第18話、情報戦

 辺りを警戒し、少しづつ歩を進めるマック。 ターニャは、マックのアーマーの陰に隠れながら、マックと一緒に足を進めた。

 数歩を歩くと、先ほどの、ポーンというセンサーの感知音がし、ビームライフルが発射された。

「 ・・・! 」

 アーマーに弾かれ、飛び散る火花。 何本もの、赤い光線が目の前をかすめて行く。 約、1200度の熱線である。 当たれば、生身の体など、ひとたまりも無い。

飛び散る火花、髪の焦げるニオイ・・・!

 マックが言った。

「 私の陰にいれば、大丈夫です! ゆっくり行きましょう、お嬢さん・・! 」

 首をすくめ、マックに抱き抱えられるように進むターニャ。

 コントロールパネルに到達すると、ビームライフルは沈黙した。

「 スリル満点だったろ? ターニャ 」

「 ・・もう・・ もう、やらないかも・・ 」

 リックの問いに、青ざめた表情ながらも、笑顔で答えるターニャ。

 パネルの下を指差し、リックが指示をする。

「 そこから入るんだ。 頭を先にして・・ そう。 どうだ? イケそうか? 」

「 大丈夫よ。 あたしなら・・ よいしょっ、イケる・・! ドコなの? その、サブ何とかって 」

 上半身を隙間に入れながら、ターニャが聞いた。 マックが、ターニャをかばうように隙間の入り口に覆い被さる。

 リックは答えた。

「 このメインホストは、アンドロイドが作ったものだ。 だが、知識は元々、人間がインプットした情報・・ 構造物も、俺たちが制作する形態に近いはずだ。 そこから視察して、サブターミナルは・・ 太い回線の束が3つの方向から合流しているボックスだ。 コッチのモニターには、受信回路が確認出来るようになっている。 多分、近距離用の小さなアンテナが、3つ出ているはずだ 」

「 ・・あるわ! 多分、コレじゃないかしら・・! アンテナが、3つ出てる・・! 」

 すっぽりと体を潜り込ませ、ホスト本体の中からターニャは答えた。

「 よし・・! カバーを開けてくれ。 交換器が、3つあるはずだ。 見えるか? 」

 キーボードを操作しながら、リックが言う。

「 あるわ! 何か・・ リレーが、カチカチと動いてる・・! 」

「 どれでもいい。 指先で、そのリレーを摘んで、止めてみてくれ 」

 リックが見ているモニター上の、受信回路の1つが、レベルダウンする。

 リックが言った。

「 OK~! コイツだな・・? ターニャ、その交換器に、ナンバーは刻印してあるか? 」

「 ええっと・・ ナンバー、ナンバー・・ あ! あるわよ! D2と刻印してある 」

「 ようし、偽装情報は、D2からに決定だ・・! 」

 キーボードを操作し、D2のウインドウを開くリック。 画面一杯に乱数表の如く、数字や記号が表示される。 事態を見守っていたリベラが言った。

「 ・・何のコトやら・・ 私には、さっぱりですな・・! 」

「 今、これらの情報が流れているんだ。 数字や文字の、1字1字が意味を持っている・・ サブターミナルにある3つの交換器の内のひとつを遮断すると、もっと大量の情報が、この2つのサブターミナルに集中する 」

「 つまり・・ オーバーフロー状態に、なるわけですね? 」

「 そうだ。 パンク寸前の状態で、再び交換器を作動させると緊急回路が作動し、とりあえずチェック無しで情報流通に復帰させるはずだ。 そこで、前もって作成しておいたワケの分からない偽装情報を、そこから流す 」

 頷く、リベラ。

 リックは続けた。

「 当然、ホストは拒絶する。 交換器を止めるはずだ・・! シャットアウトされた交換器は、無防備。 その情報モデムに侵入して、主回路のパスワードを奪取する 」

「 なるほど・・! そのパスワードで、今度は通報回路から、大々的に偽情報を流すワケですな・・! 」

「 そう言う事だ・・! 通報回路を通して、情報回路へね。 理解出来ない情報を受信したアンドロイドたちは、どうして良いのか分からなくなり、自らを情報回路から遮断し、閉鎖する・・ つまり、動かなくなるのさ・・! 」

