第18話 待合

 ㅤいよいよ卒業検定の日。待合室で一人座っていると、ラ・イバルくんが隣に座ってきた。


「よ、久しぶり、元気か」


 ㅤラ・イバルくんの方は相変わらず元気そうだった。ワタシは少しお腹がキリキリする。


「何だよ、緊張してんのか?ㅤ大丈夫だって、普段の力を出せれば。ま、あのときのお前の力じゃ不合格だろうけどな」

 ㅤそう言ってハハハと豪快に笑う。ちょっとうるさいって。いつもかぶってるベースボールキャップも脱げるほど体を反っていた。


「ラ・イバルくんだってあのときの様子じゃマズイよ」

「何がマズイんだよ。スタートダッシュから完ぺきだったじゃねぇか」

「でもバツを打たれてたでしょ」

「アレは教官の嫉妬さ。教官が教えることなさすぎて嫌がらせしてるのさ」

 ㅤダメだコイツ、早く何とかしないと……。そう思ったけど、たぶん言っても聞いてくれないので話題を変える。


「ラ・イバルくんはどうして免許取りに来たの」

「イバルでいいよ」

「じゃ、イバルくん」

 ㅤするとイバルくんは一度立ち上がり、窓の向こうに広がる訓練コースを遠い目で眺めてから、座り直した。

「で、何だっけ」

「だから、ここに来た理由」

「そんなの簡単さ。ここに免許があるからさ」

 ㅤダ、ダメだコイツ、早く何とか……。

「嘘さ。それなりの理由があるのさ」

「それが何か聞いてるんですけど」

「オレには親がいねぇのさ。どうしてそうなったのか知らねぇが、気付いたときからさ」

 ㅤそう隣で目をそらしながら話す姿は少しだけ寂しげに見えた。

「だから探すのさ。何を探すかなんてわからねぇ。親?ㅤ 親戚? ㅤ違うかも。とにかく探すってことをしてぇのさ。広い世界に飛び出して」


 ㅤ何か、ワタシと一緒だ。ワタシも目に見えないものを探そうとしている。確かに感じるけど、不確かな存在を探している。イバルくんとワタシは、その点同じかもしれない。


「お前はどうなんだ。ええと」

「マァちゃんです」

「マァちゃんはよ」

 ㅤうぅん。何と答えようかな。

「あなたと理由は違うけど、似たようなもんです。ワタシも、探したいんです」

「そうか、一緒だな」

 ㅤ何か初めて、目と目が合った気がした。

「イバルくん」

「何だ」

「あなた、動き出すとき、毎回宙返りして一度失神するから、気をつけてね」

「はあ? ㅤ……あぁ、そうなの」

 ㅤイバルくんは何か察したのか、少し大人しくなった。


「イバルくん、マァちゃんさん。卒検始めますよ」

 ㅤ後ろから教官の声がして、二人で「はい」と声を出し立ち上がった。

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