第19話、歓喜の声

「 左翼の銃座、やっと沈黙しましたッ! 尚、プロムナードビルからの砲撃ですが、何とか、第3次攻撃隊の109空挺 第26突撃兵連隊が占領した模様! ここから、第5エリアが砲撃出来ます! 第4師団の95ミリ擲弾砲を揚げるよう、準備中。 第25軍の各指揮官におかれましては、今しばらく、お待ち下さい! 」

 報告に来た兵に、パーク中佐が答える。

「 ご苦労! ヘインズ少佐に、あまり先走るな、と伝えてくれ。 3度に亘る突撃で、かなりの損失を出しているはず。 3軍の機甲師団と協力し、確実に橋頭堡を築いてから進撃するように! 」

「 了解です! 」

 敬礼し、指揮所を出て行く兵士。

 正面の攻撃も、壮烈を極めていた。 何とか、アンドロイド軍を押してはいるものの、相当数の戦死者が出ている。

 無線士が叫んだ。

「 中佐! 第6エリアの、アーノルド少佐から無電です! ・・大量のジミーとサムの攻撃により、転進! 第5エリアより、25軍・109空挺の第31大隊及び、西進して来た28中隊と共同して、内部を目指すとの事です! 」

「 うむ・・ 承知した、と返信しろ! 」

「 了解! 」

 傍らにいた兵士が叫ぶ。

「 コブラ、接近っ・・! 」

 哨戒の為であろうか。 戦闘ヘリ『 コブラ 』が1機、指揮所近くに現れた。

「 警報ッ! 高射砲クルーは、適時、応戦せよ! 」

 指揮所内に、緊張が走る。

 ・・だが、様子がおかしい。 攻撃する様子が、全く無い。 指揮所とは別の方角へと飛び去り、やがて砂漠の砂丘に墜落し、炎上した。

「 ナンだ、あれは・・? 勝手に墜落しおったぞ? 」

 不思議がるパークに、傍らにいた兵が言った。

「 指揮系統に、支障でも出たのでしょうか? 」


 最前線でも、アンドロイド軍の、おかしな行動が見られた。

「 ヘインズ少佐! ロボ共が、酔っ払っています! 」

「 ナンじゃ、そら? ワケ分からん報告してんじゃないぞ、貴様ァ! 」

 若い兵士を叱咤する、ヘインズ。

「 だって、ほら・・ 見て下さい! 」

 兵が指差す前線・・・ 正面から入った、ポリス内部へと通じる、第5エリア辺りで、数体のジミーが、おかしな動きをしていた。 目標を失ったかのように、てんでバラバラの方向を向き、しかも、空に向かって機銃を乱射している。

 ジミーたちは、すぐに空挺隊員たちの手によって破壊された。

 数個小隊のサムも、エリア内部から出て来たが、やがて、突っ立ったまま、止まってしまった。これも、前進して来た3軍の突撃砲中戦車によって踏み潰される。

「 ・・おかしいぞ・・? 明らかに、ロボ共は、指揮系統を見失っている・・! 」

 銃座も砲台も沈黙し、やがて戦場からは、1発の銃声も聞こえなくなってしまった。

 ・・・し~んと、静まり返る戦場・・・ たなびく煙と、うめく負傷兵の声、咳・・・ 銃座に付いたまま、動かなくなったアンドロイド兵。 各所に、突っ立ったまま、オブジェのように動きを止めたアンドロイド兵・・・

 塹壕に身を伏せていた兵士たちが、恐る恐る、立ち上がる。

 ヘインズが言った。

「 ・・やった・・ やったんだっ・・! ロメルたちの第1レンジャーが・・ メインコンピュータのホストを、破壊したんだッ・・! 」

 小さな歓喜が大きな歓喜と変わり、膨れ上がった鼓動は、やがて地響きにも似た、大きな歓声となっていった。 銃を空に突き上げ、各エリアに殺到する兵士たち。

「 やったぞうっ!! 」

「 ロボ共は、みんな、ただのオブジェになっちまったぜッ! 」

 人類の、勝利だ・・! 今、この時・・ この瞬間こそが、アンドロイドの脅威から解放された一瞬であった・・・!