 ホストの中から、ターニャが言った。

「 あたしは、何をすれば良いの? 」

 キーボードを操作しながら、リックが答えた。

「 合図したら、さっきみたいに、リレーを止めてくれ。 その間、コッチで偽情報を作成しておく。 次の合図で、リレーを放してくれ 」

「 OK! カンタンね! 」

「 問題は、その後だ。 偽情報を流したD2は、ホストに拒絶され、回路から遮断される。そこに侵入して、パスワードを奪取するが・・ そのパスワードには、有効時間がある。 多分、30秒そこそこだろう。 いちいち、情報回路から入っていたんでは、間に合わない。 離脱された交換器から直接、アクセスしたいんだ 」

ターニャが言った。

「 ・・つまり、交換器・・ D2の配線を、どこかにつなげろってワケね・・? 」

「 そういう事だ・・! 無理やり、システムにつなげてアクセスするんだ 」

 また、出血して来た上腕を押さえながら、リックは続けた。

「 ターニャ、サブターミナルに集中している3つのコードの束の中に・・ 黄色と黒の、斑のコードが含まれている束は、無いか? 」

「 ・・ええっと・・ あるわよ? 1本だけ 」

「 そいつが、主回線だ・・! 辿って行ってくれ。 大きなボックスがあるはずだ 」

「 ちょっと待って・・ね・・? よいしょっ・・ と・・ 」

 ホストの中を、更に入る、ターニャ。

「 ・・あるわよ、リック! 」

「 開けてくれ。 基盤が、沢山あるはずだ。 その中に、丸くて3センチくらいの半導体がある。 幾つか、あると思うが・・ CPと刻印が打ってあるはずだ 」

「 四角で、CUっていうのなら、あるケド? 」

「 そいつは、違う! 触るなよッ・・? 感電するっ! 」

「 ・・わ、分かった・・! あっ・・、あった! CPって刻印してある! でも・・ CP1から・・・ 5まで、あるわよ? 」

「 CP1が、サブ用だ。 交換器からの情報を整理している。 その半導体から出ているコードが、あるだろう? 」

「 あるわ。 白と赤、黄色の3本よ 」

「 ・・ようし、いいぞ・・! CP1の近くに、4センチくらいの四角い半導体がある。 刻印は・・ CZだ。 そこから出ている赤コードを切断し、さっきの、CP1の赤をつなげるんだ 」

「 ・・CZ・・ あったわ! これを、30秒以内ね? 分かったわ、任せてっ! 」

「 実際には、キーボードを操作する時間が要る。 まあ、20秒くらいだな。 イケそうかい? 」

 ターニャが、元の位置に、腹ばいで戻って来て答えた。

「 サブターミナルから、主回線ボックスまで1メートルくらいよ? 大丈夫! 」

「 ようし・・ 早速、やるか・・! 時々、目まいがする。 ブッ倒れる前に、片付けんとな・・! 」

 キーボードの周りは、出血した血で、真っ赤だった。

 リベラが言った。

「 また、出血が酷くなって来たようです・・! 中尉、このキズは、止血剤では納まりません。 一刻も早く、手当てをしないと・・ 」

「 分かっている・・ だが、やらねばならん・・! 伍長。 もし、俺がフラっとして来たら・・ その止血剤を塗りたくるか、頭を殴るかしてくれ・・! 」

「 了解です・・! 」

 扉の向こう側で、成り行きを見守っているペレスたち。

 デビーが、ぼそっと言った。

「 ・・やっぱ、オレ、行かなくて良かったっスね・・ ボックスだの、配線だの・・ ワケ分からんっスわ 」

 その時、ペレスたちの後方で物音がした。 後方にいた兵士の1人が叫ぶ。

「 ジ・・ ジミーだッ! 複数体が、降りて来るッ・・! 」

「 応戦しろッ! この階には、絶対に入れるなッ・・! 」

 ペレスは叫びながら、階段付近に機銃掃射を加えた。 1体のアンドロイドが、鉄階段を転げ落ちて来る。 数本見えたアンドロイドの足が、慌てて、階上に引き上げられた。

 フーパーが叫ぶ。

「 やれえッ、リック・・! オレたちに構うなッ! 連中の、息の根を止めろォッ! 」

 もう、一刻の猶予もならない・・!

