第32話 正夢

 ㅤそういえば、星の人と別れてから思い出したけど、この封筒の住所の仕組みは、完全に誰か来てくれること望んで作られてるよな。


 ㅤやっぱり星の人は会いたかったんだ。それがワタシでよかったのか謎だけど。


 ㅤそしてこれからワタシがやらなきゃいけないのは、メッセンジャーだな。新たに受け取った手紙もそうだけど、おババに色々と伝えなきゃ。


 ㅤそれに何か、幼き頃にした無礼も謝りたいなぁ。とにかく急がなきゃ。

ということで、宙港に戻ってきて、自分の宇宙船へ帰ってきた。早速出発しようと思ったけど、スペースメールに新たなメッセージが届いてることに気づく。


「おババが倒れました。できたらなるべく早く戻ってきて」

 ㅤお母さんからのメール。そんな。ついこないだカレーがどうとかいう能天気な内容送ってきてたのに。無事なのかな。さすがに、こんな寂しい結末はないよね。伝えなくちゃいけないこと、いや、ただ伝えたいことがあるのに。


 ㅤワタシは急いだ。かつてこんなに急いだことはないというくらいに。隕石なんか軽く避けて、安全は守って、だけど自分の星まで飛ばして行く。


 ㅤワタシが生まれた星はあそこだけ。地球じゃない。おババやおジジ、お父さんお母さんたちが宇宙の中で結ばれて、生まれてきたのがワタシなの。

 ㅤだから、急がなきゃ。


 ㅤ病院につくと、おババは眠ってた。一命は取り留めたようだけど、あまり具合はよくないらしい。


 ㅤ本当はワタシが旅立った頃から体調があまり優れなかったって。心配させないために無理してたって。


 ㅤでももう、限界に近いから、お母さんがワタシを呼んだ。


 ㅤそしておババは入院することになった。おババと会うには会えたけど、まだ話は出来ていない。何とか星の人の気持ちを伝えたかったけど、それどころではなくなってしまった。


 ㅤそれでも元気になることを信じて、お父さんお母さんより暇なワタシは、毎日病院へ通って同じ時間を過ごした。


 ㅤそんなある日。おババが目を覚ました。そのとき、病室はワタシとおババの二人きり。


「おババ、聞こえる?」


 ㅤ目は開いているけど、声は聞こえない。とりあえず先生を呼びに行こうとしたけど、そのとき、おババの手がわずかに動いて、ワタシの手に触れた。


「おババ、おババ。大丈夫なの?」


 ㅤ今度は首が縦に動いたように見えた。ああ、良かった。おババは、きっと助かったんだ。でも、さっき、ワタシの手に触れたのは何で。


 ㅤおババはそのまま、真っ直ぐワタシの目を見てる。そのとき、何かを感じた。ワタシは咄嗟とっさに、全ての段取りをすっ飛ばし、星の人から受け取った最新の手紙を読み上げることにした。



 ㅤマァちゃんへ。お元気ですか。僕の方は、元気です。色々取り違えがあって、お孫さんが僕の元へ来てくれました。一度違う星で会いましたが、マァちゃんによく似ていて、可愛いなと思っていました。

 ㅤマァちゃんと離れることになったとき、僕はキミの幸せを願いました。その願いについては、叶ったんじゃないかなと、小さなマァちゃんを見て、そう思いました。


 ㅤ僕はいつも、チビリ屋でしたね。キミの方が、うんとカッコいい人でした。そんなところに惹かれた部分もあると思います。

 ㅤ今はお互い、老人同士。これからの時間より、思い出の時間の方が多いかもしれません。だけど最後に、戯言たわごとだと思って言わせてください。マァちゃん、これからもずっと、愛してます。



 ㅤ何か、最初の方、ワタシが読んでて恥ずかしかったな。って、おババ寝てる!?ㅤ目を閉じてる!?ㅤヤバイよ、ヤバイよ、先生!


 ㅤ大慌てで先生を呼びに行くと、


「安らかな顔で、ガチで眠られていますね」


と言われた。普通に息してた。それが何よりだ。そして、どことなく笑顔のように見えた。窓から差し込む光が、おババを照らしてた。きっと夜になると、星の光がおババを照らすだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る