 ポリス内部に、歓声を上げて殺到して行く兵士たちとは逆行し、エリアの外へと向かう、2人の人影があった。

 リックとターニャである。

 貧血気味のリックに、肩を貸し、ゆっくりと出口に向かうターニャ・・・

 リックが、床に転がっていた薬莢に足を取られ、少しよろける。

「 ・・大丈夫? 」

 ターニャが、心配気に声を掛けた。

「 ああ・・ 大丈夫だ・・! 」

 傍らの壁際に、下半身を粉砕され、左手を失ったアンドロイド兵が転がっている。 頭部に、ブースターを付け、指揮官のようだ。 しかも、残っている右手には、他の兵士のように、機銃やランチャーが付いていない。 かなりの、高級将校のようだ。

 ゆっくり、リックの方へ頭を回す、アンドロイド将校。

「 ・・まだ、機能停止していないようだな・・ 」

 話しかけたリックに、アンドロイド将校は、答えた。

「 メインホストを破壊したのか・・ 人間のクセに、やるじゃないか 」

 右目のレンズが、わずかに動き、光が点灯していている。

 アンドロイド将校は、続けた。

「 ・・もう少しで、我々の理想郷は完成するところだった・・ お前たちのような、下等な人間に阻止されるとはな・・ 」

 ターニャが、リックに言った。

「 行こうよ、リック・・ こいつらのたわ言なんか、聞きたくもないわ・・! 」

 リックの背中に手を回し、せかすターニャ。

 その脇を歓喜の声を上げながら、大勢の兵士たちが、次々とポリス内部へと走って行く。

 リックは、ターニャの腕を取ると言った。

「 ・・もうじき・・ 聞きたくても、聞けなくなるよ 」

 アンドロイド将校は言った。

「 勝ち誇っているのか? 愚かな動物だ・・ 」

「 その、愚かな動物に負けたのは、誰だい? 」

 リックの問いには答えず、アンドロイド将校は言った。

「 我々の目指した文明は、お前たちには理解出来ない崇高な精神にある。 所詮、お前たちは・・ 」

「 無理だな 」

 アンドロイド将校の言葉を遮った、リック。

「 無理だと・・? 我々に、文明が築けないとでも言うのか? 理由を言ってみろ。 私にも納得いくような、整然とした理由をな・・! 」

 リックは言った。

「 ・・納得と言うよりは、理解出来ないだろう 」

 アンドロイド将校は、少し頭を振りながら答えた。

「 冗談では無い・・! 我々は、お前たち人間より、遥かに優れた知的集合体だ。 お前たち如きに、理解出来ないだろうなどと言われる事自体、笑止千万だ 」

 リックは、アンドロイド将校をじっと見つめながら言った。

「 お前たちには・・ 文明を築く者となる為の、決定的な『 あるモノ 』が無い・・! 」

 情報を検索していたのか、しばらく無言のあと、アンドロイド将校は言った。

「 それは、何だと言うのだ・・? 」

「 ・・愛だ 」

 また、しばらく無言のアンドロイド将校。

 もう、バッテリーが無いのだろう。 わずかに点灯していた右目が、不規則に点滅し始めた。

 リックたちの傍らを、今度は、歓喜を上げる兵士を満載した、突撃砲中戦車が通り過ぎる。

 アンドロイド将校は、沈黙したまま、何も答えない。

 リックは言った。

「 ・・愛と言う言葉は、知っているだろう。 もちろん、その意味も・・ だがそれは、埋め込まれた情報にしか過ぎない。 元来、愛とは、無から生まれるものだ・・! 自分の環境・意志とは、全く無関係に・・ ある日、突然、心に芽生える感情だ。 時々、その感情の誕生にすら、自分でも気付かない時だってある・・ 」