 リックは言った。

「 リレーを止めろ! ターニャ! 」

「 分かった・・! 」

 モニターの、D2レベルが下がる。 キーボードを操作する、リック。 モニターの警告表示が、イエローに変わった。

「 偽情報、準備OK! リレーを放せっ! 」

 幾つかのウインドウが開かれ、偽情報を含んだ交換器が、システムに復帰する。

 途端、警告表示がレッドとなった。

「 拒絶されたぞ! 侵入を開始する! ターニャ、移動しろッ・・! 」

「 OK・・! 」

 その時、ホストの中で異音がし、プシュッという、エアの抜けるような音がした。

「 ・・あっ・・! 」

 ターニャの声。

「 どうしたっ・・? あっ・・! くそうっ! 防御システムだなっ? こんなところに・・・! 」

 モニター上の回線図に、赤いカーソルが出現し、点滅している。

 リベラが尋ねた。

「 ・・ど、どうしましたっ? 中尉! 」

「 異常を感知した防御システムが、ボックスを外部から遮断したんだ! 小さな隔壁が閉まっている・・! ターニャ! 移動出来たかっ・・? 」

「 足を・・ 足を挟まれて、動けないっ・・! ボックスまで・・ 手が届かないっ・・! 」

 ・・万事休す・・!

 交換器とボックスの間から出て来た隔壁に、ターニャは、足を挟まれてしまったらしい。

「 ぬ・・ 抜けぇッ・・! 何とか、抜くんだ、ターニャ・・! 」

 握り締めた拳で、パネルを叩きながら叫ぶリック。 後の、扉の向こう側では、激しく銃声が響いている・・!

 ターニャは言った。

「 CPには・・ CPには、片手が届いて・・! 配線は、引っこ抜いたわッ・・! だけど・・ CZには・・! ああ・・ もうちょっと・・ もうちょっとなの・・! 」

 キーボードを操作しながら、叫ぶリック。

「 パスワードの奪取は、成功したっ・・! 有効時間が・・ 有効時間は、あと24秒だ・・! 早くしてくれっ、ターニャ! 」

 モニター上に、パスワード有効時間のカウントダウンが表示された。

 もし、カウントが『 ゼロ 』になったら・・・ CPの配線は、切断されている。 しかも、隔壁は、完全に閉まっていない。 間違い無く、侵入者の警告が認知される事だろう。 更には、超重磁力爆弾の弾頭も、連動しかねない・・・!

「 ターニャ! 」

 キーボードを操作し、情報回路に流す偽情報を待機させながら、再び、叫ぶリック・・!

 カウント、残り18秒。

「 このっ、このっ! 」

 マックが、隙間に足を突っ込み、ターニャの、軍靴の足の裏を蹴った。 カウントが、15を切る・・!

「 ・・ダメ・・! 届かない、リック! 届かないよぉ・・! 」

 涙声で、ターニャは言った。

「 諦めるな、ターニャ! 諦めない努力こそ、人間の証しだッ・・! 諦めるなァーッ! 」

 カウント8秒。

「 リックうぅーッ! 」

 その時、ターニャの足が、軍靴からスポッと抜けた・・!

「 ぬ・・ 抜けたあッ・・! 抜けた、リック・・! 」

 CZの赤コードを引きちぎり、持っていたCPのコードをクロスさせる、ターニャ。

 カウント4秒・・!

「 エンターを押してッ・・! リック! 早くうぅーッ・・! 」

 パンッ! と、リックの指により、エンターキーが弾かれる。

 モニター画面には、あらかじめ作成しておいた偽情報の文字が、表示された。


 『 LOVE 』


 途端、巨大なホストコンピュータ内部から、ガーガリガリ・・ カリカリカリ・・・と、異音が、聞こえ始めた。 ハードディスクが、作動しているような音である。

 隔壁を蹴り続けていたマックが、隔壁を蹴り破った。

「 ・・さあ、お嬢さん。 どうぞ・・! 」

 マックの手に引かれ、ホストの外に出て来たターニャ。

「 ど・・ どうなったの・・? 間に合ったの・・・? 」

「 ああ・・ 間に合ったと思う・・! まだ、稼動中だが・・ 聞こえるか? あの音・・ 情報が、錯綜しているぞ・・・! 深層データの初期化が始まっているようだ・・ ホストセイバー自体が、混乱をきたしている・・! 」

 リックは、ターニャの肩を抱き、震えるように振動し始めた巨大なメインコンピュータを見上げた・・・

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