぶいくつもの点がそれぞれを結び合い、近未来的な光り方を見せるその壁の中は、俺とその目の前に立つパーカー男の2人だけになっている、まずいと思った瞬間にはすぐ背後にナユタン星人さんが現れていた。

チリチリと音を立てて点の集合体が俺の周りを囲う、そして点を結んだその線が俺の周りでグルグルと回転を始める。


ガラスが割れるような音と共に、壁の内側にバットを持った男が乱入する、光の壁は本当にガラスが割れた跡のように破壊されていた。


「僕の異能の壁を破るなんて、さすがハチくん」

「させるか」

「いいや、もう遅い」


ハチと呼ばれた男の目の前に無数のデタラメな線が浮かぶ、バットにも線が巻きつき、男は一瞬身動きが取れなくなった。


「遅いよkz」

「それは申し訳ない」


いつの間にか隣に立っていた少年に、フードの男は無機質に返事をする。

周囲に浮かんでいた線が収束し、俺にキツく巻きついた。

透けた壁の向こうでささくれさんたちが壁を突破しようとする姿が見える、後ろから肩に手をかけられると同時に、目の前がジワリと赤く滲み始める。


「た、助け──」


声を挙げる暇も無く、赤い光に包まれ、俺は……


──見知らぬ廃屋に、立っていた。


* * * * *


荒れ果てた屋内に取り残された僕たちは、その場に呆然と立ち尽くすしかなかった。


「俺が……失敗……?」


ハチさんが震える声で呟いた。


「今回の救助対象はkemu君だった、君は充分やったよ」


彼と一緒にいた眼鏡の青年が肩を叩いた。

救助された当の本人は、ささくれさんの隣ですっかり伸びていた。


「なるほど、洗脳されていたんだね」


彼の異能である『ポンコツディストーカー』を解除して立ち上がったささくれさんが呟いた、本人は少し気分が悪そうな顔をしている。


「少ししたら目を覚ますと思うよ、バックフジ君が連れ去られた先は彼がきっと知ってるはず……」

「洗脳か、注意深いkemu君がここまでガタガタな戦い方をするのはおかしいと思っていたが、正常な判断を失っていたなら納得だな」


僕はグッタリするkemuさんの側に立ち、彼を見下ろした。


「だったら、この人たちの拠点の場所も覚えているか微妙ってことですよね」


ボソリと呟く僕に対して、ささくれさんが無言で頷いた。


「助けを求める声も聴こえない、よほど遠くにいるか、何らかの形で俺の異能をすり抜けているんだろう」

「きっとEZFG君だ、救難信号を『上塗り』しているんだろう」


ハチさんとwowakaさんの話す声が聞こえる、ヒーローたちも手詰まりらしい。

目の前でうめき声を上げるkemuさんの前に、僕はしゃがみこんだ。


「ここは……どこだ……?」

「ささくれさんたちの活動拠点だった場所です」


焦点が合わなかったkemuさんの目が僕を捉えた。


「俺がやったのか……」

「君は洗脳されていた、予め避難も終わっていたし君が気に病む事は無い」


kemuさんの言葉に対して答えに詰まる僕の様子を見ていたピノキオピーが後ろから言う。


「kemuさん、うたたPに何言ったの?」


ナブナさんだ、作戦前はしれっと着いてきていたのに今までどこにいたのだろうか。


「流石にやりすぎだとは言った、アイツは独裁が過ぎるんだ」

「なるほど、ちなみに、君の最後の記憶の日付は?」


kemuさんは2ヶ月前の日付を口にする、ナブナさんはこちらを見て首を振った。


「うたたPの居場所を聞き出そうとしてたんだろうけど、これじゃ無駄だな、アイツは常に拠点を変え続けている」

「じゃあ、どうすれば」


彼はニヤリと口の端を歪ませ、そっぽを向いた。


「見る力を持ったあの男を手に入れたら、まずどうする? 答えは簡単、使い勝手のいい異能を持った人を選んでカサイケンや隔離施設から解放し、仲間に引き込む、つまりそういった施設に先回りすればいいってことだ」


乗り込む必要は無い、と付け足して階段を降りようとする彼を、ピノキオピーが引き止めた。


「待ってよナブナくん、いやに協力的じゃないか、何のつもりだい?」

「理由はユリに訊いてくれ、コイツがあの男をどうしても助けたいと言うから俺は動いている」


ナブナさんの後ろに1人の少女がフワリと降り立つ、異能で生まれた異能の本体のようなものだろう。

彼女を見て何故か背筋がゾワリとする、目があった少女はこちらに近付き、様子を見るように手首や首筋に触れてきた。

少女はコクリと頷き、僕から離れる。

一言も言葉を発していないが、何か心配をしてくれていたのだろうか。


「急ぎたいところだけど、作戦会議は新しい拠点に戻ってからだね」


ささくれさんが頭を押さえながら言う、辺りからため息がいくつか聞こえてきた。


「俺にも手伝わせてくれないか」

「ハチくん、どうしたんだい急に」


異能が解除されて黒くなった髪を掻きながら言うハチさんを隣の青年や少女たちが意外そうな目で見つめていた。


「助け損ねたまま放っておくヒーローは居ない、他に理由は無い」


頼もしい味方ができたなと笑うJunkyさんに肩を叩かれ、僕は歩き始めたささくれさんたちの後を追った。


─────────────────────

うたたP

異能

3-ホップ!ステップ!即死!シアワセダンスデストラップ:「ホップ、ステップ、はい即死」と唱えると目の前の人に回避不能正体不明の即死攻撃をする、唱え切る前なら避けれるが、よほどの反射神経が無いとまず無理。


kz(livetune)

テクノ風の曲が特徴のボカロP。

異能

1-Tell your world:空中に点を描画する、点と点を結んでできた物は実体化させることが可能、壁を生成したり相手を捕縛したり、時には武器として使うことも。


さつき が てんこもり

異能

2-オリジナリティ:その場で見た異能を自分の異能として使うことができる。 ただしその場で見る必要があり、過去に見たからといって何でも使える訳では無い。 異能を使える一定の容量が決まっている。


???????

異能

?-電脳狂愛ガール:れるりりの「脳漿炸裂ガール」にて引き出された異能。 周囲の電子機器を自在に操る事ができる、セキュリティに侵入すれば防火シャッター等の操作も可能。

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