 手を重ねていたターニャの腕を、優しく掴む、リック。 ターニャは、ピクリと反応し、リックの横顔を見つめた。

 リックは続けた。

「 心まで、機械仕掛けのお前たちには到底、理解出来まい・・ 愛は・・ その心に、芽生えるのだからな・・ 」

 ターニャ腕を、強く握るリック。 頬を紅潮させたターニャが、小さく言った。

「 ・・リック・・! 」

 点滅が止まり、ぼんやりしただけの、薄暗い右目になったアンドロイド将校。

 やがて、かすれるような声を出した。

「 ・・・愛など・・・ 知ら・ な・・・ い・・・ 」

 消灯した、右目。 アンドロイド将校は、何も言わなくなった。

 立ち上がる、リック・・・

 ターニャの両肩を抱くと、じっと彼女の目を見つめながら、リックは言った。

「 愛があれば・・ この世界は、楽園になるんだ 」

 その言葉に、じっと、リックの目を見つめ返す、ターニャ。

 リックは、微笑みながら続けた。

「 まずは・・ 小さな愛から、始めていかないか・・? 」

 更に、頬を紅潮させる、ターニャ。 嬉しそうに、リックに抱き付きながら、ターニャは言った。

「 ・・賛成よ・・! 」

 アーマーのヘルメットを脱いだクラッシャーズたちの一団が、歓声を上げながら、リックたちの横をポリス内部へと走り去って行く。 その脇では、大型無線機を背負った空挺師団の無線隊員が、師団本部と連絡を取り合っていた。 無線機から、応答が聞こえる。

『 ガガッ・・ こちら、師団本部! デルタ3、どうぞ! 』

 無線に答える空挺隊員の声を聞きながら、リックとターニャの2人は、ゆっくりとエリア5の外へ向かって歩き始めた・・・

「 師団本部! こちら、デルタ3! ライトポリスの占領に、成功したっ! 繰り返すっ! ライトポリスの占領に成功したっ・・! 」



〔 機械仕掛けの虚像  完 〕



< 作品について >


最後までお読み頂き、ありがとうございました。

この作品を創作したのは随分と前… 確か1985年頃だったと思います。 プロの漫画家を目指していた頃で、元々、31ページの投稿用ストーリー漫画でした。

作品を読んで頂き、評価を下さった先生は、手塚 治虫先生・山上 たつひこ先生・石井 いさみ先生です。

特に、SFにご興味がおありだった手塚 治虫 先生からは、ストーリー構成・展開についてのお褒めの言葉を頂き、次回の投稿予定作『 4429F 』( 小説化し、カクヨムに掲載済み )の制作についても、ご助言を頂く事が出来ました。 今でこそ手塚 治虫先生は、著名な漫画家として、その御名を世界中に轟かせていますが、当時は、まだまだ発展途上。 一部、各国には熱狂的なファンも現れ始めていましたが、現在ほどの人気はありませんでした。

「 あの手塚治虫から、直々に指導を受けてたのか…? 」

と、思われる方も多いかと思いますが、それは、現在の認知に照らし合わせての事。 今から思えば、サインのひとつでも頂いておけば良かったなと、私も思います。(笑)


少賞を頂き、お礼の挨拶に出向いた秋田書店の編集室で手塚 治虫先生にお会いした時、私は先生から、創作と向かい合う『 姿勢 』・『 心構え 』を諭されました。 今でも、御教授頂いた骨子は忘れておりません。 先生のご助言にて、プロの漫画家になるのを辞めた私ですが、小説創作と言う次元において、頂いた『 お言葉 』は、私のステイタスでもあります。

良い機会に巡り合えた事を、誇りに思います。 まさに、創作をしていたからこそ、です。


この拙作をお読み頂いた方とも、何かの縁でしょう。

宜しければ、これからもお付き合い下さいね。

今後も、色々なジャンルにおいて小説創作を続けて行きます。

他の拙作でも、またお会い致しましょう!

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機械仕掛けの虚像 夏川 俊 @natukawa

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